24. そして男はミスリル豆腐になっていた
その直後、俺の入ったパックにずっしりとした重みを感じた。
そこへ現れたのは、赤く熱を帯びた炉の横に立つ、ひげもじゃのベテランドワーフの鍛冶師だった。
彼は俺を手に取り、その灼熱の瞳で真剣な眼差しで吟味している。
彼の隣には、金床と、人間の胴体ほどもある巨大なハンマーが置かれている。
「うむ……これが噂のミスリル豆腐か……。伝説によれば、これを打つことで究極の武具が生まれるというが……」
(ミスリル豆腐!? 俺、金属になってるの!? 武具の材料って、砕かれる運命なのか!? 頼むから、俺をハンマーで叩かないでくれぇぇぇ! 硬質化って、叩かれるための特性じゃないよな!?)
豆腐の中からは俺の悲痛な叫びは届かず、ドワーフの鍛冶師は厳かな手つきで俺を金床の上に置いた。
金床の冷たい鉄の感触が、俺の豆腐の体にじわりと伝わる。
「まずはこの豆腐の硬度を確かめねばなるまい。これほどの貴重品、無駄にはできん」
ドワーフ鍛冶師は、そう呟くと、炉の熱が揺らめく中で、巨大なハンマーを力強く、そしてためらいなく振りかぶった。
その一撃は、俺の豆腐としての運命を、新たな方向へと導こうとしていた。
ガンッ!!
衝撃と轟音が俺の体を襲う。
砕かれる、と覚悟したその瞬間、意外な感覚に襲われた。
(あれ……?痛くない? むしろ……気持ちいい……?)
まるで、全身の凝り固まった細胞が、強烈な外部刺激によって隅々までほぐされていくようだ。
この感覚は、人間だった頃に受けた、至高のマッサージのそれに似ている。
豆腐時代にはあり得なかった、全身で衝撃を受け止め、それを快感に変える【硬質化】の特性によるものだろう。
(うぅ〜ん、そこそこ! もうちょい右、いや、左……。あ〜、そこそこ! いい感じ〜!)
俺は心の中で陶然とつぶやいた。
ドワーフ鍛冶師は、その奇妙な感覚に首を傾げた。
「うむ……ただの豆腐ではなさそうじゃな。ハンマーの一撃で砕けるどころか、逆に硬度が増しておる……。これは……ミスリル豆腐のなかでも希少な、伝説の槌神の豆腐に違いない!」
彼は目を輝かせ、さらに力強くハンマーを振り下ろした。
ガン!ガン!ガン!
「あ〜〜〜!そこ!そう!もっと強く、もっと深く頼む!肩甲骨のあたりをグイッとぉ〜!」
トーフマンが叩かれる快感に身を委ねていると、耳元でシアさんの声が聞こえてきた。
『うぅ、いいですねぇ、マッサージ。最近、システムアナウンスだからって、肩こりがひどくて……。うーん、温泉に入って、マッサージチェアに座って、景色を見ながらお酒を味わうなんて最高ですよねぇ……。システムアナウンスだから行けないんですけどねぇ』
俺の予想外の快感を心底楽しんでいたはずの彼女の、どこか寂しげで人間臭い独り言に、俺は思わず声をかけた。
「おい、シアさん。だったら、転生先に温泉があるところを選んだらいいじゃないか?」
俺の提案に、シアさんは力なく答えた。
『それが……選べないんですよぉ。私の管轄はトーフマンさんの転生先だけで、私の世界は変えられないんです……』
その言葉に、俺は何も返せなかった。
俺の転生に付き合わされているシアさんの孤独な苦労を、改めて知った気がした。




