第83話 砂漠の脅威たち
パルドランダを倒した2人は、オアシスの場所まで戻っていた。
「まぁ、この前の諸に心臓って感じよりは幾分マシだな。」
オアシスの水でパルドランダのコアを洗ったライラが言う。
ヒビの入った赤いコアを掲げる。その大きさは拳より少し大きかった。
「しかし、喰いもんかと言われれば、何とも言えねぇな。」
「いいからさっさと喰ったらどうだ。」
「馬鹿。こう言うのは余韻を楽しむんだよ。」
「余韻ってのは喰った後の話だろ。ったく、陽が暮れるまでにはベールズに帰るぞ。」
「わーてるよ。しかし、そのまま喰えるもんかね。」
ライラがコアに齧り付く。
ガリっ!という音が鳴り、ライラの歯が止まる。
「硬ってぇ!何だよこれ。」
「まぁ、本来喰うもんには見えんな。」
「砕くか・・・砕いても効果あるんだよな?」
「知るかよ、そんなの。ルーゼス様には何も聞いてないのか?」
「確か生じゃなきゃ意味がねぇって言ってたな。」
「なら砕くだけなら良いんじゃないか? 心臓を切るみたいなもんだろ。」
「まぁ確かに、そもそも生って概念すらなさそうだしな。」
ライラはディケンズの斧を借り、コアを砕き割った。
オアシスを出て、ベールズへ向かう2人。
パルドランダの生態上、素材らしい素材は何一つ無かった。
ライラは袋に手を突っ込むと中から赤色の破片はいくつか掴み、口の中へ放り込んだ。
ボリボリと音を立てながら噛み砕く。
その姿を見ながらディケンズが尋ねた。
「んで、旨いのか?」
「いや、味もへったくれもねぇな。噛み砕ける石を喰ってるみてぇな感じだ。」
「なるほどな。」
穏やかな砂漠でライラの咀嚼音だけが聞こえた。
ディケンズは袋から1枚の紙を取り出し、ライラに尋ねた。
「もう戻るんだろ?」
「メイリスにか?」
「ああ。」
「だな。」
「んじゃ、ベールズに戻ったら、こいつを処理しねぇとな。」
紙には頼まれた土産が書かれていた。
砕いたコアを食べ終え、袋をしまったライラが言う。
「でも先にニグに寄りてぇな。」
「王都に?」
ライラは真剣な面持ちで答えた。
「今後のことを考えると、モドンのジイさんにもう一度、話を聞いておきたい。」
「いよいよか・・・」
ランクAの魔物。それは当然、今までのようにはいかないだろう。
「それにディケンズもレッドテイルの件で話をしたいんだろ?」
「ああ、そういやそうだったな。」
ソールオングルの強化に使えないかと相談をする予定だった。
「んじゃ、ガルートに寄って荷物を回収したら、一旦ニグだな。」
「そういうこった。」
「それで?喰い終わってみて、強くなったのか?」
「あぁ?」
ライラは自身の手を見つめて魔力を込めた。
すると砂の玉が形成される。それを見ながらライラが呟いた。
「ああ。確かに上がってるな。」
「そうなのか?」
ディケンズの目からは変わってるようには見えなかったが、確かに何かを感じ取っているようだった。
「まぁ、メイリスに帰ったら色々試してみるさ。」
そうしてベールズに戻った2人はバアルやミリオンを別れを告げ、街を出た。
ガルートで荷物を回収し、王都ニグへ着いたのは約一週間後のことだった。
「よう、ジイさん。元気そうだな。」
「ライラか。久しぶりじゃな。」
魔物研究所では相変わらず、研究員たちが忙しなく動き回っている。
ディケンズはモドンに言われた研究員とレッドテイルの素材が使えないかの話し合いをしている。
「ベールズはどうじゃった?」
「ああ。相変わらずハーラルとは思えねぇ、不思議な街だったよ。」
「そうかそうか。」
「そういや、魔法研究所の元所長のジイさんに会ったぜ。」
「グランドール殿か。」
「ああ、そうそう。変わったジイさんだったな。」
「羨ましいのう。ワシもベールズで隠居して自由に研究したいところじゃな。」
「後継者がいねぇのか?」ライラは見渡しながら尋ねた。
「いや、そうではない。魔法と違い、ギルニア砂漠の魔物の研究では、やはりベールズでは不便なのでな・・・」
