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砂上の狩人  作者: eight
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第78話 顔の無い天使③

「それは本当に大丈夫なんでしょうか?」

ルルの話した作戦。それはライラやブロウも知らない、ルルが秘匿にしてきたこと。

「分からない・・・でも、多分それしかない。」

「例の事件のことを考えると、確かにルル様の元々の身体能力であれば、天使の速さにも通用しそうですね。」

ローゼルは冷静に分析した。

「でも・・・」

尚もエドゥリアは躊躇った。

「私は、構わない。」

「元に戻る方法は?」

ルルは首を振った。

暫しの沈黙が流れる。

「可能性があるとするならば・・・」

エドゥリアは自分の思う仮説を述べた。

「確かに、その可能性はありますね。」

「でも、まずは勝てるかどうかが問題・・・」

「兎に角、やるべきことをやるしかないですね。」

踏ん切りをつけたエドゥリアは立ち上がり、白衣を纏った。

「では私は必要なものを準備します。2人は明日に備えて下さい。」




翌日。

王都の入口にブロウを除く、3人がいた。

エドゥリアは白衣のままであった。昨日の戦いから自分が参戦すれば足を引っ張る可能性があると判断をしたのだ。


エドゥリアが幾つかの道具を2人に渡し、最後にローゼルへひとつの錠剤を渡した。

「確実ではないけれど、これが唯一の希望だから。」

「はい・・・必ずや。」

エドゥリアはルルへ向く。

「お気をつけて。」

ルルは頷き、2人は再び砂漠へと向かった。




2人が進んだ先で、待っていたかのようにルーゼスが現れる。

ルプランデルのやり取りは既に知っているようで、ルルを見て、一言呟いた。

「・・・形骸を晒すか。」

その言葉にルルは無言でルーゼスを見たが、すぐに向き直り、静かに言った。

「いつ来るの?」

「もうお前たちは奴の標的だ。私の力がなくとも来るであろう。」

ローゼルが袋に入った粉を自身とルルの上へ振り撒いた。エドゥリアの作った少しだけ強靭を高める薬である。

「私は離れています。」ローゼルが言う。

ルルはローゼルを見て頷く。



彼女には、重要な別の役割がある。戦いに巻き込まれ、負傷するわけにはいかなかった。

ローゼルはエドゥリアから受け取った錠剤を見つめ、しっかりと手の中へ握った。


前方に白い球体が現れる。開戦の時はきた。

ルルが袋から何かを取り出す。それはブドウ酒の瓶だった。

ルルは静かに深呼吸をして覚悟を決めると、栓を外し一気に飲み干して、瓶を投げ捨てた。


次の瞬間、ドクンと胸が脈打つ。

全身がわなわなと震え、視界が歪んでいく。

その視界の向こうで、白い球体から這い出る天使が見えた。

ルルの種族であるラビリタスにとって、アルコールは毒であるとされている。だが正確には違った。

確かに身体にダメージは与えるが、致死量を越えるアルコールを一度に摂取した時、それは起こる。


胸の鼓動が徐々に大きくなっていく。心臓から血液が全身に送られるかの如く、胸を中心にルルの毛皮が黒くなっていく。やがて全身は漆黒に染まった。


「あれが・・・黒兎(こくと)。」

離れたところで見ていたローゼルが呟いた。



約70年前、タルタニアと言う小国を一夜にして滅ぼした「黒兎動乱」

これにより、ラビリタスと言う種族は人々から畏怖と偏見を向けられることとなった。

噂ではラビリタスのひとつの種である黒兎により起こされたと語られているが、その実はアルコールを過剰摂取した者たちによる襲撃だったのだ。


致死量のアルコールを摂取したラビリタスは、生存本能からある種のリミッターが解除され、腕力、俊敏性、生命力が高まる。それと同時に狂暴性も増す為、周囲の者たちが危険を察知出来るように体色を黒く変える。

