第100話 決着
2人の戦いは続く。
トリッキーな動きを織り交ぜながら戦うライラの動きにも、リネラは冷静に判断し、適応していく。
次第に体力を奪われていくライラに対し、リネラはまだ余裕を見せていた。
「おのれ、ちょこまかと。」息を切らしながらライラが言う。
「あら、まるで悪役みたいな言い回しをするのね。」
「うるせぇ!」
ライラは毒を吐きながら連撃を繰り出すも、リネラに全て躱される。
「冷静さを欠けば、動きにも反映されるわよ?」
「しゃらくせぇ!」
連続で放った砂の爪を、リネラは高く跳んで躱す。
「そこだ!」
ライラはバランスを崩させようと、手を翳して着地地点の砂を緩ませる。
リネラは氷柱を作り出して、自身よりも早く落として緩んだ砂地に突き刺すと、それを踏み台にして、ライラへ跳び蹴りを繰り出す。
ライラは蹴りを喰らいながらも、リネラを掴み、地面に叩き落とした。
リネラは手を翳し、至近距離から氷の玉を放つ。
胸に直撃し、吹っ飛んだライラだったが、すぐさま地面に手を突っ込むと、思い切り魔力を込める。
「喰らいやがれっ!」
叫ぶと同時に、リネラの足元の砂が爆発するように吹き上がった。
衝撃で上空にリネラの身体が弾かれる。
ライラが手を翳し、左手で右手の手首を掴みながら、気合いを入れる。
「うおぉぉ!!」
するとライラを包むように、うっすらと砂の球体が現れる。
「こいつで終わりだっ!」
砂の球体からライラの手に砂が供給され、光線状の砂流がリネラへと放たれる。
リネラは驚異を感じ取ったのか、その身を氷で包み、巨大な氷の結晶となっていた。
結晶に砂流が当たる。結晶に傷は付かず、砂が弾けていく。
「あの時のに似ているな。」
ミゼットが呟く。それは魔王侵攻時、一つ目の巨人に放ったそれに近かった。
ライラは雄叫びを上げながら、更に魔力を込める。
砂流が絞られ、少し細くなり、結晶の一点に集中された。すると結晶に小さなヒビが入り始める。
「いけるか?」
見ていたブロウが息を呑んだ。
小さなヒビは次第に大きくなり、亀裂となって結晶が砕けた。
しかし、砂流は空を駆け、そこにリネラの姿は見えない。
次の瞬間、ライラは首筋にひんやりとした何を感じる。
「私の勝ち・・・で良いかしら?」
いつの間にか背後に回っていたリネラのナイフが首に触れていた。
「なっ・・・」
「凄まじい威力だけど、強力な技や魔法には隙が付き物なのよ。」
ライラは舌打ちをすると、両手を上げる。
「アタシの負けだ。」
リネラがナイフを外し、離れた瞬間、ライラは背後に回し蹴りを喰らわすが、リネラはそれを躱して、足に一太刀入れた。
「痛ってぇ!」
「本当に悪役みたいなことするわね。」
「うるせぇ。」
ライラはディケンズが投げた薬を受け取り、手をヒラヒラさせながら言う。
「ホントにアタシの負けだよ。」
リネラはミゼットを見た。
「貴方はどうする?」
「ワタシは構わないが、お前は消耗してるんじゃないか?」
リネラが自分の手をみて、何かを確かめるように指を動かす。
「それもそうね・・・まぁ、貴方の力量は、大体分かってるし。」
リネラはライラ達に向き直る。
「貴方たちが強いことは分かったわ。その力を見極められなかったのが、あのグライドの敗因ね。」
「グライド?」
「貴方たちに刺客を送っていた男よ。」リネラは興味なさげに答えた。
「見極められなかったと言うよりは、引くに引けなかったんじゃないか?」
「そうね。貴方の存在を知ってる以上、見極められなかったとは考えにくいはね。」
ミゼットの言葉にリネラは同調する。
「組織の体裁を守ったか・・・或いは保身に走ったか。どちらにせよ、選択を間違えたようね。」
「最初からアンタが来たら、終わってたかもな。」
「どうかしら?私なら正々堂々行かず、闇討ちするわね。」
リネラはライラに近寄りながら言う。
「強靭な魔物と戦ってる貴方たちと違ってね。私たちは普段、普通の人間を相手にするの。大物であれば、用心棒がついてたりするんだけどね、大抵の場合、簡単にケリが着くわ。だからこそ、自分の力を過信し、相手の力を見誤る。」
