ライバル
これで第1章完結です。長い前フリにもなりましたが、話を進めるのに苦労します。
また、その場で思いつき勝ちになりますのでご了承いただければよろしいかと思います。
リンド達が軍用プラントを襲撃していた時、アルティメス・クロウに乗り込んでいるルーヴェ・アッシュは今、別の地域でガルヴァス軍と対峙していた。
彼が今いる場所は規模の小さい駐屯基地であり、同時期にリンド達が襲撃している軍用プラントではない。
もちろん、軍用プラントは日本にも数基存在しているが、ルーヴェがいる場所にはなく、別の地区に設置されている。だが、彼らも軍用プラントを全て把握しているわけではなく基地を片っ端から潰しているだけであり、そこに住み着く人々から言ってみれば、はた迷惑にも思えた。まさにカラスの所業である。
もっとも、彼らの目的はカラスの思考とは当然異なっていた。彼らの目的はそんな些細な迷惑ではないのだから……。
そのクロウはというと右手に太刀を携えたまま、基地を防衛するディルオスと白兵戦を仕掛けていた。その周囲にはクロウに倒されたディルオスの残骸が転がっており、どれも刃物で切りつけられた傷が目立っている。そして今も、また新たな残骸が転がろうとしていた。
『な、何なんだ、あれは……』
『我々の武装では、歯が立たないというのか……』
ディルオスがまた倒されたことで、それを呆然と見送っていたディルオスのアドヴェンダー達は、嘆きのようなものを口にする。たった数分で十機近くも墜とされ、今ある武装でも傷一つもつけられないという現状が彼らの心を満たしていたのだ。このままでは、基地が墜とされるのは時間の問題だと次第に顔に出始めた。
その正面にいたクロウが獲物を狩り取るために足を進ませる。一定の距離を保とうと二機のディルオスは後退り始めた。傍から見ても恐怖に怯えまくっているのが分かる。
(茜がもうじき合流するとは聞いたけど、この調子だと僕一人で終わっちゃうって……)
彼の思ったとおり、既に決着がついたようなものだった。彼らには抵抗の意志が見られず、ただ怯えているだけであり、刺激にもならなかったようだ。このままでは茜が乗るアルティメス・クリムゾンが到着する頃には、戦闘が終わるのは見に見えていた。
しかし、ルーヴェは表情を緩めない。それは一瞬の油断が危険を呼ぶことを体でわかっていたからだ。
ルーヴェはクロウを悠然と足を進める中、何かに感づいた様子を見せる。
「!」
レーダーに反応を捉えたらしく、ルーヴェはその反応が出た地点である後方へクロウの頭部を傾ける。その視線を向けたその先には、白い鳥のようなものだった。それは彼にとっての未知の存在でもあった。そこから一発の弾丸がクロウに襲いかかった。
「!!」
それに反応したルーヴェは一旦飛び上がり、弾丸を回避しつつ後方に着地した。結果的にディルオスから距離が離されてしまった。
その白い鳥は彼らの上を超えてゆき、空中で静止した。それは白い鳥ではなく、翼を生やした巨人――ヴィルギルトであった。その右手にはディルオスが持つマシンガンではなく、ヴィルギルトだけが持つ専用のライフル、"ヴィルドライフル"であった。
「どうやら、間に合ったか……」
ヴィルギルトに乗り込んでいたレギル・アルヴォイドはまだ基地が墜とされていないことに安堵していた。せっかく駆けつけたのに既に墜とされていたのでは、少々気分が悪かったのだ。レギルは地上を見下ろしながらモニターに映るアルティメス・クロウに目を向ける。
「あれが"カラス"か……。確かに、悪そうだな」
レギルはクロウを見て、思わず苦笑いを浮かべる。不吉を連想させるデザインに脱帽仕掛けていたらしく、笑ってしまうことを心の中に留めた。
なぜなら、自分が乗るヴィルギルトと、視線を向けていたクロウとは実に対照的であった。それはヴィルギルトの"白"に対し、アルティメス・クロウの"黒"という機体色が正反対というものである。翼を生やしたデザインも共通しているものであり、兄弟機と言われても、しっくりきてしまう。
