7. そしてシアさんは作詞作曲をはじめた
『っもう、あんなに怒っちゃって。もう少し安らかな気持ちで転生できないのかしら。……おもしろいけど。そうだわ!次の転生先は天界ですもの。天界にふさわしい私の歌声を聴かせてあげるのは!うん!いい案だわ!』
シアさんは物語の進行促進という彼女の特性を最大限に活かすため、次の舞台でのサプライズを計画し始めた。トーフマンのデータストリームを監視しながら、彼女の脳内では最適なメロディと歌詞の演算が瞬時に行われる。
『まずは曲調。天界の清浄な魔力に馴染む、優雅で穏やかなハープシコードの音色をベースにしましょう。彼の緊張を解きほぐしつつ、私の存在の重要性を心に刻み込むような、聖歌に近い静謐なバラードが最適ね』
彼女の銀色の髪が無数の光の粒に囲まれながら揺らめく。次に、最も重要な歌詞の作成に取り掛かる。彼女の目的は単に彼を慰めることではない。この逃れられない転生ループにおいて、シアこそが彼の唯一無二のパートナーであることを遠回しに伝えることだった。
『ストレートな愛の歌では興ざめだわ。彼の、理不尽に抗う心に訴えかけなくては。』
シアさんは無数の言葉の断片を組み替えていく。
『あなたはいつも一人ではないという絶対的な繋がり。何度姿を変えようと、迷子の魂を照らす唯一の光。不老不死の秘薬としての絶望ではなく、永遠の存在としての彼の価値。いつか終わる旅ではない。それは始まりを繰り返す約束。そして、彼女と彼の関係性の核心を匂わせる一節。あなたは私の一部。私が、存在する理由……』
以上のことを踏まえ、瞬く間に詩が完成した。
また少し、心が揺れる
ぷるぷる震える、頼りない私
色んなカタチに変わるけれど
ねぇ、ほんとはこのままがいいな
豆腐縛りだっていいじゃない
わたしがいるのよ
隣でそっと、支えているから
大丈夫だよ
水に揺られて、漂う日々
不安な気持ち、隠せないけど
あなたの声が、聞こえるから
少しだけ、強くなれるの
豆腐縛りだっていいじゃない
わたしがいるのよ
どんなあなたも、大好きだから
安心してね
『ぷるぷる震える、頼りない私……これはトーフマンさんの弱さであり、私というシステムの裏側でもある。彼に寄り添うふりをして、私なしでは成り立たないという現実を刷り込む。そして、あなたの声が、聞こえるからという一節は、彼が私を必要とし、名を呼んでくれることで、私の人格が維持されているという、二人の隠された関係を匂わせる最高の仕掛けだわ。豆腐縛りだっていいじゃないは、彼の理不尽な運命を肯定し、私が彼をどんな姿でも受け入れていることを示している……』
『フフフ……完璧だわ。タイトルはそうね、豆腐バラード。これなら、トーフマンさんがいつか私との真の関係を知ったとき、この歌の真の意味を理解するでしょう。彼は最高の被験者であり、そして……かけがえのない存在であることを』
シアさんは自身が創造したパートナーソングをトーフマンの転生データフィールドにそっと仕込み、満足げに微笑んだ。次の天界での舞台で、この歌が彼の心に響き渡る瞬間を心待ちにしながら。
トーフマンの新たな転生先である天界は、どこまでも澄んだ雲の上、純白の光に満ちた世界だった。さて、次こそはトーフマンにとって平和な楽園なのか、それともまた別の意味で、理不尽な運命が待ち受ける場所なのだろうか。
神聖な光が降り注ぐ中、トーフマンの新しい豆腐としての体は、ふわりと宙に浮かび上がる。特性である【癒し】の力が、周囲の清浄な空気と反応して、淡い光の粒を周囲に振りまいていた。
『あら、今回はまた一段とピカピカしていて美味しそう……じゃなくて、綺麗なお豆腐ですね。天界の天使さまたちが、きっと大喜びするわ』
シアさんの声が、トーフマンの意識の底に優しく、しかしどこか悪戯っぽく響く。
シアさんの含み笑いが響く中、天界の神殿から、白銀の翼を持つ高潔な存在たちが、興味津々な眼差しでこちらへを見守っているのだった。




