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砂上の狩人  作者: eight
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第74話 ミリオンの初陣

人払いした病室にディケンズとバアルがいた。

「そう言うことか・・・」

バアルは窓から外を見ながら呟いた。

「他人の人生だ。本来、俺の口から言うべきではないのは分かっているが、お前には伝えておく必要があると思ってな。」

ベッドに横たわるディケンズはミリオンの過去を話した。

「済まないが内密にしといてくれ。」

「ああ。」

「とりあえず、あの娘に関しては裏切りの心配はないはずだ。」

「そのようだな。」

「まだ若い。ここの連中で支えてやって欲しい。」

「ああ。」

「コズモンドの情報は得たのか?」

「いや、まだだ。今朝、ライラが狩りに連れてった。それを終えてからになるだろうな。」

「そうか。」





「わわ、ちょっと待って!」

気性を荒げたモウズをミリオンが必死に宥める。

「これからお前の相棒になるんだ。信頼関係を上手く結べよ。」

ライラは周囲を観察しながら言った。

「この子、荒っぽいのよっ!」

「その方がいい。急に魔物に襲われた時、度胸がある方が冷静に動く。」

「あぁー!ちょっと!落ち着いて!」

騒がしいミリオンを他所に、ライラは依頼書に目を落とした。

アポルドクスの鉤爪、羽毛の納品。

アポルドクスは中型の恐竜の様な姿だが、顔には嘴があり、前肢は鉤爪のある翼になっている。上半身は羽毛に包まれた、鳥と恐竜の中間のような魔物。

雑食であるため、肉食の魔物ほど狂暴ではないが、雑食であるが故に、砂漠より食料が豊富な街道の方まで時折やって来て、旅人たちを足止めすることもある。

ギルニア砂漠全土に分布しており、普通の鳥よりも丈夫なその羽根は加工品に重宝されている。


当然、初心者の狩人が1人で狩るには危険な獲物であるが、旅の道中、食料を得るためにミリオンが戦った姿を見ていたライラは、自分がフォローするなら問題ないと踏んでいた。


