36. そして男は女神様の豆腐となった
トーフマンとシアさんが、惑星豆腐で静かで穏やかな日々を過ごし、幾億年にもわたって彼らが創造した生命たちは、文明を発展させ、星は安定していた。
『トーフマンさん! 大変です!』
突如として、シアさんの声が、いつになく切羽詰まった、システムアナウンス本来の緊急性を帯びた様子で響いた。その声には、彼女が感情を押し殺しても隠せないほどの焦燥が滲んでいた。
『この惑星豆腐の軌道に、巨大な隕石が接近しています! 演算の結果、このままでは、惑星の半分近くが消滅してしまいます! 生命体の生存確率は、極めて低いです!』
俺はすぐに状況を把握した。この惑星で、生命たちが平和に暮らすようになった今、彼らの未来を守るために、俺はこの巨大な体で、できる限りのことをしなければならない。
「彼らが築き上げた平和を、無為に終わらせるわけにはいかない。俺の存在意義は、守るべきものを守ることだ。豆腐は、砕けても、形を変えて生き残る!」
俺は、一瞬の迷いもなく、シアさんに協力を求めた。
「シアさん! 衝突場所、角度、衝撃、そして生命体が安全に残存する場所を最速で割り出してほしい! 俺は、この体で、皆を守るための作戦を立てる!」
『了解しました。演算を開始します!』
シアさんは、瞬時に膨大な演算を行い、最適な衝突予測地点と、衝撃の少ない箇所を割り出した。俺は、その情報を元に、自身の持つ特性である凝固と、惑星規模にまで拡大した創造の力をフル活用した。
まず、隕石が衝突する地点と、衝撃の少ない安全な場所を割り出し、地殻深くまで届く巨大な亀裂である切れ目を、全エネルギーを込めて体全体に入れていった。これは、衝突時の衝撃を構造的に分散させ、破片が飛び散るのを最低限に防ぐためだ。
次に、俺は惑星の核となる部分に蓄積されていた強靭な凝固エネルギーを、切り込みを入れた箇所に集中させた。そうすることで、切り込みが、まるで巨大な豆腐の壁のように、安全な場所を包み込むように急速に硬化させていったのだ。これにより、生命たちが避難する永久シェルターのような役割を果たさせる。
そして、安全な場所に、すべての生命を念話で誘導し、彼らが衝突に備えられるよう、自身の身体の最硬質な部分を使い、巨大なシールドを何重にも形成した。
そして、運命の瞬間が訪れた。
宇宙の闇を切り裂くように、巨大な隕石が、凄まじい轟音と共に惑星に衝突する。世界が揺れ、光と闇が交錯する。その衝撃は、惑星豆腐の体を根底から引き裂いた。
俺は、生命たちが避難した場所を守るため、最後の凝固力を振り絞った。体を硬化させ、衝撃を吸収し、崩れ落ちる破片を、生命たちに降りかからないよう、自身の体で受け止めた。
その衝撃は、俺の想像をはるかに超えていた。俺の体は、軋む音を立てて砕け散り、核となる部分は、無数の光る破片となって宇宙に飛び散っていく。トーフマンの作戦は成功した。
衝突の衝撃で切り込みを入れていた箇所は、周りの隕石や崩れた豆腐を吸収し、新たな三つの小さな惑星となっていた。そして、その三つの惑星には、俺の子供たちである生命たちが、無事に生存していた。
「これで、いいんだ。君たちが生きてくれれば、俺の旅は報われる」
俺は、彼らの頑張りに未来を託し、自身の存在が薄れていくのを感じた。
「これで、いいんだ。シアさん……」
俺の意識は、再び深い闇へと吸い込まれていく。その時、どこからか、シアさんの涙声のような、しかしシステム然とした声が聞こえてきた。
『転生を開始します』
それは、幾億年ぶりとなる、彼女の転生を告げるアナウンスだった。
次に意識を取り戻したとき、俺は再び豆腐だった。
だが、今度の場所は、暗い宇宙でも、騒がしい魔界でもない。全身を包み込むのは、心地よい温かさと、究極の安らぎに満ちた感覚。目の前には、光り輝く女神の姿をしたシアさんが、優しく微笑んでいた。
『おめでとうございます、トーフマンさん。あなたの旅はここが終着駅となります。そして、これは私たち二人の、新たな始まりでもあります』
俺の体は、彼女の手のひらに収まるほどの、小さな、しかし清らかな豆腐になっていた。そして、シアさんの声が、どこか懐かしそうに、そして心底嬉しそうに響いた。
『転生先、女神様の豆腐。種族スキル凝固、特性、女神の寵愛を獲得しました』
俺の魂には、彼女の温かさが満ちている。これまでの転生で、彼女の存在を常に感じていたが、今は、その温かさを、この体で直接感じることができる。
「シアさん。俺はもう、どこへも行かないんだな」
『はい。トーフマンさん、あなたと私の長い長い旅の物語は、ようやく終着点にたどり着きました』
俺は、女神様の豆腐として、シアさんの手のひらに包まれて、これまでの転生の思い出話に花を咲かせ、女神となったシアさんの笑顔に喜びを感じながら、エンドレスかと思っていた豆腐転生物語に幕を閉じた。
<了>
最後まで読んでくださりありがとうございます。
はじめて小説を書いてみようと思い立ち、転生モノで何か書けないかと思案して思いついたのがこの作品です。
今回連載投稿するにあたり加筆修正したものとなります。
食べ物に転生してもすぐ死ぬ運命だろうな……というところから日本人に馴染み深い豆腐による転生に落ち着きました。
無茶苦茶な設定でしたが楽しんでいただけたのなら幸いです。