その対照的な二機が今、邂逅を果たしたのだ。その邂逅は決して偶然ではない。
しかし、出会ってしまったが故に彼らは戦わなければならない。なぜ、戦わなければならないのか? 両者にとっては異なる陣営についていただけではない。それは大空を羽ばたく鳥達にとっても避けては通れない問題――生存競争でもあった。
生存競争は、人間や動物、生き物にとって、長年をかけて続けられていた戦いであり、避けられない、共存しなければならないものでもある。自分達の居場所を守るだけでなく、安らぎを求めるために他者の居場所を奪う行為。そんな醜い争いが今も続いていた。
ガルヴァス帝国の侵攻も、その延長線上でしかなく、居場所を勝ち取るしか生き延びる術がなかったのである。もっとも、それに愉悦に浸る輩がいるのは否定できないが。
また、人々から嫌われ続けるカラスも例外ではない。彼らも巣を作り、雛を育てるために木々の中で生きるのだ。生きるためには、どうしても他者から生まれた食べ物を食らうことしかできず、空へ羽ばたくことも辞さなかった。
動物達が生きるために起こした行動にはそれぞれが知恵を振り絞ったが故のものなのだ。それこそ"食い合い"と呼べるではないだろうか。
そして今、その"食い合い"が始まろうとしていた。
クロウが背中にある翼型のスラスターを広げ、そこから青白い光が放出される。それと同時に、背中のスラスターが噴射を始め、空へ飛び立った。飛び立ったクロウは今も空中に佇むヴィルギルトと視線を交わすように空中に静止した。そこで両者は初めて目を合わせた。
「ヴィルギルトと同じ空を飛ぶシュナイダーか……これは退屈せずに済みそうだな!」
「新型か……たしか、聖寮に皇帝騎士が配属されたという情報を聞いていたけど、まさかあれが……」
レギルがクロウを評価し、ルーヴェがヴィルギルトを探る。二人がコクピットを通じて火花を散らしていた。表情にはそんな様子が微塵も表れていないが、お互い警戒だけはしていた。
ヴィルギルトが右手を背中に回し、ヴィルドライフルの銃口を下に向けた状態で背面に固定する。その後、両腰に備えられている鞘から刀剣"ヴィルドブレード"を抜き出し、両手に持つヴィルドブレードを左右に構える。
一方、クロウも右手に持つ太刀を両手で持ちつつ、右後方に回し、左肩を前に出すように構えた。その構えた姿は、紛れもない武士の構えであり、クロウ、いやルーヴェが滅多に構えないものである。それだけ相手を警戒している証でもあった。
両者が睨み合い、動き出そうとする中で待ったをかける者が現れた。
何かが近づくのを先に知ったのはルーヴェ。レーダーでその反応を調べてみると、それは彼がよく知るものであり、反対に次に知ったレギルには知らないものであった。
その二人の一騎打ちに割り込む者とは、アルティメス・クリムゾンに乗り込む龍堂茜であった。その茜が来ていた理由とは、実はルーヴェと共同で基地を襲撃することであったのだ。茜は真っ先にルーヴェが乗るアルティメス・クロウへ合流を果たした。
「やっと合流できた……! クリムゾンのスピードでも到着するのがやっとだよ、まったく!」
「もう少しで、僕一人で墜とすことになってたけど……後のことは君に任せるよ」
「え!? ちょっ、ちょっと、どういう事!?」
「どうやら……あれの相手をしなければならないらしいから」
ルーヴェは、たった今自分と合流した茜に基地の襲撃を譲る。彼女への対応は、決して喜ばれることではないことはルーヴェ自身が理解しているかどうかは知らない。だが、自分に課せられた任務を途中で放り出すわけにはいかず、どの道共同であたっていた茜にその役目を譲ったのだ。
茜はルーヴェの言葉にパニックを起こすものの、その言葉に込められていた意味を一瞬で理解した。茜は正面にいるヴィルギルトに視線を向ける。
