第81話 砂海に沈む月 パルドランダ
パルドランダ。通称「砂海月」
キノコの傘のような胴体からは、無数の触手が伸びており、触手の先まで合わせると2m近くある。
胴体は通常のクラゲと違って透明では無く、砂色をしている。
宙に浮いてる訳ではなく、幾つかの触手で地面に立っている状態だった。
2本だけ太い触手があり、その触手からムルシラドズに向けて砂のブレスが放たれていた。
触手の1本が腹部に巻き付くような形でライラを捉えており、ライラはそれをナイフで切ろうと藻掻いている。
「ライラ!」
叫んだディケンズが即座に光弾を放ち、ライラを拘束している触手を蹴散らした。
解放されたライラは急いで距離をとる。
「クソッたれ!潜ったら目の前に居やがった!」
怯んだムルシラドスが再び水ブレスを放つ。
胴体に当たるが、水を吸収したのか胴体が少し膨らみ、身体の中に取り込んでいた砂が濡れ、体色が暗くなった。
パルドランダが横一線に薙ぎ払うように砂ブレスを放つ。
ディケンズは伏せて避け、ライラは砂中に退避する。
直撃を受けたムルシラドスが大きく後退し、勝てないと踏んだのか、逃げ去っていった。
ディケンズが再びソールオングルを構える。
放たれた光弾はパルドランダの傘を捉える。傘の一部を吹き飛ばし、水分と共に湿った砂が噴き出す。
衝撃によって怯み、すぐさま砂の中へと消えた。
入れ替わるようにライラが砂から飛び出し、周囲を確認しながら言った。
「奴は?」
「一発ブチ込んだら砂の中に逃げやがった。」
2人は地面に集中して警戒する。ライラは砂の玉を作り備えた。
「ダメージは入ったのか?」ライラが問い掛ける。
「多分な。だが顔が無いから表情が読めん。実際、どこまで効いてるのかも分からんな。」
地面が盛り上がり、再びパルドランダが現れる。しかし、その身体は元通りになっていた。
「なっ・・・」
「どうした?」
パルドランダが2本の触手をライラたちに向け、砂の玉を連射する。
「クソッ!」
ライラは咄嗟に砂壁を作り、2人はその裏に身を隠す。
「さっき確実に胴体を吹き飛ばしたはずなのに戻ってやがる。」
「あぁ?」ライラは壁から顔を覗かせて確認するが、砂の玉が飛び、すぐに顔を引っ込めた。
「別個体ってことか?」
「いや、分からん。もう一度やってみる。」
「了解。」
意図を理解したライラは壁から転がりながら飛び出し、自身の砂の玉でパルドランダのを相殺しながら横に走る。
パルドランダがライラを追尾し出したのを確認した、ディケンズは再度狙いをつけた。
「今度は頼むぞ。」
光弾が打ち出され、気付いたパルドランダは攻撃を中断して回避しよう宙に跳ぶ。
しかし間に合わず、触手に当たり、爆発で胴体の下部と一部の触手が吹き飛んだ。
すかさずライラが追撃に走るも、パルドランダは再び砂の中へ消える。
ライラも追うように砂に潜った。
暫くするとライラが砂から飛び出す。正確には、投げ飛ばされたようだった。
「野郎!再生してやがるっ!」
着地したライラがディケンズに言った。
這い出てきたパルドランダは元の姿になっている。
「再生だと?」
「ああ、よく分かんねぇけどな。」
再び始まった砂の玉の砲撃を2人は左右に別れて躱す。
「これ以上、撃っても無駄撃ちになるか。」
ディケンズはソールオングルを放り投げ、斧を抜いた。
ライラは直角にパルドランダの方へ曲がると縫うよう躱しながら、砂の玉を放って相殺し、玉を発射している太い触手を切り上げた。
触手は千切れ飛んだが、ライラもまた別の触手に殴り飛ばされる。
倒れたところへもう片方の触手を向け、追撃しようとした時、ディケンズが背後から胴体に斧を突き立てた。
ブヨブヨとした傘がへこみ、亀裂が入ると中から砂が吹き出した。
