第82話 砂の海
まるで水に飛び込んだようにライラの身体か沈む。
普通の人間であれば、砂の中では目を開くことも、口を開けることも出来ない。
だがライラは、砂魔法により身体の自由が利く。本来であれば、少し先しか見えない濁った水の中のような状態になるが、サンドロスライトによる魔力向上とパルドランダの魔力が相まって、一帯が透き通った水中のようにハッキリと見えた。
奥にはパルドランダがフワフワと浮いている。
ライラは剣を抜き、仕掛ける。
泳ぐように進むライラ、実際は周囲の砂が動いて進む為、泳ぐよりは速い。
パルドランダが触手で突きを繰り出す。
ライラは横に回転するようにそれを躱して、切りつける。
パルドランダはフワッと浮くように避けた。
ライラは更に勢いを付け、追撃する。
斬撃が触手を捉えると同時に、別の触手がライラの脚を掴み、放り投げる。
飛ばされるが、ぶつかるところも、落ちる場所も無い。
体勢を整えて、パルドランダを見た時、胴体の中でコアが赤く光り、それと同時に切られた触手が再生していった。
コアの位置を把握したライラが再び突っ込むと、パルドランダは太い触手を前に出した。ブレスの代わりに触手の先に砂を固めたトゲのようなものが形成され、刺剣のように突きを繰り出す。
ライラは体勢を変え、剣で弾きながら距離をつめる。
その時、横からもう一方の触手が伸びてきた。
咄嗟に身を引いたライラがだったが、肩に当たり傷が入った。
ライラは顔をしかめ、肩を押さえると攻撃を止め、泳ぐように2本の突き攻撃を躱しながら距離を取った。
パルドランダは無理に自分から動こうとはしなかった為、ライラは一度浮上した。
砂から顔を出し、這い上がったライラを見てディケンズが言う。
「やったか?」
「まだだよ。砂中戦なんか滅多にやらねぇんだ、そう簡単にはいかねぇよ。」
取り出した傷薬を肩の傷に塗るのを見て、ディケンズが包帯を放り投げる。
「いけそうか?」
ライラは包帯を巻きながら答えた。
「ああ・・・楽しんでるさ。」
ライラは準備を整え、再び潜った。
パルドランダはフワフワと浮いている。顔は無く、どちらを向いているか分からないが、トゲのある2本の触手だけはライラの方へと向けられている。
ライラは腰からデザイルを抜き、横に放り投げると、自身はそのまま真っ直ぐパルドランダへ向かった。
2本の触手相手に剣を振るいながら、回避に重点を置いて立ち回る。そうしながら魔力を込めて、デザイルをゆっくりと動かしていく。
機会を伺い、右から攻撃を弾いた瞬間、敢えて一瞬の隙を作った。
左からライラの脇腹に触手のトゲが襲い掛かる。
横から回り込んできたデザイルが左の触手を断ち切る。同時にライラも右の触手を切り裂いた。
両触手をもがれたパルドランダが大きく後退し、再生しようとコアを光らせる。
「そこかっ!」
ライラが手を翳すとデザイルが素早く飛んでいく。
パルドランダの胴体を貫き、コアまで突き進む。だが体内の砂に阻まれ勢いを削がれたのか、コアに当たるも傷を付けることはなかった。
「ちぃ!」
触手が再生したパルドランダが魔力を込めると体内のデザイルがライラの方へ向きを変える。
危険を察知したライラが急いで地上に向かう。
打ち出されたデザイルがライラを襲う。
地面から這い出したライラの真下からデザイルが飛び出し、咄嗟に身体を反らすが、脇腹を掠めた。
「ぐっ!」
「大丈夫か?」
「ああ。身体ん中が砂で詰まってる所為で、コアが狙い辛ぇな。」
「やっぱり引き摺り出して戦うか?」
「無理じゃねぇか?今も追撃して来ねぇし。」
「何かこう、砂を操って上手い事、引き揚げれないのか?」
「向こうも砂を使うからな、そう簡単に・・・」
言いながらライラが何かを思いつく。