「……わかった。そもそもアンタが先に墜としたら、それでも良かったんだけど……譲ってくれるなら、別にいいわ。ただ……アイツに墜とされたら、容赦しないんだから!」
「……ありがとう……と言うべきかな? こういうの」
「そういうことよ! じゃあ、行くわよ」
「うん!」
茜は一旦、クロウから離れて自身が見下ろす基地へと向かっていった。しかし、それを阻もうとする者が彼女の目の前に現れた。レギルが乗るヴィルギルトだ。
「!」
「残念だけど、邪魔しないわけにはいかないんでね!」
ヴィルギルトは両手に持つヴィルドブレードで斬りかかろうと背中にある翼型のスラスターを噴射させる。クリムゾンに接近した後、右手の剣で右斜め上から振りかぶったが、その剣が届くことはなかった。なぜなら、その剣は太刀を持っていたアルティメス・クロウに阻まれたからだ。
「ルーヴェ!」
「先に行って! 後は任せたよ!」
「分かってるって!」
ルーヴェは太刀を水平に構えつつ両手で支えた態勢で、ヴィルドブレードを構えたヴィルギルトを抑えたまま、茜に先に行けと促す。茜もルーヴェの時間稼ぎに感謝しつつ、任務を全うするために改めて基地へ向かっていた。
「! クソッ!」
ギリギリと鍔迫り合いが続く中、レギルは一旦、ヴィルギルトを後退させ、ヴィルドブレードを構え直した。ルーヴェも改めて太刀の柄を両手で掴み、鋒を標的へと向ける。
「「…………」」
一泊置いた後、両者は譲れない思いを抱えつつ、自身が乗るシュナイダーのスラスターを噴射させる。前へと踏み出し、持っていた剣を振り下ろすと刃先のぶつかり合いと共に、金属同士による衝突音が生じた。ようやく二人の戦いが始まったのだ。
一方、基地に降り立ったクリムゾンは両腰にあるヒートソードを手に取りつつ、正面にいる数機のディルオスをロックオンする。クリムゾンから発せられる殺気に当てられたディルオスは怯む。
「さて、残飯を喰らいに出ますか! あまり気は進まないけど!」
クリムゾンは主人の意思に応えるように背中のスラスターを展開しつつ、噴射を始め、目の前の獲物を喰らうために前へ進んでいった。
クロウとクリムゾンがヴィルギルトと相対していた頃、東京の軍事基地にある格納庫内で一人の女性が腕組みをしながら立ちつくしていた。そこに彼女の友人といっていい男が右隣に立ち、彼女に声をかけた。
「どうした、メリア卿?」
「ガルヴァーニ卿……何でもありません」
「いや、そんな風には見えないぞ。ずっとあれを見ている限りな」
二人の視線の前にあったのはトレーラーに乗せられていたディルオスの残骸であった。その残骸は右腕が肘から、左足が膝から斬られていた。他にも胴体部や胸部にも斬り傷があり、いかにもその凄まじさを物語っていた。その痕をつけたのはもちろん……
「まさか、ここまでやられるとはな……」
「あの男――アルヴォイド卿とヴィルギルトの強さは、奴らに匹敵するというのか……!」
「だが、現時点ではあの男の力を借りねばならないのが事実……」
「…………」
レギルの強さは自分達以上のものだとメリアは理解する。だが、それを認めない自分がいるのか顔を俯けていた。その彼女のフォローをするのは当然、隣にいる友だ。
実はメリアはレギルが乗るヴィルギルトと手合わせを行っていた。結果は、言うまでもなかった。
「お前の気持ちはわからんでもない。この前までは、私もそうだった」
ガルヴァーニは、明後日の方向へと目を向ける。かつての自分を思い出すかのように遠い目をしていた。その後、左手でメリアの右肩にポン、と軽く叩いた。
「まずは、認めないといかんな……目の前の現実を」
「……はい」
ガルヴァーニは気持ちが沈んでいた友人を励ます。その姿には、現実を認めていなかった頃とは見間違えていた。軍学校時代でもこうやって二人は成長していったのだ。
「そういえば……そろそろ救援が届く頃ではないでしょうか」
