6. そして男は転生を懇願した
「待ってくれ!待ってくれよ魔王!1000年ってなんだよ!俺は豆腐だぞ!?豆腐の賞味期限は長くて一週間だ!1000年も経ったら、ただの腐った豆腐になってるだろ!不老不死どころか、食中毒になるぞ!そんな伝説、信じるな!俺は、俺はただの豆腐なんだ!頼むから、今すぐ食ってくれ!いや、食うな!どっちだよ!?わけが分からなくなってきた!」
俺の叫びは魔王には届かない。魔王は、俺の微弱ながらも強大な封印の力に驚きながらも、俺の体を手に取ったまま祭壇の奥にある巨大な扉の前に置いた。その扉は禍々しい紋様が刻まれ、見るからに厳重で重々しい保管庫の入り口だった。
「この封印の豆腐の強大な力で、この保管庫は誰にも破られぬ。そして、1000年の時が、この豆腐を真の不老不死の秘薬へと昇華させるだろう!」
魔王は俺の体をその扉の奥へと押し込むと、巨大な扉は俺の力を受けゆっくりと、しかし確実に閉まっていく。
ギシッ、ゴゴゴゴ……。重厚な石の扉が閉ざされる音は俺の絶望をさらに深くした。光が完全に途絶え、全てが闇に包まれた。
「待ってくれ!俺は、こんな場所で1000年も寝かされるのか!?暗闇の中で、ただ腐敗するのを待つだけなんて、そんなの、そんなの耐えられない!俺の冒険は、まだ始まったばかりなんだぞ!誰か、誰か助けてくれ!」
俺の声は閉ざされた扉の向こうには届かず、暗闇の中で、厳密には豆腐の中でだけ虚しく響いた。俺は自分の運命を呪った。1000年。それは人間にとっては気の遠くなるような時間だ。豆腐にとっては存在そのものが消滅するに等しい永遠の退屈だ。
「なあ、シアさん……」
俺は暗闇の中でふと疑問に思ったことを口にした。
「俺って、もしかして、死なないと……いや、豆腐の場合、食べられたり、体が崩壊しないと、次の転生ができないのかな? 1000年、ここで腐るのを待つしかないのかな?」
シアさんは少しの間沈黙した。沈黙という名の期待に満ちた間。そして、いつになく真剣な、でも、いつも通りどこか楽しげな声で答えた。
『いいえ、トーフマンさん。私の一存で、あなたの転生を早めることは可能です。システム管理者としての特権、ですね。はい。』
「なんと!?」
俺は驚きを隠せない。そんな裏技があったのか!?
『ええ。ここで、私のスキルについて、改めてご説明しましょう。私の種族はシステムアナウンス。種族スキルは転生管理。そして、特性は物語の進行促進です』
シアさんの声はどこか誇らしげだった。まるで自分の正体を明かすことで物語がさらに面白くなるのを確信しているかのように。
『この特性、物語の進行促進には、一つだけ条件がございます。それは……深刻ではないくらいの他人の不幸を摂取して満足することです。あなたの一喜一憂や絶望の叫びは、私にとって最高の栄養となるのです!』
「な!な、なんだとぉぉぉっ!!? シアぁぁぁ!!俺の不幸が、お前のメシだったのか!?そんな勝手な!俺は、俺はそんなことのために転生を繰り返してるんじゃないぞ!まさか、お前が俺を……!」
俺が猛抗議を始めた途端、シアさんの声がそれまで以上に楽しげに響いた。
『おっと、時間切れのようです!怒りによるエネルギーの放出、大変美味しくいただきました!転生を開始します!』
『転生先:天界の豆腐。種族スキル凝固、特性:癒しを獲得しました』
トーフマンはシアさんの転生アナウンスの言葉を呪いのように聞きながら、冷たく固い闇の中で再び意識を失った。




