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砂上の狩人  作者: eight
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第70話 別れと出会い

夕暮れ時の川辺に、銀色の髪をした美しい少女が座る。

ディケンズは横に立ち、周囲を警戒していた。川の向こうに異常はない。土手の上は他の仲間がいるから問題無い。どのみち狙ってくるなら夜だろう。

視界の外れで少女がこちらを見ていることに気づいてそちらを見る。

目があった瞬間、少女を慌てて目を逸らした。


「リザードマンを見るのは初めてか?」

ディケンズに取っては珍しい事ではない。

「す、すみません。」

「なに、気にすることは無いさ。」

「あの・・・ありがとうございます。」

「ん?」

「護衛を受けて下さって。」

「これが仕事だからな。礼を言われることじゃない。それに、礼を言うならちゃんと送り届けた時にしてくれ。」

「ふふ、そうですね。」少女は微笑んだ。

優しく、聡明で、美しい少女。未来ある・・・はずだった少女。




一人の男の厭らしい笑みが浮かぶ。

ザボン・サルヴァン。どこにでもいるような、ただの子悪党。


ディケンズは足が痺れ、転倒した。

ザボンはニヤつきながら手にしたナイフを触った。

「カナハルリの根がデルリザードにとって麻痺毒になるって情報は本当だったんだな。」

ザボンは初めから、ディケンズの制圧を狙っていた。

「貴様っ!」

「ここらじゃ名高い用心棒のディケンズさんよぉ。お前さんを殺すと謝礼をくれる連中が多いんでねえ。」

最早、頭すら動かせなかった。

「へへ、悪く思うなよっ!」

ザボンがディケンズへ向けてナイフを振り下ろす。


「ディケンズさんっ!」

間に入った少女の胸にナイフが突き立てられた。

駆け付けた仲間を見て、逃げていく賊たち。ディケンズの胸の中で血に染まり、命を終える少女。


護衛対象に、逆に庇われて殺してしまう。その話は一気に広まり、ディケンズの用心棒としての地位は失われた。だがそんな事はどうでもよかった。そもそもディケンズが用心棒にならなければ、少女の未来が失われることはなかったのだ。


その後、ディケンズはザボンの情報を得る為に賞金稼ぎに転身した。

そうして復讐の為、国を跨ぎ、大陸を越え、ザボンの行方を追い続けた。

そして、その時は唐突にやってきた。


ザボンの死。

賞金稼ぎなら珍しいことではない。他の誰か、或いは魔物によって殺される。

死んだと言う事実だけで言うならば、ディケンズの復讐は果たされた。だが心には、虚無感だけが残った。

目的を失ったディケンズは宛もなく旅を続けた。死に場所を探して。

気付けば大陸の西の果て、ギルニア砂漠に辿り着いていた。金も生きる気力も尽きていたディケンズは砂漠を彷徨い、そして倒れた。





「・・・っ!」

ディケンズが薄く目を開ける。岩を切り崩して造ったであろう簡素な宿泊所だった。

「おっ、起きたか。」

横を見ると日に焼けた肌をした黒髪の少女がカットラスを研いでいた。

「アンタ、リザードマンなんだろ?初めて見たぜ。」

「ここは・・・」

「砂漠のど真ん中で倒れたからな。アタシがここまで連れてきたんだよ。」少女はそう言うと手を差し出した。


「・・・何だ?」

「何だって、金だよ金。助けたんだ、出すもん出してもらわねぇとな。」

「金なら無い・・・死ぬつもりだったんだ。」

「おいおい。金を払いたくねぇからって、命の恩人にそんな嘘付くかねぇ。」

「どうでもいいさ。どのみち金は無い。好きにしろ。」

ディケンズは投げやりに言った。


少女はその言葉に軽く舌打ちし、頭を掻きながらソールオングルを触る。

「こんな鉄屑、売っても金になんねぇしなぁ。」

暫くあれこれ唸った後、少女はディケンズに向かって言った。


「死にてぇなら、勝手にしてもらって構わねぇけどよ。その前にちょっと手伝ってくれねぇか?」

「・・・何をだ?」

「ちょっと一人だと狩るのか面倒な奴がいてな。」

「・・・お前、賞金稼ぎなのか?」

言われた少女は少し考えて口を開いた。

「う~ん。人によって言い方は色々あるから、間違っちゃいねぇんだけど。アタシとしては狩人と言っても貰いたいね。」

「狩人・・・」

「そうさ。確かに依頼を受けて、報酬を貰うからな。賞金稼ぎっちゃあ、賞金稼ぎだけどよ、この砂漠は魔物たちのホームだろ?アタシはそこで奴らと、狩るか狩られるかの命の駆け引きをしたいのさ。」