「ああ……アルヴォイド卿なら問題はないが、間に合えばいいが……」
「しかし、一人でいいなんて……」
「仕方ないだろ……あの機体に追いつけるものなんて我々にはない。おまけにフライトベースで飛んでも、間に合うわけがない。かえって足でまといだ」
「それは……」
「信じるしかあるまい……あの男を」
ヴィルギルトならすぐに救援に駆けつけるほどの飛行能力を有しているため、問題はなかった。
だが、二人は今の、自分達の現状を嘆く。ただ、あの男――レギル・アルヴォイドに縋るしかなかったのだった。
そのレギルはというと、未だに自身と向き合っているカラス――アルティメス・クロウと格闘していた。そのカラスはなかなかしぶとく、捕まえきれないでいた。
「まさか互角というのは正直、認めたくはないけど……まだやり合いたい気分にはなるな! ハアッ!」
「これで互角か……まあ、すんなり終わるとはいかなかったけど!」
あれから数分が経つ。幾度とも剣と太刀がぶつかり合い、致命傷どころか一太刀すら与えられることもなく、さらに隙を見せず、なおかつ一太刀を入れようとする、そんなギリギリの攻防を繰り返していた。
その数分間による立ち合いの決着がつかないのは、お互いの実力が拮抗している証だ。これぞ命懸けの決闘である。
レギルはこれまで自分と互角にやり会えたのは何人かいたが、それでもヴィルギルトを手に入れてからは、指の数ほどしかいなかった。レギルはそれほど天才的なセンスを持っていたのだ。帝国の皇族でも認める、彼を除けば……。
しかし、今自分と互角に渡り合えるそれは、まさしく好敵手――ライバルという存在に近かった。自分が知る中でも知るはずがなかった存在。自分がまだ見ぬ世界に存在していたもの。彼はようやく巡り会えたのだ。この先も幾度となく戦うだろう。そんな予感を胸にして――。
だが、その時間は長く続かない。その終わりを告げる轟音が彼らの後方で鳴り響いたのだ。
「! しまった!」
今度は最初に気づいたのがレギル。彼の瞳に映っていたのは、救援に向かっていたはずの基地であった。どうやらクロウとの戦いに夢中になっていたためか、本来の目的を忘れてしまっていたのだ。慌てて自分も基地に向かおうとする。当然、クロウが行く手を阻んだ。
「行かせはしないって」
ルーヴェがヴィルギルトの前に立ちふさがる中、アラートが鳴り響く。横のモニターに映ったのは先程から彼と共に行動していた少女、茜だ。
『終わったよ! それじゃあ、今のうちにここから退こう!』
「わかった。時間稼ぎもいいところだから」
ルーヴェは茜と共に襲撃を終えた基地から退いていった。だが、そこに待ったを掛けようとする者が一人。
「――行かすかっ……」
しかし、その声は続かなかった。その横目には爆発に広がる基地がそこにあったからだ。レギルは顔を俯けたまま、体を震わせる。白の騎士の初陣は何とも不甲斐ない結果で終わった。
基地襲撃の任務を終えたルーヴェと茜は帰路についていた。
「あれが、皇帝騎士か……斬りたかったなあ……」
「物騒なことを言わないでほしいんだけど……」
「ゴメンゴメン。……でも、ああいう奴がいくつも控えているだと聞くと、ね?」
「…………」
茜の物言いに、ルーヴェはドン引きしていた。茜もすぐに誤ったが、最後の言葉は切り裂き魔そのものであった。いくら、彼女がガルヴァス帝国に恨みがあるからってその言い方は何とも気持ち悪かった。
ルーヴェは自分に感情がないとわかっていても、こればかりはすぐに感じた。
「そういえば、聞いてる? 一旦集合するって話。リンドもアレンも戻ってくるって」
「ああ。ようやく戻れるのか――僕たちの、巣に」
二人は自分達のいる場所に戻れることに安堵する。そして、夕焼けの空に映る二羽のカラスは、自分達の巣へと戻っていった。
ようやく第1章が終わりました。次の第2章はそれぞれの思惑が交錯していくことになります。そして、主人公たちの秘密に近づいていきます。




