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砂上の狩人  作者: eight
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第73話 魔法研究所

王立魔法研究所ベールズ支部。


立派な肩書の割には、こじんまりとした建物であり、商店が並ぶ横にポツンと建っている。

ライラとミリオンは扉を開けた。

壁際に本棚が並んでいるだけのその部屋には、研究器具の様な物は見当たらず、研究所と言うよりは図書室に見えた。

中には4人の研究員が、それぞれ書物を見ながら何かをしており、扉の音に気付いて2人を見たが、無害と判断したのか再び書物に目を落とした。

一番奥で2人の男が話をしている。1人はエリックであり、その相手はいかにも魔法使いというような黒いローブを纏った老人。髪は側頭部を残して禿げ上がり、白く太い眉毛は目を隠している。その姿は好好爺といった印象を受ける。


エリックが気付き、2人を手招いた。

「よく来たね。こちらはここの所長であるグランドール様だよ。因みに元はミザネア様の前任である王都の魔法研究所所長さ。」

「ふぉっふぉっ。今はただの隠居じゃよ。」

「ライラだ。よろしくな。」

「ミリオンです。」


エリックはグランドールに向き直る。

「彼女がさっき言っていた。」

「属性判断か?」

「はい。お願い出来ますか?」

「勿論じゃ。ふぉっふぉっ。」

「宜しくお願いします。」

ミリオンが頭を下げる。

「ついてきなさい。」

そう言うとグランドールは部屋の角に向かう。

そこにはノブの無い扉があった。

グランドールが手を翳すと、扉に紋様が浮かび開いた。

「凄いっ!」

純粋に驚くミリオンに対して、後ろでライラが「一々やるのは面倒だな。」と呟いた。

「ふぉっふぉっ。浪漫と言うやつじゃよ。」

「浪漫ねぇ。」

扉の奥に現れた階段をグランドールを先頭に降りていく。その時、エリックが言った。

「そういうことなら、上の彼らも浪漫だね。」

「あ?」

エリックは最後尾だったライラに見るように促した。

階段を戻り、先程の部屋を覗くと、4人の研究員は消え、1人だけが書物に目を落としていた。

「どうなってやがる・・・」

グランドールが階段の下から見上げながら言う。

「ふぉっふぉっ、物騒な輩もおるからのぅ。1人よりは多い方が良いじゃろ。」


地下室の扉を開くと、上の部屋とは違い、ちゃんとした研究室が広がっていた。

何かがグツグツと煮たった大きな鍋、不思議な形をした魔法道具、壁の棚には本だけでなく、鉱石や魔物の素材など様々な物が置かれている。

そして本物の研究員たちがそれぞれ研究を行っていた。

「こっちじゃ。」

グランドールに案内された机の上には1枚の石板が置かれている。

「これがそうなんですか?」

「そうじゃ。暫し待っておれ。」

石板の中央には窪みがあり、そこから四方へと筋が彫られている。至るところに文字の様な物も彫られていたが、古字なのか読み取ることは出来ない。

ミリオンは興味津々に眺め、ライラは周囲を見ていた。


暫くすると、グランドールが瓶に入った透明な液体を持ってきた。

「待たせたのぅ。」

「痛ってぇ!!」

突如ライラが叫び、皆の視線が集まる。

ライラは右手を押さえて悶えていた。

「ふぉっふぉっ、触れてしまったか。」

ライラの近くには鉱石がひとつ転がっていた。

「そこの棚の材料はな。この研究所の所員以外の者が触れると電気が流れるようになっておるのじゃ。中には手癖の悪い者もおるのでな。」

そう言って鉱石を拾い上げ、棚に戻した。

「どうやら()()()()触ってしまったようじゃな。ふぉっふぉっ。」

笑いながら机の方へ戻るグランドール。ライラは右手を擦りながら、ばつが悪そうに目を逸らした。



「さて、では手を出してくれるかな。」

「え?あ、はい。」

ミリオンは手を出すと、グランドールは小さな針を取り出す。

「少しチクっとするぞ。」そう言うと指先をちょんと刺した。

「血が必要なんですか?」一瞬だけ顔をしかめたミリオンが尋ねる。

