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砂上の狩人  作者: eight
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第86話 エリーザのために③

「くそっ!とんだ誤算だっ!」

モウズを走らせながらヒルドックは悪態をつく。

背後を見ると高く飛び跳ねながらルルが追ってきているのが見えた。

「風魔法か・・・厄介な。」

暫く逃げ続けるも、追いつかれると判断したヒルドックはモウズを飛び降りた。

「ウサギ野郎一体なら、返り討ちにしてくれる!」

ヒルドックは腰からムチを引き抜いた。


地面を一度叩き鳴らすとルルに向けて振り抜く。

突進していたルルは風魔法で急ブレーキをかけ、ムチの射程の寸前で止まる。

ムチを避けた直後に再び駆け出すも、ヒルドックは後退して距離を取りながら、ムチを折り返して振り払った。


ルルは伏せるほど身を屈め、転がるようにムチを躱すと、そのまま殴り掛かる。

接近した瞬間、ヒルドックは空いてる手をルルに向けて、ニヤりと笑う。

手から放たれた雷撃がルルを吹き飛ばした。


立ち上がったルルは、無言で唾を吐き捨てた。

「アンタがクラウンを殺したって言う獣人かい?」

ルルは質問には答えず、再び跳び込む。

ヒルドックは下がってムチを振るが、ルルはムチの来る方へ風魔法を放ち、ムチを弾き飛ばした。


ヒルドックは咄嗟にムチを放す。ムチは扱いが難しい武器のひとつである。正確な位置を打ち付けるには鍛練が必要であり、扱いを一歩間違えれば、自身の身体を傷付ける可能性があるからだ。

