第85話 エリーザのために②
砂漠のどこか、もう使われていない古い宿泊所。
周囲には10人ほどの盗賊が辺りを警戒している。
宿泊所の中には2人の見張りがおり、ベッドの上には手足を縛られ、口に布を巻かれたエリーザがいた。
エリーザは涙を流し、震えている。
その姿を見ながら、2人の見張りが話す。
「なぁ。あの娘、終わったらどうすんだ?」
「あぁ?そりゃあ殺すか、どっかに売り飛ばすんじゃねぇか?」
男はエリーザの身体を舐め回すように見る。
「ならよ・・・先に味見しちまわねぇか?」
「いや、それは不味いだろ。後で何言われるか分かんねぇぞ。」
「どうせバレやしないさ。この娘が言うわけねぇし。」
「外の奴らにチクられるぞ」
「全員、交代でやらせればいいだろ。」
もうひとりの男もエリーザの身体を見ながら少し考える。
「まぁ、それもそうか。」
エリーザの顔に恐怖が浮かび、身を捩らせる。
「んじゃ、早速俺から。」
男がエリーザに近寄ろうする。
「おい。ズルいぞ。」
「俺が言い出したんだから俺からに決まってるだろ。」
「いや、それは・・・」
「貴方の相手は私がしましょうか?」
突然、女の声が聞こえ、男が振り返る。
そこにはセミロングの青い髪をした給仕服の美しい女が立っていた。
「どこから入った!?」
男が腰からナイフを抜こうとした瞬間。女はその手を抑え、鳩尾に膝蹴りを入れる。
「がはぁ!」
もうひとりが殴りかかるも、男を盾にガードし、足払いを掛けて転ばせる。
女は掴んでいた男の顔を壁に叩きつけて気絶させると、転ばせた男の足をへし折り、一瞬にして場を制圧した。
エリーザへゆっくり近づき、口の布と手足の紐を外す。
「ローゼルさん!」
エリーザはローゼルに抱きつく。
「もう大丈夫です。安心して下さい。」
「ありがとうございます!」
エリーザは安堵から涙を流し、ローゼルはエリーザの髪を優しく撫でた。
宿泊所の外。盗賊たちは全員地面に倒れ、プルプルと震えていた。
その中心に白衣を着たボブカットの少女、エドゥリアがいた。
エドゥリアは白衣の裾を地面に擦らせながら、後ろ手を組み、まるで教授が生徒に講義をするように、ゆっくり歩きながら口を開く。
「皆さんに与えたのは、神経系の麻痺毒です。安心して下さい。それだけで死に至るものではありません。精々1日麻痺する程度のものです。」
盗賊は必死に動こうとするもプルプルと震えるだけで、声も出せなかった。
エドゥリアがポケットから瓶に入った赤い液体を取り出す。
「そしてこれは・・・獣の血液にいくつかの薬品を混ぜた物です。」
蓋を外し、盗賊たちの身体にかけていく。
「謂わば、魔物の誘引剤ですね。」
エドゥリアはそう言うと、ひとりの盗賊の前に屈み、顔を近づけた。
「どんな気分でしょうね・・・生きたまま喰い殺されるというのは?」
丸メガネの反射でエドゥリアの目は見えなかったが、その狂気に満ちた声に、盗賊の顔は恐怖に染まる。
丁度その時、宿泊所からローゼルに支えられエリーザが出てき、周囲の状況を見て「ひっ!」と小さな悲鳴を上げる。
「エリーさん!ご無事で何よりです。」
「エドゥリアさん、これは・・・」
「大丈夫です。皆さん生きてますよ。」
「でも、血が・・・」
辺りは撒かれた血の匂い充満していた。
「ああ。これは偽物ですよ。少し脅かして、懲らしめてやったのです。それよりも、今メイリスの皆さんがエリーさん捜索していますので、そちらに合流しましょう。」
「え、あ、はい。」
「でもその前に。」エドゥリアはカプセル状の薬を取り出す。
「これは?」
「体力を回復させて、精神を安定させる薬です。飲んで下さい。」
受け取ったエリーザが薬を飲んだ。
「ですが、副作用として急激なねむ・・・」
エドゥリアが言い切る前にエリーザはフラりと倒れ、ローゼルが支えた。
