軍事プラント
アレンの相棒であるアルティメス・ヴェルデを描きます。
白い雲に囲まれた青い空の中を一つの物体が横切る。それを邪魔するものはおらず、もし仲間がいても、引き離されない程度の速度で駆け抜けながら、ただ自由に羽ばたき続けていたのはアルティメス・トワイライトだ。
そのトワイライトのコクピット内でアラートが鳴る。それに気付いたリンドはすぐにレーダーを確認すると仲間が近づいていることを確信した。左方向へ視線を向けるとそこにはアレン・パプリックが乗るアルティメス・ヴェルデがリンドを追いかける形で合流しようとしていたのだ。二人がそのまま合流するとヴェルデから通信が飛んできた。
「予定通りだな」
「当たり前だよ。時間は守らないとね。……彼の方がもっとも、きっちり時間通りにやって来るけど……」
「全くだ……」
何やら談笑を始める。彼らがこれからする"狩り"とは、明らかに雰囲気が異なっていて、緊張感の欠片が微塵も感じない。しばらく滑空を続けていると前方に森が見え、それを見下ろすように侵入した。そして、彼らの"狩り"をする場所が見えてきた。
その場所とは、当然ガルヴァス帝国の軍事基地だが、今までのを比べるとその領土は大きかった。どうやら重要な場所らしい。
「そろそろ"狩り"といきますか」
「ああ。邪魔する輩は即刻、"狩る"がな……」
「……お手柔らかにね」
アレンの言葉にリンドは思わず苦笑いしてしまう。アレンが一番ゴミを散らかしてしまうことを容易に想像できてしまい、なるべくやり過ぎないようにと願った。なぜなら、アレンが乗るヴェルデには、それだけの武装が積まれているのだ。その心配が的中しないとは――限らない。
それに関わる、とある気配がリンドの中で渦巻き、いつの間にか表情が青ざめていた。
――それがお披露目になるのはもうすぐかもしれない、と。
そうこうする内に、二人は基地の迎撃範囲内に侵入することとなった。
時は少しだけ遡る。
「本当に来たのか!?」
「ああ!」
「あの宣言通りって訳か! なめやがって!」
ガルヴァス軍の基地内では警報が鳴り響き、そこに所属していた士官らが自分の持ち場へと走り回っている。まさか、宣言通りに自分達へ牙をむくことを今でも信じていなかった。だが、今の状況から見ても、これは現実なのだということを頭の中に埋めていった。
「シュナイダーを発進させろ! ここは何としても死守するのだ!」
「イエス サー!」
基地の格納庫の中からシュナイダー、十機近くのディルオスが出てくる。すぐさま基地の前方に赴き、武器を構え、迎撃の態勢を整おうとする。見た目では分からないが、出撃したディルオスからは明らかに焦りを感じられた。彼らが焦る理由はただ一つ。そこは帝国の重要拠点だからだ。
実は基地の後方に巨大なタンクが設置された軍事プラントであった。ガルヴァス帝国にとって重大な地点の一つでもあったのだ。タンクにはギャリア鉱石から抽出されたギャリアニウムが多分に含まれており、そこを落とせば何キロか離れた軍事基地にも影響をもたらし、侵攻の出足を大きく鈍らせることも出来るからだ。
ところが、彼らレイヴンイエーガーズにとってはあまり得策ではないと感じていた。なぜなら、本来そこを落とすのはまだ早いと思い、最初はその軍用プラントの周辺にある基地をいくつか破壊した後、重要な拠点であるここを落とすことが作戦プランであった。
また、ギャリアニウムには大きな欠陥——ギャリアウイルスを生み出す一因にもなっている。うかつに手を出せば、ウイルスがまた飛び散る可能性も否定できない。
このため、祖国を取り戻そうとするレジスタンス達も行動できなかった。シュナイダーが警護に入っていることも数えられるが、ウイルスの拡散は絶対に避けるべき問題だからだ。ルーヴェ達もその危険性を頭の中に入れている。
だが、彼らのあの宣言が本気であることを示すためには、世界に一度分からせることも必要であるとハルディは考えていた。これが成功すれば、彼らに虐げられていた反抗勢力も息を吹き返すことになり、軍も対応を追われることになる。
また、軍事プラントを立て直そうにも本国から派遣したり、周辺にいる軍事基地から人員を割ける必要があり、どの道、反抗勢力の勢いに押されることになるのも理由の一つでもあった。
さらに、プラントを破棄すれば周辺からの応援も呼べなくなり、その応援である基地の供給も止まる。そうなれば基地はやがて使い物にならないとハルディは読んだのだ。だからこそ、この軍事プラントを落とすことを決定したのだ。もはや凶悪テロリストの――悪魔の思考である。