「もう!お願い!」

尚もモウズと格闘するミリオンを尻目にライラは痕跡を探す。

そして三指の足跡と数枚の羽根を見つけた。

「おい、ミリオン。」

「な、なに?」何とかモウズを宥めたミリオンが返す。

「奴さん。もう少し先だぞ。」

「あ・・・」ミリオンも痕跡を確認する。

「先頭を行きな。アタシはあくまでフォローするだけだ。」

「うん。」



暫く進むとサボテンが群生している地帯にそれはいた。

サボテンを食べる小さな虫たちを、固い嘴でトゲを無効化しながら捕らえていた。

鱗を持つ土色の下半身、上半身は赤と黄色の羽毛を纏っている。


モウズが近づいた気配を感じてアポルドクスは動きを止めた。

ミリオンはモウズからゆっくり降りて、ナイフを抜く。今まで使っていた物ではなく、ベールズで新調した物だ。対人用のナイフでは魔物相手では少し短かった。


ライラは少し離れたところで、自分とミリオンのモウズを待機させる。

そうして乱入者がいないか、周囲に目を配る。

万が一のことを考えて、手元で砂の玉を作り出した時、違和感を覚えた。明らかに砂の密度が高くなっている。砂が集まる速度も早かった。

ポケットの中にある、魔法研究所で貰ったサンドロスライトを取り出し、見つめた。

「こいつはスゲェな・・・」



ミリオンを視認したアポルドクスは両翼を広げ、頭を低くし、左右に体を揺すった。威嚇のポーズである。

ミリオンはナイフを強く握り、唾を呑んだ。緊張から額に一筋の汗が流れる。

魔物と戦うのは初めてではない。だが大抵は小さな獣である。ガルートで魔王軍と戦った時は憲兵や村の人たちと一緒だった。

自分と同等ほどの大きさの魔物と一対一で戦うのは初めてだった。

ミリオンは素早くアポルドクスを確認する。嘴は丸み帯びており鋭くない、ならば脅威なのは両翼の鉤爪と脚の爪。相手の翼の長さとナイフ込みの自分の腕の長さは・・・


考えてる間にアポルドクスが踏み出す。

頭より身体が先に反応し、ミリオンも踏み込んだ。

首を狙いナイフをひと振り、手首を切り返しもうひと振り。

アポルドクスは頭を引いて躱す。ナイフが首の表面を掠め、羽毛が舞う。

アポルドクスの翼の鉤爪が振り下ろされ、ミリオンは跳んで下がる。勢いをつけて翼を狙い、飛び込んだ。

しかしアポルドクスはそのまま回転する。

「し、尻尾っ!」

ナイフを翳すミリオンを尻尾が襲う。防御は間に合わず、吹き飛ばされた。


受け身を取り、片膝を付いたミリオンに向け、アポルドクスは両翼を前に構え、ポーズを取る。そして勢いよく飛び掛かった。


ミリオンは横に転がり躱しながら立ち上がると、アポルドクスに向けて手を翳す。

手の先で小さな白い光の玉が現れ、アポルドクス目掛けて飛ぶ。

側頭部に当たり光が弾ける。アポルドクスは怯むも大きなダメージではなかったのか、すぐにミリオンの方を向いた。

ミリオンもまた距離を取り、構え直した。


1人と1頭がじっと見合う。

ライラは静観していた。


アポルドクスが跳ぶと同時にミリオンも走りだす。

脚の間に滑り込むようにしながら、ナイフの一刀を脚へ入れ、背後を取ると同時に尻尾を掴み、引っ張る力を利用して身体を反転させると、腰の辺りへ両手でナイフを突き立てる。

しかし、鱗に対して垂直にナイフが入ったため、刃は止まり、ナイフを持つ手に痺れが走った。

「くっ!」

その直後に振り向き様の翼がミリオンを捉える。

弾き飛ばされ、倒れたミリオンをアポルドクスが脚で押さえ付けた。

ミリオンは苦しそうに顔を歪めながらも、何とか脱出しようともがく。


ライラはそれでも助け船は出さずに静観している。

アポルドクスがミリオンに頭に向けて嘴を振り下ろそうした時、ミリオンは手から光の玉を放つ。

頭に当たり光が弾ける。思わず仰け反った隙にナイフで脚を切り裂いた。

血が吹き出し、アポルドクスが怯んだ隙に抜け出したミリオンは再び踏み込み、首目掛けて切り裂いた。

アポルドクスが咄嗟に避けたため、直撃は逃れたが首に傷が入り、血が流れる。

アポルドクスは一度だけ翼を大きく広げて威嚇し、ミリオンが怯んだ隙に、素早く反転し逃げていく。

「あっ!ちょっと!」

慌ててミリオンがモウズを呼ぶも、モウズはマイペースにやってくる。

「急いでよ!」


逃げゆくアポルドクスの頭に砂の塊が直撃し、その場に転倒した。

ライラはそれを見て「砂の強度も上がってるな。」と呟いた。


ミリオンを急いで走り、アポルドクスの首へとどめを刺した。

一度だけ大きくもがいたアポルドクスだったが、そのまま沈黙する。


狩りを終えたミリオンはその場にへたりこむ。疲労や興奮、達成感、様々に感情が入り雑じるが、その表情は嬉々としていた。

「終わったな。」

近づいてきたライラの言葉に、嬉しそうに振り向いたミリオンだったが、すぐに気付いてムッとしながら言った。

「別に手助けなんかいらなかったわよ!」

「手助けじゃねぇよ。さっきの首への一撃で勝負は決まってた。あのまま逃げたところで早かれ遅かれ倒れてるさ。追いかける無駄と横取りされる心配は除いただけだ。」

「むぅ。」と納得してないミリオンを他所にライラは続けた。

「そんなことよりさっさと剥いじまえ。ヴァルチャーどもが寄ってくるぞ。」

「あっ!」

ミリオンをすぐに向き直り、服から依頼書を取り出す。

「えぇ~っと、鉤爪と羽毛・・・」

確認し終えるとせっせと翼の鉤爪をナイフで剥ぎ始める。


「アタシもちょいとお裾分けさせて貰うぜ。」

ライラはそう言うと、アポルドクスの脚にナイフを突き立てた。



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