一度黒兎になれば、アルコールが抜けても元に戻ることはない。あるとすれば、それは死を迎えた時である。


ローゼルの手にした薬こそ、一度臨死状態にし、そして甦させる「仮死薬」であった。

確実に治る保証は無い。だが可能性もまた、これしか無い。

故に必ず、この薬をルルに飲ませる必要があった。



荒い息をしながら、ルルは顔に手を掛けた。砂漠の日射しから目を守る為のバイザーを掴む。

咆哮を上げた天使が、棒を構えながらルルに向かい走り出す。

ルルはバイザーを引き千切り、投げ捨てた。

真っ赤な2つの目が、天使を捉える。

「・・・殺す。」


突きを避けると同時にカウンターを打ち込む。

その速さは天使以上であった。

殴り飛ばされた天使は、空中で態勢を立て直し、そのまま低空飛行で突進し、連擊を繰り出す。

ルルは表情ひとつ変えず、攻撃を躱す。そして隙をついて、突き出された棒を掴んで引いた。

棒を引かれて態勢を崩した天使の腹部に膝蹴りを入れる。

表情の無いその顔からは読み取りずらかったが、その一撃は確実なダメージに与えた。

身体がくの字に曲がったところへ追撃を繰り出す。

その拳は真芯を捉えた。ただでさえ上がった力と俊敏性。そこへ自身に追い風の魔法を掛ける。その衝撃は凄まじいものだった。

天使は地面に転がり跳ばされながら、10m近く吹き飛び、倒れて動かなくなった。


ルルはガントレットを外した。

元々ラビリタスは人間より柔軟な身体を持ち、手足も長い。

速度が乗り、鞭のようにしなった腕による殴打を前に、重さがあり、取り回しの悪くなるそれは、無用の長物であった。

まだ辛うじて理性がある。その間に終わらせなくては。


ルルは高く跳躍する。そして空中から倒れている天使に標準を合わせた。

これで終わるはずはない。自分の意思と裏腹にどんどんと荒ぶる心を抑えながら呟く。


「見せてみろ。その力を・・・」


ルルが急降下する。しならせた腕が天使を襲う。

倒れていたはずの天使は姿を消していた。

それを分かっていたルルは着地とともに、背後に拳を振るう。

天使はそれも躱し、その爪で反撃する。

ルルは身体を引いて回避し、そのまましゃがみ足払いを掛けた。

天使はその足を掴むと、ルルを空へ放り投げた。

そこへ手を翳すと幾つもの紫色のモヤが現れ、次々と飛んでいく。

ルルは軽い身体を活かして、空中で四方から風魔法を掛けて、モヤの弾幕を避けながら飛ぶように移動する。

しかし1発が足を掠めた。

次の瞬間、まるで重りの付いた足枷を嵌めたように足が重くなり、ルルの身体が一気に落下した。


天使がそこを狙って駆け出す。

しかし、ルルに焦りは無かった。落下に合わせて上空から真下へ風を吹かせる。足の重さも相まって、天使の攻撃が届くよりも先に着地した。

天使の攻撃に対し、ルルもその拳で迎え撃った。


両者がぶつかる。首を狙った天使の攻撃は横にずれてルルの肩に爪が食い込む。

一方ルルは頭を狙った。しかし殴るのではなく、顔面を掴むとそのまま地面に叩き付けた。

そして、間伐入れずに片膝を乗せて制圧する。重くなった足をそのまま重りとして利用したのだ。

天使がその足に爪を突き立てた。血が流れるがルルが動くことは無かった。

最早ルルの顔から理性は消えていた。獣としての生存本能と闘争本能が身体を突き動かす。


天使に馬乗りになったルルは、一度だけ天を仰ぎ、咆哮を上げる。

今まで聞いたことのない声を響かせる。そこにいるのはルルではなく、ただの黒兎であった。

ルルが拳を上げ、叩き付ける。

それは幾度となく繰り返される。

天使の身体から青い血が流れだし、辺りを染めていく。

天使が完全に停止しても尚、獣の攻撃は止まらなかった。



その光景を見たローゼルはゆっくりと深呼吸をした。

隣に現れたルーゼスが言う。

「やるのか?」

「はい。ルル様を取り戻します。」

「もし出来なかった場合は?」

「貴方様の手で、お願いします。」

ルーゼスはルルを見る。

「良かろう。ルルシカの性格では、あのまま生きるのは辛かろう。」



黒兎が気配に気づいて止まる。そしてゆっくりと振り返り、ローゼルをその目に捉えた。

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