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砂上の狩人  作者: eight
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第68話 父と娘と

「あぁ~あ。もうちょいゆっくりしたかったなぁ。」

ライラが愚痴を溢す。

「まさか本当に勝負を仕掛けるとはな。」

ディケンズが言いながらライラの方を見た。


ライラの後ろにはモウズに覆い被さるようにミリオンが倒れており、その顔は腫れ上がっていた。

「何なのよ。あの女・・・」

「まぁ、アイツはそこら辺の魔物より魔物してるからな。」

「お陰で追い出されたけどな。」


ヨーズリーに着いた一行だったが、ミゼットを見つけたミリオンが喧嘩を売った。

当然の如く敗北を喫したが、ミゼットの怒りを買った一行はそのまま町を出ざるおえなくなった。


「・・・ごめんなさい。」

素直に謝るミリオンにライラは笑いながら答えた。

「冗談だよ。笑えるほどの見事な敗戦だったから充分だ。」

「ぬぅ。」

「しかしよくそれだけで済んだな。アタシはてっきり半殺しにされるかと思ったぜ。」

ライラの言葉にディケンズが返す。

「アイツが言ってたぞ。ほら、あの、ミゼットの子分のまとめ役みたいのがいるだろ。」

「ケルブか?」

「そうそう、ケルブだ。アイツの話じゃあミゼットの奴、魔王の一件で思う存分暴れまわれたから、最近は上機嫌だったんだとよ。本来なら、もっとヤバかったかもしれないな。」