それを頭の中で思い浮かんでいたリンドはまたも苦笑いしてしまう。
「ホント、怖いこと考えるな、あの人は」
「だが、理にかなっている。拠点を制圧することは戦略の一つ」
「やっぱ、そう思う?……軍人さん」
「…………」
アレンは答えない。その思考は明らかに戦略を肯定するあたり、リンドの言う通り軍人そのものである。もっとも、アレンの頭には過去に起きた戦争の風景が浮かび上がっていた。
共に生きてきた戦友、辛くとも自分を鍛えてくれた先輩、生きるために殺すことを決めた敵、そんな今までの思い出にあるもの、自分に思い当たるものをアレンは耽る。だが、彼は思考を切り替える。今までの思い出は自分の中にあるものだと。そして、もう二度と辛い世界にさせないために今一度戦うと。
そんな決意を瞳に宿し、アレンは新たな仲間――《同胞》と共に目の前にいる敵との戦いに突入していった。
トワイライト、ヴェルデの名を持つ二体のアルティメスが基地の迎撃範囲内に侵入した時、基地から大量の迎撃ミサイルが発射された。白い煙を撒き散らすミサイルは、まっすぐに山を形作るような軌道で目標であるアルティメスへ向かっていった。
「「!!」」
それを視界に捉えていたリンドとアレンはすぐに左右に分断し、ミサイルを回避する。回避されたミサイルは目標を見失い、そのまま落下するように地面へ突撃し、爆発した。だが、数発が未だに両者を捉え、後を追いかけてくる。
二人はこのまま基地へ直行するが、それを読んでいたディルオスがマシンガンを発砲、バズーカから実体弾を発射し、基地から近づけないようにした。さらに基地から機銃が火を噴き、弾幕を厚くする。こんな弾幕では近づくことさえできず、並みの軍隊では一瞬で蹴散らされるのが目に見える。
砲弾の嵐に阻まれたトワイライトとヴェルデは基地の周辺を飛び回る。一方、二機を追いかけていたミサイルは砲弾の嵐に巻き込まれ、一発も当たることなく爆発してしまう。意外にも二人の危機を助けることになった。
それでも嵐は止まず、二機は未だに基地に近づくことさえままならないこの状況で、退くことをしない彼らは前に進んでいった。
リンドとアレンは砲弾の嵐から一旦離れ、リンドは左から、アレンは右から挟み込むように突入を試みる。だが、機銃の弾幕は左右にも広がっており、正面ほどではないが、それでも近づけないことには変わらなかった。
しかし、二人は弾幕が薄くなったことをきっかけに、弾幕の元である基地機能を無力化させようと攻撃を開始する。
トワイライトは飛行形態を維持したまま空中を縦横無尽に駆け回りつつ、ミサイルとゼクトロン・アサルトライフルで機銃とミサイルの発射管を破壊していく。
一方、ヴェルデはゼクトロン・ピストルでリンドの妨害をしようとマシンガンで迎撃するディルオスを次々と無力化させていった。
アレンが乗るヴェルデは地上に降り、ディルオスの相手をし、リンドが乗るトワイライトは空中でプラントにある対空装備を片付けるという配置である。
襲撃から数分経って、状況は未だに拮抗したままであったのだが、対空装備があろうと二人の敵ではなかった。
軍用プラントの迎撃手段が潰され、次第に砲撃が止みつつある中、トワイライトは人型に変形し、右手に持ったゼクトロン・アサルトライフルで今度は複数のディルオスへ発砲する。発砲されたエネルギーの弾丸は雨に打たれるようにディルオスを貫き、次々と破壊していった。
格納庫から新たなディルオスが現れるが、それを狙ったかのように一筋の閃光がディルオスの胸部を貫き、爆散させる。その直線上にいたのはゼクトロン・スナイパーライフルに持ち替え、ゴーグルスコープを展開しつつ銃口を構えていたアルティメス・ヴェルデだった。
先程の出来事に狼狽える複数のディルオスに待ったをかけさせず、アレンは次々とピストルの銃口から放たれる閃光の前にひれ伏すように爆散されていった。
「後は――ッ!」
アレンがプラントの中枢に位置する巨大なタンクへ視線を変えるとまた格納庫からディルオスが現れだした。今度は数十機近くあり、扇の形になるようにヴェルデの前に立ちはだかった。
「オイオイ、多すぎ。……ま、さすがは軍用プラントなだけはあるか」
その様子を上空から見ていたリンドは呆れた表情を見せる。ところが、その表情には未だに余裕を保ったままだ。
一方、アレンは数で攻めてくるディルオスに手を焼いていた。