「そうか。」
「どうした?」
「そいつを使おう。」
ライラの視線の先にはディケンズのソールオングルがあった。
「鎖か。」
「ああ。アタシがブチ込むから待機しててくれ。」
そう言うとライラはソールオングルを抱えて砂に飛び込んだ。
パルドランダはフワフワと浮きながら、現れたライラに触手を向けている。
ライラは構えながら慎重に進む。高い知能は有していない、恐らく本能的に動いている。ソールオングルがどういう物かは理解していないだろうが、こちらから仕掛ければ躱される可能性があった。
触手の射程に入った瞬間、片方の触手がライラへ飛ぶ。
潜るように躱したライラに向け、もう片方の触手が飛んだが、そのまま触手目掛けて鎖を撃ち出す。
放たれた鎖は触手を切り裂いて進み、パルドランダの胴体へ喰い込んだ。
それを視認したライラはすぐさまソールオングルを押し上げるように地上へ出る。
「ディケンズ!!」
「任せろ!」
ソールオングルを受け取ったディケンズはどっしりと構えて重心を固定すると、鎖を引き上げる。
がしかし・・・鎖はほぼ動かなかった。
「なっ?」
ディケンズの足が少し砂に沈んだ。
「どうした?」
「駄目だ。動かん!」
ソールオングルが砂中で自由が効いたのは、あくまで砂魔法を使うライラが持っていたからであり、今のディケンズに取っては、ただ地中に鎖が埋まった状態、しかもその先ではパルドランダが抵抗している。
ソールオングルの鎖を巻き取る力とディケンズの体重だけでは引き上げることは出来なかった。
「駄目だ!沈む!」
ライラも横について一緒にソールオングル持つ。だがやはり、ゆっくりと沈んでいく。
「くそっ!このままじゃ持ってかれるぞ!」
ディケンズの言葉でライラが何かに気づいた。
「そうか・・・ディケンズ!放せ!」
「あぁ?」
「アタシがやる。」
ライラの表情を見たディケンズは手を離した。
次の瞬間、ライラは踏ん張るのを止め、力を抜いた。
パルドランダの引く力とソールオングルの巻き取る力のまま、ライラは砂中へと引き摺り込まれる。
そのまま凄い勢いでパルドランダへと近づいていく。
パルドランダへ接近した時、ライラはソールオングルを力強く握った。
触手が飛び、ライラは身体を反らして躱すも、頬を掠めた。
鎖に引かれ、胴体にぶつかる瞬間、鎖開いたの喰い込んでいる穴にソールオングルを思い切り押し込む。
ブヨブヨした表皮の為、穴が広がり、胴体に銃口が入り込んだ。
「こいつで終わりだ。」
ライラはそのまま引き金を引いた。
光弾はパルドランダの体内で爆発を起こす。胴体諸共弾け飛び、地上にも大きな砂柱が上がった。
ライラもまた爆発で砂中を吹き飛ぶ。
「なんだっ!」
驚いたディケンズが見上げると砂柱の中からヒビの入った赤いコアが飛び出すのが見えた。
地面に落ちたコアが赤く光り、周囲の砂が集まるも、すぐに光が消えて、砂も止まった。
「ライラ!」
ディケンズは周囲を見ながら叫んだ。
すると少し離れたところの地面から鎖が飛び出す。
「そこか!」
ディケンズは急いで鎖を掴んで踏ん張る。
鎖が巻き取られ、砂の中からライラの手が覗く。
ディケンズはそれを掴むと一気に引き揚げた。
ライラはそのまま仰向けに倒れ込む。砂のクッションがあったとは言え、至近距離で爆発に巻き込まれてボロボロになっていた。
「・・・奴は?」
「ああ。バッチリ倒したさ。」ディケンズは転がっているコアを見ながら言った。
「そうか・・・そいつは良かった。」
ライラは気が抜けたのか、大きく息を吐いた。
「あの様子じゃあ、ヴァルチャーが寄ってくる心配も無い。暫く休め。」
「ああ・・・そうさして貰うよ。」
そう言ってライラは目を閉じた。