ローゼルは眠るエリーザをモウズに乗せる。
「マスター。」
ローゼルの言葉にエドゥリアは頷くと、小さな玉を取り出し、ライラたちへのメッセージを吹き込みだす。
ローゼルは再び宿泊所の中へと向かった。
ひとりは気絶したままで、もうひとりは折れた足を抑え、呻いている。
ローゼルはナイフを抜き取った。
「こんなものがあるから、間違いが起きるのでしょう。」
そう言うと、足で気絶している男の股を開く。
足を抑えていた男はその姿を見て怯えだす。
ローゼルが股間にナイフを突き立てた瞬間、凄まじい絶叫が響き渡る。そして数秒後にはもうひとつの悲鳴が上がった。
「大丈夫。しっかり寝てますね。」
今の悲鳴でもエリーザが起きないことを確認した時、布でナイフを拭いながらローゼルが宿泊所から出てきた。
「マスター。参りましょう。」
「そうね。まぁ、もう私たちが行く必要もないとは思うけど。」
そうしてエドゥリアとローゼルはムロイスへ向かった。
「エドゥリアだ!」
「あいつらがいたかっ!」
士気が上がる狩人たちを見て、焦ったヒルドックが叫ぶ。
「そんなものハッタリだっ!」
「エリーの命が掛かってるのに、そんなハッタリかますような奴じゃねぇよ。エドゥリアは。」
ライラの言葉に舌打ちしたヒルドックが逃げ出す。
「私が行く。」ルルが呟く。
「任せた。」
ルルは悠々と柵を跳び越え、ヒルドックが逃げた方へ向かっていった。
「ライラ!」
ディケンズが叫ぶ。2人は目を合わせると、ディケンズがレバーの方を見た。意図を汲み取ったライラが頷く。
するとディケンズがソールオングルを上空に構えて叫ぶ。
「目を瞑れっ!」
その場にいた狩人たちは咄嗟に目を瞑り、ライラは地面に飛び込んだ。
放たれた光弾はその場で眩い光となって広がる。
魔物と盗賊たちが目眩ましを喰らっている間に柵の外側に出たライラがレバーを上げた。
柵が下がり、境界は無くなった。
狩人、盗賊、魔物の乱戦が始まる。
飛び掛かってきたアプールレオパードの股下へ滑り込むように回避したライラは、後頭部から伸びる触手を掴むと、遠心力を使って上に跳ぶ。
そのまま空中で、アプールの頭に向かって手を翳すと一瞬で砂の玉が形成される。
「至近距離だと痛いぜ。」
以前は目潰し程度にしか使えなかった砂の玉も、魔力の上がった事により、武器として活用出来るほどの強度になっていた。
頭に直撃し、ダウンしたアプールに別の狩人が追撃を入れる。
ライラも追撃を狙うが、背後から飛んできた砂の玉に弾き飛ばされた。
倒れたライラを盗賊が襲うも、横からブロウが大剣で殴り飛ばす。
「大丈夫か?」
「ああ。助かった。」
ブロウは鉄砲ガエルを見て言った。
「ああいうデカぶつとは滅多に戦わねぇからな。たまには俺も暴れさせてもらうぜ。」
「了解。援護は任せな。」
ブロウは魔力を込め、大剣に水を纏わせると雄叫びを上げながら駆けだす。
ライラは横に移動し、鉄砲ガエルに向けて手を翳す。すると周囲に砂の玉が幾つも出来る上がった。
ブロウに気付いた鉄砲ガエルは頬を膨らませ、砂の玉を連射した。
ライラは砂の玉を放ち、鉄砲ガエルの玉を相殺していく。
「うおおぉぉ!!」両手で剣を構えて突き進む。
鉄砲ガエルは玉を撃つの止めると、大きく口を開け、その舌をブロウへと伸ばした。
ブロウは迫る舌に向け、剣を下げて思い切り、切り上げた。
舌が縦に切れ、その隙間からブロウが剣を突き出すように跳んだ。
「ブロウ様を舐めるなよっ!」
そのまま口の中に飛び込み、そして後頭部を貫いて飛び出した。
鉄砲ガエルは血を噴き出し、一度だけ大きく怯むと、そのまま土の中へと沈んでいった。
鉄砲ガエルの体液まみれになったブロウは、額に付いたヌメりけのある体液を手で拭い捨てた。
「うえぇ、気持ちが悪ぃな。さぁて、次はどいつだ。」




