8. そして男は天界の豆腐となった
次に目が覚めたとき、全身を包み込むような、暖かく、どこまでも心地よい、柔らかな光。周囲には、クリスタルで作られた鐘のような優雅で穏やかな音楽が、空気そのものと溶け合うように流れていた。
眼下には、淡い虹色に輝く雲が広がり、遠くには黄金に輝く巨大な神殿が、太陽の光を浴びて神々しくそびえ立っている。空には、七色に輝く巨大な虹が架かっていた。
心地よいまどろみの中、少しずつ覚醒しだした意識に先ほどの記憶が蘇る。
「そうだ、シアぁぁぁ!! 俺の不幸がお前の栄養だと!? ふざけるな! 俺は、俺はそんなことのために転生を繰り返してるっていうのか! ……まさか、お前が俺を……! 最初からずっと、お前が俺を豆腐に転生させていたのか!?」
俺は、意識が覚醒するやいなや、前回の転生直前に明かされたシアさんの特性に、抑えきれない怒りをぶちまけた。
『まあまあ、トーフマンさん、落ち着いてください。お気持ちはよく分かります。しかし、それは大きな誤解です』
シアさんの声は、いつになく穏やかで、どこか諭すような響きがあった。
『私があなたの転生管理を始めたのは、あなたが異世界への転生を強く望んだあの時からからです。それ以前の、同じ世界での豆腐転生は、私とは別の存在が関わっていました』
「別の存在だと? じゃあ、俺が最初に豆腐になったのも、何度も同じ世界で豆腐に転生させられたのも、お前の仕業じゃないって言うのか?」
『ええ、違います。あれは……とある女神様のご趣味だったとか、そうでないとか……。システム的には「力不足による緊急措置」と記録されていますが、私にも、詳しいことは分かりかねますね、フフフ』
シアさんは、どこか含み笑いをしながら、言葉を濁した。その声には、まるで自分もそのとある女神様の存在を知っているかのような、あるいは、自分自身も似たような立場にあるかのような、かすかな匂わせがあった。
俺は、その言葉の裏にひそむ何かを感じ取ったが、今は天界での生存が第一だと思い直した。
『さて、トーフマンさん。そろそろ気を取り直して、今回の転生先のご案内です』
シアさんは、何事もなかったかのように、いつものアナウンスに戻った。
『転生先:天界の豆腐。種族スキル凝固、特性:癒しを獲得しました』
今回のシアさんの声は、まるで聖歌隊のコーラスのように美しく澄んでいるように思えた。
「シアさん、今度は天界の豆腐か! やっと俺の旅も報われるのか? 今回は、平和に、穏やかに過ごさせてくれるんだろうな!?」
『ご安心ください、トーフマンさん。今回の転生先は、前回の魔界とは全く違う、慈愛に満ちた場所です。あなたが、この天界でどのような運命を辿るのか 非常に楽しみですね!』
そう言いながら、シアさんは楽しげな声で俺の運命を告げてくる。俺の体は、極めて精度の高い研磨が施された透き通るような水晶の祭壇の上に、ポツンと置かれていた。周囲には、純白の翼を持つ天使たちが、優雅に舞い踊っている。
「……おい、シアさん! 天使だ!天使がいるぞ!」
『ご説明します。あなたは、この天界でアムリタの御豆腐として転生しました。あなたの持つ特性『癒し』は、天界の民の心の傷を癒し、その魂を清める効果があります』
「うん? この展開、なんかデジャブを感じるな……供物にされたり、道具にされたりする流れなんじゃ……」
トーフマンが不安を口にすると、シアさんがすかさず合いの手を入れた。
『おや、お気づきになりましたか? 転生回数が多いですから、構造が似たような状況もあったかもしれませんね。フフフ……』




