22. そして男はドワーフの国へ転生した
『あはっはっ、くっげほっ、う、うふっ! 肺がイタいぉ、おほ、ほほ、ふっ、あはははは!』
涙を流しながら笑い続け、ようやく笑いが落ち着いてきたところで、このままでは進行の妨げとなると気づき、転生準備に入ろうとする。
トーフマンの声が、酒樽の底から小さく聞こえてくるようになったところで、なんとか告知を行う。
『て、転生を、ふー、はー、はー、ふー、は、はじめま、っす、くくぷぷぷ』
と告げることが可能となった。完全にトーフマンの声が聞こえなくなってきて、ようやく転生先を告げられる状態まで落ち着いてきた。
『転生先:ドワーフの国の豆腐。種族スキル【凝固】、特性【硬質化】を獲得しました』
シアさんは幾分かの体エネルギーの消耗を感じながら告げた。彼女の顔には、笑いすぎた跡と、次の転生先への期待が浮かんでいたが、とても歌える状態ではなかった。
黄金色の液体に浸かったまま、俺の意識はどこか遠くへと引きずり込まれていく。4000年の熟成期間を圧縮するように、空間が歪み、光の粒子が周囲を包み込んだ。酒の香りと、心地よい浮遊感。今度はどんな世界に飛ばされるのか、考える思考すらまともに残っていなかった。
ただ覚えているのは、管理者の高らかな笑い声と、最後に耳に届いた新たなシステムアナウンスだけだ。硬質化、そして頑丈な民が暮らす大地。
(硬質化って……今度は崩れない豆腐になれるってことか……? だめだ……もう……何も考えられない……)
酒樽の底で呟いた最後の言葉は、泡となって液体の中に消えていった。視界が真っ白に染まり、激しい回転感が全身を包む。
こうして、エルフの里での短くも濃密な熟成期間は終わりを告げ、俺の意識は完全に途切れた。次に目を覚ます場所が、酒の匂いのしない平穏な場所であることを祈りながら、俺は次の世界へと旅立っていった。
次に目が覚めたとき、俺は酔い潰れた豆腐ではなかった。
全身からアルコール分が抜け、これまで同様の瑞々しい清らかな豆腐に戻っていた。
やがて蜂蜜酒の樽の中で意識を失った記憶が蘇る。
ろれつが回らなくなった声でシアさんに助けを求めたところまで覚えているのだが、それから何を言ったのか思い出せない。すると、シアさんのアナウンスが始まった。
『転生先:ドワーフの国の豆腐。種族スキル【凝固】、特性【硬質化】を獲得しました。お目覚めですね、トーフマンさん。』
「お、おいシアさん!俺、酔ってたよな? 蜂蜜酒の樽の中で! 4000年酔い続けるかと思ったぜ……」
『はい、そうですね!しかし、転生時には過去の肉体や状態は完全にリセットされます。ですから、トーフマンさんの体からアルコール分はすべて抜けている状態ですよ。システムは完璧です!』
シアさんは、自分のシステムの優秀さを誇示するように言った。
「マジか……よかった……。あの悪夢のような酩酊状態がリセットされるなら、転生も悪くないな……。けどよ、またお酒なのかぁ!? ドワーフって言ったら、酒だろ!勘弁してくれよ!」
俺は悲鳴のような声を上げた。
ドワーフ=酒という連想が、アルコール耐性のないトラウマを呼び起こしたのだ。
『フフフ……確かにドワーフは酒を愛します。しかし、ここは鍛冶職人の国、トーフマンさん。彼らは酒だけを愛しているわけではないんですよ』
シアさんが意味ありげに笑う。