「ほ~ん。そう言うことか・・・ん?」

ライラは後ろを見ながら言った。

「そういやお前、魔王の件の時は何してたんだ?」


「え?・・・何って普通にガルートで魔物と戦ってたわよ。」

「憲兵たちとか?」

「うん。」

「ふ~ん。」

「な、何よ!?」

「いや、別に・・・」


ディケンズが砂漠の方を見ながら言った。

「そういや、寝るところは街道沿いにあるからいいが、喰いもんは確保しとかないといけないな・・・」



一度、街道を外れて魔物の肉を調達した一行は、街道沿いにある宿泊所に着いた。

その宿泊所は砂漠の中に点在するものと違い、街道沿いである為、今も旅人が利用する事が多い。ベールズからそこまで離れていない事もあり、ちゃんと整備がされている。

切り出した石ではなく、木材で作られたベッドに腰を下ろしたライラは、大きく背伸びをした。

袋から薬を取り出し、同じくベッドで落ち着いたミリオンに放り投げる。

「もう大丈夫だろうけど、一応塗っとけ。」

「あ、ありがとう。」


「お前さん、特に身体が受け付けないもんとかないよな?」

調理場からディケンズが声を掛けた。

「だ、大丈夫です。」ミリオンは思わず敬語で答えた。

「んじゃ、適当に作るぞ。」

「はい。」


「なぁ?酒はあるか?」

ライラがディケンズに尋ねる。

「酒は・・・見当たらねぇな。」

「ちっ!ベールズまでおあずけか・・・」

「持ってきてたんじゃないのか?」

「宿賃代わりにダリルにやったのさ。」

「あぁ。」

「仕方ねぇ、ちゃっちゃと喰って、寝ちまうか。」





ディケンズが出来上がった料理をテーブルに並べ、3人は食事を取る。

料理と言っても、ただ適当に味をつけ、焼いただけの肉に雑多な葉物を申し訳程度に添えているだけだった。

剥き出しの骨を掴み、噛り付く2人だったが、ミリオンは手を付けず、キョロキョロと周囲を窺っていた。

「毒なんか盛ってないから安心して喰え。」

ディケンズの言葉にミリオンは戸惑いながら尋ねる。

「ナ、ナイフとフォークは無いの?」

「あぁ?」

その言葉に2人は顔を見合わせる。

「調理場を探せば、多分あると思うぞ。」


ミリオンが立ち上がり、調理場に探しに行く姿を見ながらライラが呟く。

「この肉にナイフとフォーク・・・まるで良いとこお嬢さんみてぇだな。」

「違ぇねぇ。」


戻ってきて食事を始めるミリオンだったが、ガツガツと食べる2人と違い、丁寧に食べる為、自然を2人が先に食べ終え、手持ち無沙汰となった。


ディケンズはふと、気になっていた事を口にした。

「なぁ。ところで何で殺し屋なんだ?」

口の中の物をきちんと飲み込んだミリオンが返す。

「どういう意味?」

「正直なところ、お前さんに向いてるとは思えない。」

「まぁ、間違いなく天職じゃねぇだろうな。」ライラも同調した。

「金は良いが、簡単な仕事じゃないし、人様に誇れるような仕事でも無い。お前さんが選ぶ理由があると思えないんだが。」

「そ、そんな事、私の勝手でしょ。」

「まぁ、そう言われればそれまでだけどな。」



「・・・」

ライラとディケンズの促すような無言の視線に居たたまれなくなったミリオンは、ゆっくり口を開いた。

「・・・復讐の為よ。」

「復讐?」

「殺したい奴でもいるのか?」

「私は・・・ファルクラウト家の者なの。」

「ファルクラウト家?」

所作の丁寧さに合点がいき、納得するディケンズに対し、ライラの頭の上には疑問符が浮かんでいる。

ミリオンに代わり、ディケンズが答えた。

「ナイダディールの方ではかなり有名な貴族の名家だ。」

「貴族?そいつが何で復讐に繋がるんだよ?」

「母さんは正妻じゃないの・・・」

「あ・・・あぁ。」ライラは一瞬戸惑い、ディケンズは「そう言うことか。」と小さく呟いた。



ディケンズが尋ねる。

「だが金持ちの隠し子なんて、そんなに珍しい話でもないだろ?それにファルクラウト家なら羽振りは良いはずだ、世間体を気にして断絶するにせよ、金銭的補助はあったんだろ?」

「生きてくだけの金を補助して貰ったなら、そこまで恨む事も無くないか?」

ライラも疑問を呈した。

「母さんは、私が2才の時に病気で死んだの。母さんの葬式が上げられる事もなく、私だけが実子として引き取られたわ。」



それがミリオンにとって地獄の日々の始まりであった。

建前上、実子として扱われたが、彼女の存在は異端であり、彼女を見る多くの者の視線は軽蔑だった。本来は世話をする立場のメイドたちでさえも、その瞳からは「穢れた血」「場違いな娘」と言う言葉が読み取れた。


それでもミリオンは必死に学び、誰よりも貴族としての振る舞いを身に付けようと努力した。しかし、彼女が気品を身に纏えば纏うほど、彼女に対する軽蔑の意は色濃くなっていった。

それに関して全く無関心の父親、そしてミリオンなど初めから居ないかのように振る舞う継母。


肉体的に傷つけるようなものではなかった。だが、止める人間のいない差別は、ミリオンをずっと苦しめ続けた。


「16歳になった時、私は父親(あの男)の言ったの・・・」




「失礼します。」

ミリオンが部屋に入り、お辞儀をする。

豪華絢爛の装飾に彩られた部屋で、一人の男が椅子に座り、何かの書類を確認している。

ミリオンの父親であり、ファルクラウト家当主。アルバン・ファルクラウト。

「どうした?」

アルバンはミリオンを見ることもなく、書類に目を落としたまま答えた。

「お父様。お願いあります。」

「何だ?」尚も興味無さげに答えた。

「家を出て、お母様と暮らした家に住みたいのです。」

そこで初めてアルバンは顔を上げ、怪訝な表情でミリオンを見た。

「アマンダと?何を言っている?暮らしてるじゃないか?」

「違います。私の本当のお母様、リズィーです。」

「リズィー?」

アルバンが思案する。ミリオンはその姿を見て、後ろ手に拳を握った。

その表情はわざとではなかった。本気で理解していない。そして・・・


「ああ。そんな女もいたな・・・」

この男は、互いに愛し合い、子供まで授かった相手の存在を忘れていたのだ。

ミリオンは怒りに震える身体を必死に抑え、部屋を出た。


父親の態度は、彼女に復讐を誓わせるのには十分であった。


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