「魔力の根源は心の臓にあるからのぉ。故に血にも魔力が色濃く出るのじゃよ。」


グランドールが血の混ざった液体を石板の窪みに垂らす。

窪みが液体で満たされる。本来であれば窪みから彫られた四方への筋へと流れていくはずだが、液体はその場に留まっていた。

「えっ・・・」

「今、調べておるところじゃろうな。」

すると液体がまるで意思を思っているかのように、ひとつの筋へと流れていった。


「ほぉ。」グランドールの眉が少し上がる。

「な、何ですか?」

「これは光じゃな。」

「珍しいですね。」エリックも少し驚いた様子で言った。

「うむ。血筋かもしれんのぅ。」

血筋と言う言葉に、ミリオンが若干顔をしかめた。


「血筋って、生まれた家で影響するのか?」

ライラが後ろから尋ねた。

「いや、家ではなく人じゃな。男は父親の、女は母親の影響が色濃く出る。お前さんの母上は高潔な人間なんじゃろうな。」

その言葉にミリオンの口元が緩んだ。

「ありがとうございます。」


「光魔法ってことは回復魔法(ヒール)除霊魔法(エクソシスム)が使えるってことか?」

再びライラが尋ねる。

「その辺りは修練が必要じゃ。回復魔法(ヒール)は医学、除霊魔法(エクソシスム)は神学の基礎知識を得ねば難しいじゃろう。」

「へぇ~面倒なんだな。」


「ミリオンさん。」エリックが声を掛けた。

「はい。」

「少し訓練してみますか?」

「え・・・」

「研究で魔法を使うための部屋が奥にあるんですよ。練習しますか?」

「あ、じゃあお願いします。」

エリックとミリオンは奥の部屋へと入っていった。


グランドールがライラに近づく。

「お前さんは調べなくて良いのか?」

「アタシはこれだよ。」

そう言ってライラはデザイルを取り出した。

「ほぉ。」

グランドールがデザイルを受け取って調べる。

「砂とな・・・デザーク結晶を使ったナイフか。興味深いのぉ。」


デザイルを返した時、グランドールが何かを思い出した。

「ん?お前さんライラと言ったな。」

「そうだけど?」

グランドールは眉を上げて目を大きく開くと、ライラの顔を覗き込む。

「な、何だよ。」

「ふぉっふぉっ。良い目をしておる。以前ルーゼス様が砂魔法を使う面白い娘がおると言っておってな。そうか、お前さんだったか。ふぉっふぉっ。」

グランドールは笑いながら棚に向かう。

「噂話とは相変わらず迷惑な神様だな。」


「良いものをやろう。」

グランドールが棚からひとつの鉱石を取り出す。小さく、少し濁った黄色い宝石だった。

「そいつは?」

「サンドロスライトと言う宝石じゃ。」

砂魔法の触媒である、砂漠の中層で採れる宝石。以前、王都のバーの給仕係の女が口にしていた。

「それが・・・」

ライラは受け取り、光に透かすように眺めた。

「少し不純物が混ざっておるからな、本来ほどの効果は出ないかもしれん。街の加工屋に持っていくと良いじゃろう。」

「お、おう。ありがとよ。」

「ふぉっふぉっ。気にすることはない。」




ライラとミリオンはギルドへと戻った。

ミリオンは受付嬢に魔法研究所で見たものを楽しそうに話している。

ライラはカウンターで依頼書の束を見ながら、アグトに尋ねた。

「ここの連中の受注はもう済んだのか?」

「仁義を切るのかい?意外と義理堅いねぇ。」

「まぁ、そりゃあなぁ。」

「心配しなくてもそこの依頼は今日の売れ残りさ。」

「そうか・・・おい、ミリオンっ。」

「え、あ、ちょっと待って。」

ライラは依頼書を一枚だけ抜き取り、残りをミリオンに渡した。

「そこにある依頼なら、アタシが付いてけば多分問題ないだろ。後は自分で考えて選びな。」


暫く考えた後、ミリオンはひとつの依頼を選んだ。

「これにします。」

「んじゃ、後はギルドの受付に・・・」

「あ!大丈夫。受付の仕方は受付嬢(そっち)の仕事の説明で教わったから。」

「ああ、そうか。じゃあ明日の朝で出発するから準備しとけよ。」


そうしてライラはギルドを後にした。







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