風魔法でムチの軌道が変わった事で危険を察し、咄嗟の判断でムチを放した。

ヒルドックは下がりながらムチとは別に、腰に付けていた近接用のダガーを抜こうとしたが、その前にルルの拳が顔を捉えた。

「ぐっ!」

殴り飛ばされたヒルドックは追撃を防ぐ為、転がりながら地面の砂を握り、ルルの顔へと投げつけた。

しかし、バイザーを付けているルルに目潰しは効かない為、ルルはそのままヒルドックの腹に拳を叩きこんだ。

「がはぁ!」

ヒルドックは呻きながらも、接近に乗じてルルへと手を翳す。気づいたルルは瞬時に跳んで下がった。

直後に手から放たれた雷撃がルルの真横を掠めていく。


ヒルドックは荒めの息をしながら呟いた。

「すばしっこい割に、重いパンチをしてやがるな。」

ルルは何も言わず、ヒルドックに向けて跳ぶ。

ヒルドックも迎え撃つように雷撃を放つ。

ルルは風で側方へ垂直に曲がって回避し、再び風で軌道を戻して攻撃に転じる。

しかしその時、背後からムチが伸びて足に絡まり、そのまま地面へ叩き付けられた。


ルルが素早く振り解こうとする前に、ムチは自らルルの足を離れる。

「便利なもんだろ?」

背後からヒルドックの声が聞こえる。

「ドワーフの連中が作ったムチでな。中にガルドラーゼンって言う魔物の毛が組み込まれる。だから俺の雷魔法に反応して遠隔で操れるのさ。」

ヒルドックは左手でダガーを構えて、右手に魔力を込める。ルルの背後でムチが浮かび上がった。

「・・・来な。」


ルルが跳び込む。ヒルドックもダガーを手に迎え撃つ。

ルルはダガーの一撃を躱し、脇腹に一打狙うも、横から飛んできたムチの一撃を喰らい態勢を崩した。

そこへヒルドックが至近距離から雷撃を放つ。

ルルは真下の地面に向かい風を放ち、砂を巻き上げるとともに自身の身体を宙へ浮かせて、雷撃を躱した。

「上かっ!」

ヒルドックは砂煙の中から雷撃をいくつも放つ。しかし、視界が遮られてる為、雷撃は見当違いの場所へ飛んだ。

ルルは雷撃の出所から位置を把握し、風を纏うと、突撃した。

風で砂煙が晴れて開けた瞬間、ルルの拳がヒルドックを捉えて吹き飛ばした。

しかし、ヒルドックも飛ばされながら雷撃を放つ。

回避しようとしたルルの脚をムチが捕え、雷撃を受けたルルもまた、吹き飛ばされた。


ヒルドックの自身とムチによる波状攻撃と、ルルの風による高速移動の攻防は続く。

ヒルドックは応戦しながらも、増援を警戒して徐々に北へと移動していく。

その最中、ルルは気付いた。周囲に吹く風が少しずつ強くなっていることを。そして風に舞う砂の量が徐々に増えていることに。

ルルは攻撃を止め、距離を取る。

「どうした?スタミナ切れか?」

ヒルドックが言いながら雷撃を放った。

雷撃を躱したルルが呟く。

「北に・・・来過ぎた。」

その時、一際大きな風が吹く。それは砂嵐だった。

「な、何なんだこれは!」

ヒルドックが吹き飛ばされないように必死に堪えた。

その正体を知るルルは自身の風魔法も利用し、敢えて風に乗り、大きく後退する。


上空からルルが見下ろす先で、砂嵐が晴れる。

ヒルドックの視線の先に現れた巨大な影。

土色の鱗に一対の翼、鋭い爪と強靭な尻尾。牙を持たぬ嘴の様な口と、後方へ伸びる3本の角。

瞳の無い白濁とした双眸がヒルドックを捉えていた。

デザートドラゴン。別名「砂塵竜」


「ド、ドラゴンだと・・・」

砂塵竜の咆哮と共に再び砂嵐が巻き起こる。

しかし、その砂は小さな(つぶて)となっている。凄まじい風ととも無数の(つぶて)が襲う。

ヒルドックは砂嵐の中に消え、ルルは風を纏い、何とか(つぶて)を防ぎながら、撤退した。


幸いなことに縄張りに入ってすぐであった為、ルルは難を逃れた。

そして、その後ヒルドックの姿を見た者はいなかった・・・






「んじゃあ、ヒルドック(あの野郎)は砂塵竜に殺されたってことか?」

ライラが酒を煽りながら言う。

「まぁ、間違いねぇだろうな。」ブロウが返した。

一件を終えたメイリスの酒場。一応、解決祝いとして今日はタダ酒となっている。

「気に入らねぇな。止めを刺してやりたかったぜ。」

ライラの言葉にルルが頷いた。

「昼間の営業は暫く止めるらしい。」ディケンズが肉を片手に言った。

「まぁ、あんな事になりゃあな。」再びブロウが返した。

「エリーが落ち着くまでエドゥリアのところに世話になるんだろ。」

ライラの問い掛けにディケンズが答える。

「そう言う話だ。まぁ丁度、俺達が持ってきたハーブもあるしな。狩人が出払う可能性があるメイリス(ここ)よりは安心だろう。」

「だな。しかし帰って早々ひどい目にあったぜ。」

「そういや、ベールズはどうだったんだ?」

「どうって、まぁ、そんなに変わりゃあしないぜ。」



そうして4人は互いに起きたことを話し合った。

「じゃあなんだ、そのミリオンってガキは殺し屋から狩人に転身したのか?」

「ああ。まぁ、バアルに投げといたからな。アイツなら上手いことやるさ。」

「そんな事より、その天使って奴は何なんだよ?」

「さぁな。俺はやられて途中でリタイアだ。ルルは何か分かるか?」

ブロウの言葉にルルは首を振る。

「でも、不浄王に似てた。」

「ああ。確かに細い不浄王って感じだったな。」

「でもよ?神を殺す力があるんだろ?不浄王でそんな話は聞いたことないぜ?」

「文字通り神のみぞ知るってことなんだろ。」

「あの土地神(おっさん)に聞いても教えてくれねぇだろうしな。」

「おいおい。口に気をつけろよ。」


「ところでお前ら。戻ってきたってことは、いよいよ挑むのか?」

「うん?ああ。なんかバタバタしちまったけどな。」

「まずはムロイスだな。」ディケンズが言いながら食べ終えた骨を放り投げた。

「勝てるかねぇ・・・そういや、ソールオングルは強化出来そうなのか?」

「あっ!忘れてた!エドゥリアと話さなきゃいけねぇんだった。」

「エドゥリアと?」

「ああ。工房の親父の話じゃあ、レッドテイルの素材を使えば、光弾の爆発を遅延させれるかもしれないらしい。」

「遅延?」ライラが尋ねた。

「ああ。要は着弾してから爆発まで時間差を作れるってことだ。」

「それを作るのに錬金術の力がいるかの?」

「それがな、錬金術の技術なら感知式に出来るかもしれないんだとよ。」

ブロウが口を開く。

「つまり、先に着弾させといて、罠みたいに使えるってことか?」

「そう言うことらしい。それをエドゥリアに確認したかったんだがな。すっかり忘れてた。」


「もう一回、エリーの様子も見ときたいし、ブロウたちが帰る時に一緒にニグに行くか。」

「ああ。そうだな。」


そうしてエリーザの誘拐事件は幕を閉じた。


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