「ああ、なるほど。そういうことか。」
「暮らす分にあちらの気候の方が良いんじゃがのう。」
「ジイさんも大変だな。」
そこへディケンズがやって来る。
「終わったのか?」
「ああ。後は工房の連中と相談だな。」
「んじゃ、本題に入るか。ジイさん始めてくれ。」
「良かろう。」そう言ってモドンは分厚い本を開いた。
「現状、国としてAランクに制定しているのは4種じゃ。」
本にはデザートドラゴン、ゴルムバゼラ、ムロイス、ギルニアデーモンの名が記載されている。
「デザートドラゴンは砂漠の北東、岩石丘を根城にしておる。分かっているとは思うがドラゴンは高い知能と生命力、適応能力の高さから世界中に分布の特級の魔物じゃ。そしてお前さんと同じく砂魔法を使う。」
「リザードたちとは違うのか?」ライラがディケンズに尋ねた。
「辿れば血は入ってるらしいが、今となっては別ものだな。」
「ほ~ん。」
「ゴルムバゼラに不浄王やロックロックスのような獣じゃ。4本の腕を持ち、雷の魔法を使う。じゃが今は、こやつと戦うのは無理じゃろう。」
「無理?」
「こやつは5年おきに砂に潜り、休眠状態となる。」
「今は休眠中ってことか?」
「そうじゃ。6年前に北西の街道に現れ、ある貴族の家族を乗せた馬車の一行を襲った事件があった。最後に目撃情報が上がったのが4年前じゃからな、恐らく後2年くらいは休眠しておるだろうな。」
「2年は流石に待てねぇな。」とライラ。
「ムロイスはお前さんたちも見ておるな。軍団長殿の話では、先の魔王の一件で手負いになったとの話じゃが、ムロイスに関しては他の3頭と違い、明確に一個体だけは分かっておらん。それにどの辺りにいるかも分からないからのう。挑むなら一番初めがいいかもしれんが、一番探すのが大変かもしれん。」
「いっそ、昼の猫の状態に狙ってみるか?」ライラが提案した。
「構わねぇが、それで勝ったところで満足なのか?」
「ああ、まぁそうだな・・・」
「最後にギルニアデーモンじゃ。砂漠の中央に近いところを根城にしているということ以外は、あまり情報が無い。デーモンと言う呼称も、実際に悪魔なのかは分かっておらん。かなり前の調査隊の生き残りが悪魔と呼んでいたことに由来しておる。」
「砂漠の中央付近てことは、行くだけでも難儀だな。」ディケンズが呟く。
「左様。だから調査も進みにくい。だがポッポリーの話では、不浄王も奴の根城付近を避けている。それに根城付近は夜でも昼間と同等の暑さを保っているらしい。その点からもAランクの位置付けにしておる。」
「炎を使うのか?」
「そうじゃ。」
「どんな見た目なんだ?」
「ポッポリーの絵しか情報が無いからのう。実際のところは分からん。」
そう言って1枚の絵を差し出した。
ライラがそれを見て言った。
「人型なのか?」
「じゃな。ポッポリーの話では大きいらしいからのう。巨人の類かもしれんな。」
「どうする?」
話を聞き終えたライラが尋ねた。
「まぁ、どいつも小手調べなんてレベルじゃないからな。手負いに賭けて、ムロイスが無難じゃないか?」
「まぁそうなるよな・・・ジイさん、ありがとな。」
「構わん。もし倒したら、必ず報告を上げてくれ。素材も忘れずにな。」
「おうよ。」
研究所を出た2人は武具の工房に寄った後、ルルたちに会いにギルド本部地下のバーを訪れた。
「ああ?」
扉を開けたライラは訝しげな声を出した。バーの中はがらんどうとしていた。ルルやブロウは勿論、狩人の姿は無く、住人が一組いるだけだった。
カウンターにもザインの姿は無く、いつもと違う、見知らぬ給仕係の姿があった。
カウンターに近づいた2人を見て、給仕係が声を掛ける。
「ライラさんとディケンズさんですか?」
「あ?ああ。そうだが・・・」
「ザインさんがこれをと・・・」
給仕係に渡された紙を見たライラが表情を変え、紙を握り潰した。
「何があった?」
「エリーの奴が・・・攫われた。」




