第94話 影を貫く閃光
ムロイスが駆け出す。
「速いっ!」
ライラは後ろに距離を取りながら、間に砂の壁を作り出した。
ムロイスは影に変わり、そのまま壁をすり抜け、飛び掛かった。
「くそっ!」
ライラは咄嗟に剣とデザイルを交差させて防御する。
のしかかるような態勢から、更に噛みつこうとするムロイスに、ライラは剣で爪を抑えつつ、頭を引いて噛みつきを躱す。
次の瞬間、ムロイスの残された尻尾が槍のように変化し、突き刺し攻撃を繰り出した。
ライラは片足を引きながら身体を逸らすも、左腕を掠め、傷が入った。
「ぐっ!」
血が噴き出し、怯んだところを狙い、ムロイスに上半身が鋭い牙を持つ口へと変わる。
大きく口を開き、ライラに喰らいつこうとした瞬間。
「させるかっ!」
ディケンズの声が響くと共に閃光が走る。
出力を下げた光弾の瞬きに、ライラは思わず目を瞑る。
影の身を持つムロイスは、一瞬の強烈な閃光に身体の形状を保つことが出来ず、液状になると、遺跡の残骸の陰へと逃げ、身を隠した。
「大丈夫か?」
ディケンズの問い掛けに、ライラは目を閉じたまま返した。
「良かった。死んでなかったか。」
「ああ。ただ片足が痺れてやがる。」
「奴は?」
「影に逃げた。ダメージを負ったのかどうかは分からんな。」
「そうか・・・」
「暫くは、奴も体勢を立て直すかもしれん。」
ディケンズは影の方を見ながら言う。
「アタシも左腕をやられた。」
「の、ようだな。」
ディケンズは傷薬をライラに渡すとソールオングルを影の方へ向け、警戒する。
「俺が牽制してる間に治療しとけ。」
「済まねぇ。」
「それで、どうする?」
ディケンズは左足を擦りながら言う。
「この足じゃあ接近戦は厳しいぞ。」
「アタシもこの腕じゃ、圧されるのが関の山だ。まぁ、引き付けるくらいなら出来るがな。ただ、不意打ち出来ねぇとすり抜けされるぞ。」
「さっきみたいに目眩ましで、怯んだ瞬間を狙うか?」
「試す価値はあるな。あと何発撃てる?」
ディケンズはソールオングルを確認しながら言う。
「出力を下げるなら4、5発ってとこだな。」
「アタシは潜って狙う。接近させて撃ってくれ。」
「分かった。」
ディケンズは、ライラが消えたのを見て、少し下がると遺跡の残骸の影へと注意を向ける。
不気味な静寂の中、自身の唾を飲む音が聞こえた。
接近で目潰しを放つ。遅れれば、被弾は免れない。
集中が切れたその一瞬、ムロイスが飛び出す。
ディケンズはギリギリまで引き付け、閃光を放つ。しかし、銃口が動いた瞬間、ムロイスは宙に弧を描くように後ろに跳んだ。
「なにっ!」
その動きが見えたものの、閃光を放った為に、ディケンズは目を閉じるしかなかった。
ディケンズは目を閉じたまま、ムロイスの攻撃に備えて、ソールオングルを前方に振り払う。
次の瞬間、黒い影がディケンズに襲い掛かった。
「ディケンズ!」
砂から出てきたライラが叫ぶ。
「無事か?」
振り返ってディケンズの姿を見たライラは目を見開いた。
「な・・・」
そこにはディケンズの姿があった。ただ、その全身は黒い影に包まれ、目が赤く光っていた。
「・・・取り込まれた?」
ライラが後退ると同時にディケンズが斧を抜き、駆けだす。
「くそっ!」
ライラは剣で斧の斬撃を弾きながら後退していく。
「おいっ!ディケンズ!」
その声はディケンズには届かない。
横振りの斧を屈んで躱し、腹へと蹴りを入れる。しかし、ディケンズは怯まず、尻尾を振り払いライラを吹き飛ばした。
立ち上がったライラは向かってきているディケンズに向け、幾つもの小さな砂の玉を散弾よろしく飛ばした。
当たった一瞬だけ動きを止めたが、ディケンズはそのまま進んでくる。
「ちきしょう!」
振り下ろされた斧を頭上で剣で受ける。
「くっ!」
両手受けるライラに対し、ディケンズは片手で
振り下ろしている。元々の力の差か、或いはムロイスの力か、ライラが圧されていく。
受け切れないと踏んだライラは一気に砂の中へと逃げた。
拍子抜けて地面を強く叩いたディケンズは、辺りを見渡し、咆哮を上げる。それはムロイスのものであった。
少し離れたところの地面が隆起し、ディケンズがそちらを見た瞬間に、反対側からライラが手を出し、ソールオングルを砂の中へ引き込んだ。
周囲を警戒するディケンズ。そこへ再び地面が隆起する。
近寄ったディケンズが斧を振り上げた瞬間、砂の中から銃口がせり出し、閃光が放たれる。