命の駆け引き。見たところ17歳くらいの少女がそんな事を言い放った。ディケンズの脳裏にベリーナがよぎる。

「・・・命を無駄にするな。」


少女は鼻で笑った。

「今さっき死ぬつもりとか言った奴の台詞かよ。言っとくが、アタシは命を捨てるつもりは無いぜ。」


「でもな。命ってのは脆いのさ。首を掻っ切るか、心臓を突き刺しちまえば、簡単に壊れちまうんだよ。アタシも魔物もな。」


「だからこそ、アタシは魔物どもとの一挙一動の駆け引きが好きなんだ。たった一手でアタシという存在が簡単に崩れちまうかもしれない。」

少女は少し考えてから言った。



「言うならば、砂上の楼閣ならぬ『砂上(さじょう)狩人(かりびと)』ってとこだな。」



「砂上の・・・狩人・・・」


「まっ!そう言うことだから、よろしく頼むぜ。狩りは明日やるから今日は喰って寝な。アタシはもうちょい準備があるからな。」

カットラスを持って、出ていこうとする少女にディケンズは声を掛けた。


「・・・待て。」

「ん?何だよ。喰いもんなら調理場にあるぞ。」

「お前・・・名前は?」


「ライラだ。捨て子だから名字は無いぜ。」

「・・・ディケンズだ。」

「よろしくな。」




その後、狩りを行い、そのままメイリスに連れていかれた。

そうしていつの間にか狩人の一人になって、長い年月を過ごしていた。


ベリーナはディケンズの命を助けようして死んだ。ディケンズが命を投げ出す事を望むわけがない。自暴自棄になっていたディケンズの命を、また別の少女が意図せず救った。

ディケンズは自嘲気味に笑うと、椅子から立ち上がり「本当に冷えやがる。」と呟いて、部屋へと戻った。




翌朝、一行は宿泊所を出て、ベールズへと向かう。

ライラの後ろに乗るミリオンは、まだ考えているのか一人静かにしていた。

「今からなら昼頃には着くか?」

「あぁ、恐らくな。」

ライラの問い掛けにディケンズが答える。

「着いたらまずは酒だな。」

「違ぇね。」


次の瞬間、モウズたちが声を上げて暴れだす。

「何だっ?」

背後から突風が吹き、3人は咄嗟にモウズに捕まった。

「な、何なのっ!」

振り返った3人だったが、そこには何もいなかった。

その時、上空を何かが通り過ぎ、3人の上に影が落ちる。

再び前を向いた3人の前には巨大な魔物がいた。


黒い羽毛を纏うワシの上半身と赤茶色の体毛をした獅子の下半身を持つ魔獣。


「・・・グリフォンだとっ!」


グリフォンは両翼を広げて雄叫びを上げる。

「まずいっ!」

ライラが言うと同時に小さな2つの竜巻が襲い掛かり、モウズもろとも全員が吹き上げられた。


「きぁあ!」

ライラは叫ぶミリオンの腕を掴むと、もう一方の手に魔力を込める。

一緒に吹き上げられた砂と地表の細かな砂を集めて、山を作りミリオンを抱き締めながらに落ちる。

ディケンズとモウズたちは、そのまま地面に叩き付けられた。


「ブモォォ!」

一頭のモウズが唸った。

ディケンズが見ると片脚に深い傷を負っているのが見えた。

「くそっ!モウズがやられた。」

立ち上がったライラはもう一頭のモウズを指差しながら言った。

「ミリオン!アタシらで足止めするっ!お前はモウズでベールズに行って、誰でもいいっ!適当な憲兵にグリフォンが出たって伝えて、皆を連れてこい!」

「わ、分かったわ!」


走り出したミリオンを追いかけようとしたグリフォンの背中に目掛けて光弾が飛び、爆発を起こした。

一瞬怯んだものの、すぐに立て直したグリフォンはライラたちの方を向いた。


「くそ・・・怯むだけかよ。」

ソールオングルを構えたディケンズが溢す。


「さぁーて、どうしたもんかね。」

「今の俺たちで勝てる相手じゃねぇぞ。」

「分かってるよ。時間稼ぎだろ。」

ライラは剣を抜いた。

「ほんじゃ、いきますか。」




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