地上に降り、ゼクトロン・スナイパーライフルをヴェルデの右肩に掛けたアレンはゼクトロン・ピストルに切り替えて相手をしていたが、チリが積もる山のように不満が募っていたのだ。
「次から次へと……!」
『手伝おうか?』
「その必要はない……!」
そこにリンドが手助けすると言ってきたのだが、アレンは必要はないと伝える。その合間に一体のディルオスが突撃してきた。
「!」
しかし、アレンはヴェルデの左肩にあるシールドを腕に装着し、カウンターの要領で先端部をディルオスの胸部に押し付ける。しかもディルオスがバトルアックスを振るう直前だったため、偶然攻撃を防御する形となるが、実は攻撃でもあった。シールドの先端が槍のような形をしていたからだ。
「甘い!」
そして、アレンは左レバーのボタンを親指で押し、
ガカァァアン‼
シールドの半分が前面へスライドし、先端部がディルオスの胸部を貫くように押し出された。もちろん胸部は貫かれ、ディルオスは行動を停止する。シールドを引き抜き、胸部に穴ができたディルオスはバランスを失って、仰向けに倒れた。その異様な光景に後ろにいたディルオスは手をやめる。
『なっ……!』
ヴェルデが使用した"バンカーシールド"は攻撃と防御を両立させた複合兵装である。相手の攻撃をいなすだけでなく、そのまま相手にぶつけるといった原始的な武装だが、相手の虚をつくには有効である。
ディルオスが手を止めている間にアレンはシールドを再びヴェルデの左肩に戻し、背中にある武器コンテナを起動する。
その行動はすなわち、ヴェルデが本気となる証拠であり、見下ろしていたアレンはその意図をすぐに察した。ここから彼の独壇場なのだと。
「すぐに降参するべきなんだけど……。アレンを本気にさせると敵さん、跡形も無くなってしまうんだから、自業自得ってことで……」
リンドはバツの悪そうな顔をし、苦笑いしてしまう。ここからは一方的な蹂躙の始まりだということを。
アレンはヴェルデの左背面に位置する武装を展開する。その武装には背中をつなぐ接続用のアームが取り付けられており、地面に向けられていた部分がディルオスの正面に向くと同時に、上空に向けられていた部分が後ろに向けるように回転しつつ、アーム部は武装がヴェルデの腰部に添えられる。最後に武装の中間に付けられていたグリップ部を左手で掴んだ。
ヴェルデが掴んでいたそれは、回転式の"ガトリング砲"であり、口径六十ミリ、六砲身で毎分一万五千発の弾丸を撃ち込む怪物だ。太陽の光に反射した砲身を向けられたディルオスは一瞬だけ狼狽える。
だが、すぐに気づくべきだった。自分が相手しているのは、常識など通用しないのだと。
「……敵の一掃を開始する!」
アレンが左レバーにある赤いボタンを押すとガトリング砲の砲身が唸りを上げるような声と共に回転を始めるとマシンガンすら叶わない、暴力の嵐がズガガガッと吹き荒れた。マシンキャノンとは比べられないほどの威力と連射性能を持った弾丸は正面に立ち塞がる騎士たちを抵抗させる間も与えず無慈悲に襲い掛かり、蜂の巣にしていく。
六つの銃口から放たれる、弾丸の嵐はただ的になることしかできなかった。
嵐が吹き荒れ、今も回転していた砲身が左から右へなぎ払うように弾丸を撃ち込んでいく中、扇状に展開されていたディルオスは爆散し、瞬く間に姿を消していった。
「相変わらず派手だな……」
上空から観察していたリンドも思わず戦慄し、思わず苦笑いしてしまう。さらに頬には冷や汗が滲んでいた。援護しようにも彼の邪魔をするだけだと分かっているようであえて手を出さなかった。
嵐が止み、カラカラとガトリング砲の砲身の回転が終わると銃口から白煙が吹き上げていた。今ヴェルデの正面には展開していたはずのディルオスだったモノが散乱し、そこから黒い煙が立ち篭っていた。その光景は圧倒的な力を示した結果であり、まさしく嵐によって家が形すら残さない様となった。
一方、煙の奥に何かいることを掴んだアレンはすぐさまスラスターを噴射させて上空に逃げる。すると案の定、また別のディルオスが現れだした。
その予想をしていたアレンはヴェルデの装甲をすべて開放する。その奥に隠されていたのは数多の小型ミサイルだ。そのミサイルが発射され、白煙を吹き上げながら目標に突き進んでいく。
いきなりミサイルが来たことに驚いたディルオスは回避が間に合わず直撃され、爆発に包まれていく。ヴェルデの視界は赤と黄色が混じった炎だけが映っていた。
ヴェルデのコクピット内で、その余韻を裏切るように通信が開かれる。その相手はもちろん、リンドだ。