光に包まれたムロイスは、悲鳴にも似た雄叫びを上げ、ディケンズの身体を離れると、再び影となり、遺跡の残骸へと逃げた。
解放されたディケンズが膝を着く。
「大丈夫か?」
ライラが尋ねる。
「済まん。油断した。」
「いいさ。それより動けるか?」
「正直なところ、かなり体力を持ってかれたな。」
「分かった。じゃあアタシが引っ張るから、こっから狙ってくれ。」
ライラはそう言うとソールオングルを置いて、ムロイスの方へ向かう。
「何度も隠れやがって!このヘタレ野郎!さっさとケリをつけるぞ!」
ライラはムロイスを挑発しながら、ディケンズと対角の位置を陣取り、自身に注意を向けた。
ライラは動きながら、砂の玉を放った。
ライラに向かうムロイスの身体に穴が空き、玉が通過すると元に戻った。
「これならどうだっ!」
ライラは地面に手を突っ込み、振り上げる。すると3本の刃状の砂の爪がムロイスへと向かう。
ムロイスが跳んで避けたところへ、散弾状の砂を飛ばす。しかしムロイスの身体が一瞬だけ、蜂の巣のようになりそれも躱した。
「くそ!」
ライラは砂に飛び込んで逃げ、少し離れたところから飛び出した。
「なんつー身体してやがんだ!」
ライラは距離を取って、砂を飛ばし、砂中に逃げては距離を取るのを繰り返したが、ムロイスに攻撃が当たることは無かった。
そして、ライラが足を踏み外し、バランスを崩した瞬間をムロイスは見逃さなかった。
「しまっ・・・」
倒れたライラに覆い被さるようにムロイスがその口を大きく開く。
次の瞬間、噛み付こうしていたムロイスの頭が変形して穴が空き、ライラの目の前を光弾が駆け抜けていった。
その一瞬の隙に、腹を蹴り上げて脱出する。
「おい!バカたれ!アタシに当たったらどうすんだ!」
「どのみち喰われてたろ!感謝しろ!」
「アタシに当たったら・・・そうか!」ライラは自身の言葉を繰り返し、何かを思い付く。
ライラが再び地面に逃げる。しかし、次の瞬間、ムロイスの身体が変形し、右足があった場所が頭に変わり、砂の中のライラを追撃した。
逃げ込むライラの右足が噛まれ、引きずり出される。
「がはぁ!」
牙が足に食い込み、血が吹き出した。
ムロイスはそのままライラの身体を放り投げた。
飛ばされたライラがディケンズの前へ落ちる。
「ライラ!大丈夫か?」
「足をやられたが、調度いいや。」
「どういうことだ?」
「考えがある。奴に真正面から光弾をブチ込んでくれ。」
「閃光で怯ませるのか?」
「いや、最大威力で構わねぇ。」
「また貫通するだけじゃねぇのか?」
「大丈夫だ。アタシを信じな。アタシが出たのを合図に撃ってくれ。」
振り向いたムロイスが咆哮を上げて、ライラに向かい走り出す。
「頼むぞ!」そう言ってライラは地面に消える。
ライラを見失ったが、ディケンズを捉えたムロイスは標的を変え、そのまま駆ける。
ディケンズは深呼吸をすると、出力を最大に上げ、ムロイスの頭に照準を合わせる。
ムロイスの後方でライラが飛び出した。
「よく分からんが、任せたぞ。」
そう言ってディケンズが引き金を引く。
最大出力の小さな光弾が放たれる。
光弾を見たムロイスの身体が変形し、頭から胴体を抜けるようにトンネル状の穴が形成され、光弾はそこを通過していく。
「こいつで終いだっ!」
ライラが叫び、砂の玉を放つ。
それはムロイスの身体に出来た穴に後方から入り、胴体の中心で光弾とぶつかる。
次の瞬間、ムロイスの身体を中心に大きな爆発を起きた。
まるで蒸発するように黒い霧のような影が四散し、夜明け前の空へと消えていく。
一部の影が肉片のように辺りへ散らばる。それは意思を持ち、1ヶ所に集まるとムロイスの頭と姿を変え、倒れ込んだライラを狙おうとしたが、ディケンズがソールオングルの銃口で、それを押さえ込んだ。
「もう閉店なんだよ。」
パッと閃光が走り、ムロイスは塵と化した。
ソールオングルを手放し、ディケンズもその場に倒れ込んだ。
2人は大の字に倒れ、空を見上げた。満身創痍であった。
「あぁぁ~終わったぁ!」
ライラが絞り出すような声で言った。
「だな。」
残骸の上で見ていたミゼットが立ち上がる。
「ムロイスをやりやがった・・・大したもんだ。不浄王に挑むってのも、あながち冗談じゃなくなってきたな。」
そう言ってミゼットはその場から去った。
地平線の向こうから、ゆっくりと朝日が昇り始めていた。




