35. そして男は惑星となった
俺がシアさんに問いかけると、彼女の声は全宇宙に響き渡るような誇らしげな音色で響き渡った。
『トーフマンさん。あなたは、あなたの魂の力そのものが具現化した、惑星豆腐として転生しました!』
その言葉が示す意味を、俺はすぐに理解した。体内に満ちた巨大なエネルギー、宇宙のすべてを抱擁するような感覚。俺は、一つの豆腐として存在しながら、この広大な宇宙に浮かぶ、巨大な惑星になっていたのだ。
「ま、まさか。俺が惑星に!? しかも、豆腐なのにか! え!? 崩れたりしないの?」
『はい、崩れたりしません。この惑星のすべてが、あなたなのです! しかも、この惑星にはまだ、生命が存在していません。これは、あなたの手で、新たな生命を創造するチャンスです!』
シアさんの声は、どこか楽しげだった。彼女の構想をさらに展開させようという思惑が透けて見える。
「俺が、生命を……? 惑星になったとしても、所詮は豆腐だ。どうやって生命を生み出せばいい?」
俺は困惑した。宇宙規模の存在になったのに、根本が豆腐であるという事実に、苦笑いが漏れた。
しかし、俺の心配をよそに、シアさんが楽しそうに語り始める。
『ご安心ください、トーフマンさん。あなたには、すべての豆腐の力が備わっています。そして、この惑星は、あなた自身が持つあらゆる要素で満ちているのですから!』
シアさんの言葉に導かれるように、俺は体内のエネルギーを集中させた。すると、俺の一部である豆腐の成分から、次々と新たな要素が生まれていった。
まず、海の成分となる豆乳が、広大な平野に青白い光を放ちながら満ちていく。そして、その豆乳の海の中で、生命の始まりを告げるかのように、豆腐の搾り粕であるオカラから、最初の生命体が生まれた。それは、小さな細胞のような存在だったが、俺の一部である生命として、確かな鼓動を刻んでいた。
さらに、豆腐を凝固させる力が作用し、火山活動のような熱を持った場所からは、湯葉ができ、それが冷えて固まることで、やがて巨大な大陸が形成されていった。その大陸は、硬めに凝固した木綿豆腐のように、強靭な地盤を持っていた。
『どうですか、トーフマンさん! すごいでしょ、あなたの力は!』
シアさんが興奮したように叫ぶ。
『この惑星は、太陽の代わりとなる恒星がちょうど良い距離にあるため、地球と同じように生命が誕生し、進化を遂げることができます! 絶好の舞台が整いましたね!』
こうして、俺とシアさんの創造は始まった。
オカラから生まれた生命たちは、豆乳の海で食物連鎖を繰り返しながら、少しずつ進化を遂げていった。ある者は、豆腐の硬さを活かして外敵から身を守るようになり、またある者は、豆乳の栄養を吸収して巨大化していった。
そして、長い長い……、長い年月が流れ、彼らは知性を獲得し、互いに言葉を交わすようになった。湯葉でできた大陸には、彼らの手によって文明が築かれていった。
俺は惑星そのものとして、シアさんはシステムアナウンスとして、二人はまるでその星の創造神、あるいはアダムとイブのような存在になっていた。
惑星で暮らす生命たちは、二人が生み出した、愛おしい子供のように映った。俺は彼らの成長を大きな豆腐の体で見守り、危険な天災から守り、シアさんは、彼らがより良い文明を築けるように、時に文明のヒントを与えるのだった。
俺とシアさんは、自分たちが生み出した星の行く末を、おしみない愛情を注ぎながら見守っていた。遠い昔、幼なじみとして、そして初恋の相手として、果たせなかった約束が、今、この広大な宇宙で、形を変えて叶えられていく。




