第99話 玄冬のリネラ
リネラはライラとルルの顔を交互に見て言う。
「どちらから来る?それとも2人同時が良いかしら?」
ライラが腕を回し、意気揚々と行こうとした時。
「私から、行く。」
ルルが前へ出た。
「なっ・・・」
拍子抜けしたライラだったが「まぁ、いいか。」と呟き、後ろに下がった。
「貴方からね。ウサギさん。」
リネラが言い終わると同時にルルが突っ込む。
自身に追い風をかけ、初手からトップスピードで迫り、ガントレットを着けた右手でストレートを打ち込む。
予想以上の速度に一瞬怯んだリネラだったが、腕を交差してガードすると、腕に氷を纏わせた。
しかし、ルルの一撃は氷を砕き、ガード越しにリネラを
吹き飛ばした。
リネラが着地の前に受身を取るも、もう既にルルの追撃は迫っていた。
今度は退かずに前に出ると右手に氷を纏わせ、カウンターを放つ。
両者が顔に一撃をもらい、同時に吹き飛んでいった。
先に立ち上がったリネラが手を翳すと、ルルの足元の地面から氷が現れ、足に纏わりつく。
本来であれば、相手を拘束するものであるが、砂地という強度の無い地面とルルの脚力によって、ルルは氷を無視して、そのまま宙へ跳ぶ。
「やはり、ダメね。」
呟くと、すぐに切り替えて、小さな氷塊を飛ばした。
ルルは風を用いて、軌道を変え、氷塊を躱して、リネラ目掛けて、真上から拳を叩き付ける。
衝撃で巻き上がった砂煙が晴れた時、リネラの姿は無く、ルルの拳は地面を捉えていた。
真正面からリネラが青い刀身のナイフで切り掛かる。
ルルは咄嗟にガントレットで弾く。しかし、リネラは直ぐ様、切り返して更に連撃を放つ。
ルルが後退しながら連撃を躱す。その最中、一瞬出来た隙を見逃さず、カウンターを繰り出す。
しかし、それはリネラが敢えて作った隙であった。
放たれたカウンターを見切ったリネラが、右腕を切りつける。
「っ!」
追撃を仕掛けたが、ルルは身体を覆うように風を纏い、リネラを吹き飛ばした。
距離が空いた事で、お互いが一呼吸を置く。
ルルは右腕に違和感を感じた。本来、傷が付けば熱を帯びて熱くなる。だが、リネラの特殊なナイフの影響か、傷口に冷たさを感じた。
「ラビリタス・・・だったかしら?流石の身体能力ね。黒兎動乱と言うのも納得だわ。でも貴方は毛の色が違うから別種なのかしら?」
リネラの疑問を流し、ルルは再び動き出す。
宙へ跳び、風を使って軌道を変え、四方からリネラへと攻撃を繰り出す。
リネラはその動きをしっかり観察しながら的確に躱していく。
攻防は続いた。一見すればルルが押しているように見えたが、リネラの表情に焦りは無かった。
「その風が、邪魔なのよね。」
呟くと同時に腕に氷を纏わせる。
ルルが一瞬警戒し、後ろに距離を取る
しかし、リネラは動きを見せない。
ルルは、より魔力を高めて宙に跳んだ。
リネラはその期を逃さず、ルルに向かって跳ぶ。
ルルは攻撃を回避する為、自身に追い風をかけ、軌道を変える。
しかし風は吹かず、ルルの軌道は変わらなかった。
ルルは思わず振り返った。
「っ!」
そこには宙に浮かぶ氷壁が現れていた。そしてそれは、ルルへの風を完全に遮っていた。
気を取られたルルの腹部へ、リネラの一撃が入る。
「がっ!」
リネラはそのまま蹴りを繰り出し、ルルの身体は衝撃で氷壁にめり込んだ。
リネラが氷壁の上に乗って、手を翳すと、氷壁が地面へと落ち、ルルの身体ごと、地面に激突した。
氷はバラバラに砕けて散り、倒れたルルと、その上に乗るリネラだけが残った。
リネラはそっとルルから下りる。
「強いわね。」
それは皮肉ではなく、率直な感想だった。
「ルル!」
ブロウが駆け寄り、気絶しているルルを抱き上げる。