そう言って、青いナイフをライラに向ける。
「組織が大きくなり過ぎた我々の課題ね。」
ナイフを回して、持ち手をライラに向ける。
「な、何だよ?」
「餞別よ。そのナイフよりは使えるでしょ?」
「あぁ?」
リネラは訝しげるライラに対して続けた。
「貴方の戦いを見て、私ももっと強力な触媒でナイフを作ってみたくなったの。氷属性のナイフなら砂漠では利便性があるんじゃない?」
ライラは信用し切れない様子でナイフを受け取った。
「後で難癖つけんなよ?」
「つけないわよ。と言うより、もう会うことも無いんじゃないかしら?」
「それもそうか・・・」
「それじゃあ、私はこの辺で。」
そう言ってリネラは置いてあった袋を持ち上げ、東に連なる山脈の方を向く。
「山を越えるのかよ?」思わずブロウが呟く。
「そうよ。この大きい砂漠を迂回はしてられないわ。」
「大したもんだな。」
「そう言えば・・・」
歩き出したリネラが振り返る。
「我々は手を引いたけど、ロコメダの連中は諦めてないかもしれないから、気を付けてね。」
「他の組織に頼むかも知れないって事か?」
ディケンズが質問を投げ掛けた。
「あくまで可能性の話よ。まぁ、そもそも魔物の命を大切にって言う彼らの主張自体が煙たがられてるからね。相手にされないかもしれないけど。」
そう言ってリネラは、手をヒラヒラと振りながら去っていく。
その後ろ姿にミゼットを声を掛けた。
「おい!」
リネラが振り返る。
「何か忘れてるんじゃないか?」
「さて、何かしら?」
「惚けんな。」
「あら、ロコメダの話で、上手く誤魔化したつもりだったのに。」
リネラは微笑むと、持っていた袋をミゼットに投げ渡した。
受け取ったミゼットが袋の中身を確認し、ニヤっと笑う。
「上等だ。」
「じゃあ、達者でね。血染め巫女さん。」
「テメェもな。」
リネラが去って暫くし、ライラは思い切り地面を殴り付けた。
「ちきしょう!」
それは冗談の様な行為だったが、半分は本音であった。
「まぁ、そんなこともあるだろ。」
ディケンズは慰めが逆に惨めにさせると思い、適当に返した。
「だって砂漠だぜ?アタシが地の利を得てるのに。」
「奴は氷魔法だ。砂漠という暑い環境で、自身の体温を低くし、体力を維持する。そういう意味では奴も地の利を活かしたってことさ。」
「でもよ・・・」
「お前の砂魔法と性格を見て、煽ることで消耗を激しくさせて、隙を作りやすくしたって事だろ。」
ディケンズはリネラが去っていった方を見た。
「奴が言ってたろ。俺たちは普段魔物がメインだ。言葉を喋らねぇ魔物たちとは違う、人間特化の連中の戦術だ。対人では向こうの方が一枚上手だったってことさ。」
「納得いかねぇな。」
「納得しようが、しまいが、事実は変わらないさ。それよりさっきの魔法はいつ覚えたんだ?」
「あ?あぁ・・・覚えたとかじゃなく、何となく勢いでな。」
ライラは以前、ルーゼスが日常的に使っていくことでも強くなると言っていたのを思い出し、これもそうなのかと思った。
右手を前に翳し、手首を左手で掴む。ゆっくり息をすると魔力を込める。すると周囲の砂が集まり、ライラを包むように球体を形成する。砂ではあるが、薄い膜のようであり、中にライラの姿を捉えることが出来る。
そして、更に魔力を込めると右手の先に砂が集まり、そこから光線状の砂流が放たれる。
横で見ていたブロウが腕を組み、感心しながら言う。
「なるほどな。地面から集まった砂が球体になって、そこから手に集まる。地面から砂が供給される限りは砂流を打ち続けられるって寸法か。」
ライラが砂流を止めて、自身の手を見つめた。
「むしろ魔力の消耗の方が問題かもしれねぇな。」
メイリスへ帰る一行、その中でライラがふと思い出した。
「なぁ、ミゼット。」
「何だ?」
「さっき、あの女から何を渡されたんだ?」
「これか?」
そう言って袋を持ち上げる。
「お前らを連れてくる謝礼だ。生きていく上で一番大切なもんと、二番目に大切なもんが入ってる。」
「あぁ?なんだそりゃあ?」
「金と酒だ。」
「あぁ・・・そいつは間違いねぇな。」




