3. そして男は称号を授かった
『さて、トーフマンさん。あなたが自ら名を名乗った記念に、私からあなたに、称号を授けましょう!』
シアの声が、どこか荘厳に響き渡る。まるで勇者の誕生を祝うかのように。
「称号? なんだ、急に。別にいらないぞ」
『いえいえ、これはあなたの存在をより際立たせる、特別な称号です! あなたが辿った、壮絶なまでの転生サイクルと、それでも挫けない不屈の精神を讃える、真に価値ある称号です!よろしいですか?』
シアは、俺の返事を待たずに、高らかに宣言した。
『あなたは、転生を繰り返すたびに豆腐になる宿命を背負い、そのたびに新たな可能性を切り開く、不屈の精神を持つ豆腐の中の男、通称トーフマンに栄光あれ!の称号を授けます!』
「……長っ! なんだその称号! 長すぎるだろ! 通称ってなんだよ、通称! 自分で名乗った名前をわざわざ注釈でつけるな! あと、栄光あれ!って祈られてる?ねえ?俺に豆腐以外の選択肢はないの?……ふざけてるだろっ!」
俺は思わずツッコミを入れた。こんな長い称号、誰が覚えるんだ。しかも、結局通称トーフマンって、俺が自分で名乗った名前じゃないか。
『フフフ……いかがでしたか、トーフマンさん? あなたの存在の深遠さと、私の創造性が完璧に融合した、まさに至高の称号でしょう?』
シアは、心底楽しそうに笑っている。その声には、達成感と満足感が満ち溢れていた。
「どこが至高だよ! ただ長いだけだろ! しかも、俺の苦労を全部詰め込んだ挙げ句、最後に自分で名乗った名前で締めるって、完全に遊んでるだろ、シア!」
『おや、お気づきになりましたか? さすがはトーフマンさんです。私の遊び心を見抜くとは。やりますね。とは言え、この称号は、あなたの今後の旅路において、きっと大きな意味を持つことでしょう』
シアは、どこか含みのある言い方をした。俺は、このシアという存在が、本当に俺の転生をただのゲームとして楽しんでいるだけなのか、それとも何か別の目的があるのか、ますます分からなくなってきた。
……とは言うものの、この謎のシステムアナウンスに頼るしかないという現実が、俺の最大の屈辱であり、皮肉でもあった。どちらにせよ、こいつが鍵を握っているのは間違いない。
辺りをよく見渡すと、俺の体は透き通るような美しい水が流れる川のほとりの岩の上に、ぽつんと置かれていた。周囲を満たす清涼な魔力が、まるで磁石に吸い寄せられるかのように、彼の体に集中していく。
その熱と、内側からの圧力に、豆腐の体が軋むのを感じた。内部から発光しているかのように体は光り輝き、まるで水晶のような透き通った豆腐へと変わっていく。
『なんだ? 俺、光だしてないか?』
『ご安心ください、トーフマンさん。これはあなたの持つ特性魔力凝縮が発動しているのです。この異世界の膨大な魔力を吸収し、自身のエネルギーに変換しています。そして、特性魔力ブーストにより、その力を飛躍的に増幅させることが可能です!』
シアは、以前とは比べ物にならないほど滑らかな口調で説明してくれた。
『その結果、スキル凝固が高密度凝固へと進化しました。おめでとうございます!これは、あなたが魔力を凝縮し、ブーストした結果、その負荷に耐えるため、豆腐の体が存在進化を遂げた特別なスキルです!』
トーフマンは、自分の身に起きた変化に戸惑いながらも、その力を試してみることにした。
「よし、この力を試してみよう」
彼は心の中で念じると、体の中心から、眩いほどの緑色の光が放たれた。体から放たれた光が、周囲の植物を瞬く間に成長させた。
わずかな魔力操作で、目の前の草木が巨木へと変貌していく。巨大なキノコの木々はさらに巨大になり、花はより鮮やかに咲き乱れた。その様子は、まるで時が加速したかのようだ。これは、もはや豆腐の力ではない。神の力に近い。
『スキル高密度凝固の応用で、あなたは植物成長という新しい能力を獲得しました!素晴らしいです!この世界で最も不要と思われた豆腐が、豊穣を司る力を発現させるなんて!』
シアの喜びの声が、トーフマンの頭に響き渡る。トーフマンは自分の力に驚きながらも、その力を試すことに夢中になった。
岩を砕き、水を操り、空を飛ぶことさえできた。しかし、その喜びも束の間、彼はあることに気づいた。魔力を消費するたびに、自身の存在そのものである体が少しずつ小さくなっていたのだ。