リネラは近くにある袋を指差す。
「そこに薬があるわ。使ってあげて。」
ブロウは一瞬驚いたが、素直に聞き入れ、ルルの治療をする。
「さて・・・次は貴方ね。」
リネラがライラを見つめる。
「案外、トリッキーでもねぇんだな。」
「私の稼業は目標を排除することだもの。トリッキーである必要は無いわ。」
「嫌いじゃないぜ。」
「それはどうも。」
会話が終わった事を合図に、ライラがナイフを抜いて飛び込む。
リネラはナイフを構えながら一歩下がり、ライラの攻撃を弾く。
互いがナイフによる斬撃と蹴りを織り交ぜ、近接戦を繰り広げる。
その攻防の最中、ライラの目の前に突如、氷壁が現れる。
一瞬焦ったライラだったが、すぐに蹴りを繰り出し、氷壁をリネラの方へ飛ばす。
しかし、それは囮であり、側面に回っていたリネラがナイフを振りかざす。
気付いた時には避けきれないと踏んだライラは、身体を反らせながら、リネラの足元の砂を緩ませ、ナイフの軌道を変えることで直撃を避ける。
腕に傷が入り、痛みが走ったが、そのままバランスを崩したリネラを蹴り飛ばした。
「ちぃ!」
ライラは傷口に触れる。ひんやりとした謎の感触ではあったが、深くは無い。
一方、リネラは砂を混じった唾を吐き、「外魔法・・・ね。」と呟いた。
互いが無言で見つめ合うと、両者の背後に、それぞれ砂の玉と氷の玉が浮かび上がる。
両者が構えると共に、玉が飛び交う。一見、砂の玉の方が脆く思えるが、魔力を着けてきたライラの砂は、氷の玉を相殺するのに十分な硬さであった。
両者の玉がぶつかり合い、飛散することで、砂煙により視界が遮られていく。
ライラはその中でデザイルを投げる。
リネラは砂煙から飛び出してきたデザイルに反応し、後方へ下がると同時にナイフで切り払った。
しかし、弾かれたデザイルは、空中で向きを変えると、再びリネラに向かう。
一瞬驚いたリネラだったが、冷静にデザイルを弾いた。
「魔法でナイフを・・・」
三度向かってきたデザイルの前に氷壁を張るも、突き刺さったデザイルは、自身の力で引き抜けると、またリネラへと向かう。
「触媒を剣身に使っているのか・・・ならば。」
リネラは氷壁に足をかけ、高く跳んだ。
リネラを追尾したデザイルだったが、リネラに届く前に動きを止め、そのまま落下した。
「砂煙が薄ければ機能しないか。」
リネラが着地した時、ライラの姿はどこにも無かった。
少し思案したリネラが地面に手を翳すと、足元に円形の氷が現れる。
すると「ゴッ!」という鈍い音と軽い衝撃が走り、暫くして少し離れた地面から頭を押さえたライラが出てきた。
「痛ったたっ・・・」
「前方不注意ね。」
「うるせぇ。」
「しかし、外魔法と言うのは面白いわね。羨ましいわ。」
「地の利がなきゃあ、あんま強くねぇけど。」
「興味深い戦い方だわ。」
「まだまだこれからだぜ。」
ライラは再び仕掛ける。リネラも応戦する。
肉弾戦の途中でライラは上段蹴りをわざと外し、振り抜き反転して、地面に手を突っ込むと一気に振り上げた。
3本の砂の爪が飛び出す。
リネラは後ろに大きく下がると的確に砂の爪を飛び越える。
ライラはそこに向け、小さな砂の玉を散弾のように飛ばす。
リネラは目の前に氷壁を張るも、砂によりヒビが入る。咄嗟にライラに向けて、氷壁を蹴り飛ばすが、掻い潜っていたライラがリネラの着地を狙ってストレートを叩き込んだ。
リネラはそのまま後方へと吹っ飛び、受身を取る。
ライラは追撃で再度、砂の爪を放つ。
リネラもまた、地面に手を付け、振り上げる。すると砂の爪と同じように爪痕の形をした氷が飛び、砂の爪を相殺した。
「面白い魔法ね。」
「舐めやがって・・・」
「さぁ、続けましょう。」