その砂はパルドランダの魔力により大きな塊になって、ディケンズを殴る飛ばす。その隙にパルドランダは三度地面へと潜った。
「クソッ!またか・・・」ライラが毒づく。
「そういえば聞いたことがある。海に住むクラゲは身体の殆んど水で出来てるらしい。」
「そんなので生きられるのかよ?」
「まぁ実際生きてるしな。奴さんの身体は水の代わりに砂で出来てるのかもしれん。」
「身体が欠けても、潜って砂を吸収すれば再生出来るってことか?」
「恐らくな。」
「とんでもねぇ生きもんだな。」
「目的の心臓を打ち砕かない限りは再生を繰り返す可能性があるな。」
次の瞬間、パルドランダが飛び出す。
ライラに向け、触手を構えた時、ライラが呟いた。
「ん?待てよ。全身が砂って事は・・・」
ライラも手を翳して魔力を込める。
発射された玉がぐるりと回り、あらぬ方向へと飛ぶ。
「よし!」と呟いたライラが更に魔力を込める。
再び玉が軌道を変えるが、ライラの狙いはパルドランダそのものだった。
しかし、パルドランダ自体が動くことは無かった。
「ちっ!身体ごと操るのは流石に無理か。」
おかしな玉の軌道に気付いたパルドランダが、今度はブレスを放つ。
ライラも再度魔力を込める。
お互いが砂のブレスの主導権を握ろうと魔力がぶつかることで、ブレスはウネウネと蛇の様に軌道を変え、周囲の空を泳ぐかの様に動き回る。
両者の攻防を見ていたディケンズが回り込み、パルドランダを切りつける。
それと同時にパルドランダの魔力が途切れ、砂ブレスはライラの手中に収まった。
宙で大きく湾曲させたブレスをパルドランダに叩き込んだ。
胴体が貫かれ、身体が弾けると同時に何かが転がり落ちる。
そこには赤い色をした球体が落ちていた。
「あれかっ!」ディケンズが叫ぶ。
ライラが即座に走り、剣を突き立てようとしたが、すんでのところで砂に包まれ、地中へ消えた。
「クソッ!」
「あれが恐らく心臓の代わりだろう。あれがある限りは再生するはずだ。」
「面倒な野郎だ・・・」
暫く警戒する2人だったが、一向にパルドランダは現れない。
「もしかして逃げがやったか?」痺れを切らしてライラが言う。
「分からん。」
砂魔法使い同士の戦いは魔力の根競べに近かった。クラゲに感情が存在するのかは分からなかったが、ライラ自身、面倒に感じていた。
「あるいは・・・」
ディケンズは地面の砂を足で払うように動かした。
「さっきので死んでたのかもしれないな。」
「そういう事か・・・」
ライラが確認の為に地面に手を突っ込む。すると周囲の砂が流砂のように沈んでいく。
「あるか?」ライラが尋ねる。
「いや、見当たんねぇ。本当に逃げたのかもしれんな。」
次の瞬間、触手だけが姿を現し、砂の玉を放つとすぐさま地中へ消えた。
不意討ちを喰らったライラが吹き飛ぶ。
ディケンズはすぐにソールオングルを拾い、触手が消えた場所へ放つ。
光弾は地中に消え、数秒後、爆発とともに砂を巻き上げた。
しかし、既にパルドランダの姿はなかった。
起き上がり、砂を払いながらライラが言う。
「あの野郎、地上に出るのは部が悪いと見て、中で動くつもりか。」
「みたいだ。そもそも本来は地中に住んでるようだしな。」
ディケンズはソールオングルを確認する。
「精々、あと2発くらいだな・・・誘き出して、出てきたところを仕留めるしかないか・・・」
「いや・・・ここはアタシに任してくれ。」
「任せるってどうすんだ?」
ライラはポケットからサンドロスライトを取り出す。
「こいつのお陰で前より魔力が上がったからな。」
「お前まさか・・・」
「中でやり合うのさ。」
「いけるのか?」
ライラはゆっくりと深呼吸する。
「さぁな。」
そう言って砂の中へ飛び込んだ。