「オーイ。さっさと仕上げに入るよ!」
「分かっている」
アレンはヴェルデの左背面に搭載されたガトリング砲を戻し、かわりに右背面部に搭載された武装コンテナを展開させる。ガトリング砲と同様に接続用のアームが動き、地面に突き出た部分が前面に向けられ、さらに重厚が備わった砲身が前方に回転した。
また、展開された武装にもグリップ部が取り付けられており、今度は右手で保持された。
右背面に搭載された武装――"長距離用滑空砲"は、ゼクトロン・スナイパーライフルと同様に狙撃用として搭載されたものである。異なる点は通常の実体弾を使用することであり、様々な種類の実体弾を撃ち出すことが可能。
実はグリップ部の先には弾倉があり、そこに弾薬が詰まったマガジンを載せることで様々な戦況に対応できる設計となっている。また、そのマガジンには臀部に搭載されており、瞬時に弾を切り替えることができるのだ。
ガトリング砲が"面"を制圧させる武装なら、滑空砲は"点"を撃つ武装という、対となす武装構成――これこそアルティメス・ヴェルデの真骨頂であった。
その滑空砲を構えたヴェルデは軍用プラントにあるタンクへ銃口を向ける。それを視界に入れていたアレンは照準の表示を示すマーカーを合わせていく。
「これで、決める……!」
そのマーカーが緑から赤へ変わると右レバーにある赤いボタンを押す。滑空砲に仕込まれた実弾が撃ち出されたのだ。
ドガァァァアン!!
戦車にある砲塔から砲弾を撃ち出す際に発せられる高音のごとく戦場に強く響いた。撃ち出された砲弾は滑空砲の中で電磁加速され、音を追い越す速度で駆け抜けていき、タンクへ命中させた。さしずめ電磁加速砲(通称:レールガン)である。
一泊置くとタンクから火が吹き出し、基地を形成していたパイプを通って次々と小さな爆発が連鎖するように起きていく。最後には直撃されたタンクが大きな爆発を起こした。その爆発から破片のようなものが飛び散り、周囲へと拡散していった。
周囲にあった施設だけでなく軍の士官はおろか、ディルオスをも飲み込んでいったのだ。
まるで、でっかい花火が起きたようなものだ。ただ、その花火は危険な不吉を暗示させるようなものだった。
基地に立っていたヴェルデは爆発が起きる前に立ち去り、トワイライトがいる上空へ避難していた。トワイライトの左隣にはヴェルデが立つ構図として。展開していた滑空砲は、今は通常通り背面部に収納されていた。
『RYS‐04アルティメス・ヴェルデ』——射撃に特化されたこの機体は、主にに長距離狙撃、および後方支援に特化された機体である。その象徴と言っていい全身に搭載された武装は、あらゆる距離に応じた装備となっており、状況に応じて武器を選択することが可能。まさに動く弾薬庫である。
「派手だなあ……。というより、えげつない……」
「……少しは奴らにも痛みが分かってもらえればいいんだがな」
爆発を繰り返していく惨状を黙って見ていたアレンたちは、意外にも涼しい顔をしていた。神経が太いというのはこういうことだろうか。
「でも、ウイルスが広がらない? ここまで行くと」
「何を言っている。俺たちやアルティメスはこういうためのものだろうが。なに、そう簡単に広がりはしない。俺達がいる限り、この世界を滅ぼさせるわけにいかないからな」
「そうだね……。僕達がいることこそが目的でもあるからだし、まあ、あれだけ派手に動いていたら……」
ウイルスというのは、ギャリアウイルスのことを言っているのは間違いないだろう。あれだけの爆発ならウイルスがばら撒かれ、感染のリスクが広がるのは確定事項である。つまり、世界の滅亡を加速させているようなものだ。
ところが、リンドたちはそんな心配などしていなかった。それは彼ら自身と、アルティメスがウイルスを広げなくするようだが、どういう意味なのだろうか。
自分達がいること。レイヴンイエーガーズの目的とはいったい何なのか。その意味を問い出す者は、今はここにいない。
もしかしたら、彼らにはウイルスに対抗できる、世界を救える可能性切り札を持ったあるのかもしれない。
「なら帰るぞ」
「……了解」
リンドたちは燃えゆく地面を一瞥し、この場を去っていった。ガルヴァス軍にとっては迷惑極まりないものだ。
これによりガルヴァス軍は重要拠点である軍事プラントを破壊された。たちまち、各国に知れ渡り、軍は警戒を強める姿勢となっていった。
アレンの過去に関わることが出ましたが、なぜ彼らと一緒にいるかはまだ謎のままにします。




