14. そしてシアさんは歌唱をお披露目した
二人ともそれぞれの専門的見地から、興奮を隠しきれない様子で盛り上がっていた。トーフマンは、自分に待ち受ける恐ろしい運命をはっきりと悟り、絶叫した。
「エネルギー源であり究極の食料って、結局のところ、最終的には食べられる運命なのかよ! しかも『伝説』扱いなんて、もう何回繰り返せば気が済むんだ!もう、うんざりだ!」
どれほど叫ぼうとも声が真空やガラスを透過して届くはずもなく、俺の容器は異星人たちの手によって、厳重にロックされた保管庫へと静かに運ばれていってしまった。
その絶望のどん底において、シアさんの軽やかな声が脳内に響き渡る。
『ご安心ください、トーフマンさん。そろそろ次の転生の時間がやってまいりました』
「うん?てっきり、この能力を使って脱出する方法でも試すのかと思ってたけど、すんなり転生しちゃうんだね?」
トーフマンが困惑気味にそう問いかけると、シアさんは、いつになく嬉しそうに、そして抑えきれないほどの興奮と優しい温もりを込めて告げてきた。
『ふふふ、ええ。今回は、あなたに最大限の満足とおもてなしをお届けしたいのです。薄れゆく意識のなかで、どうぞお聞きください。“豆腐バラード”(作詞作曲歌唱:シア)』
無音の宇宙空間で、トーフマンの脳内に直接、静かで優しいハープシコードと調和したピアノの美しく切ないイントロが流れ始めた。
『また少し、心が揺れる
ぷるぷる震える、頼りない私
色んなカタチに変わるけれど
ねぇ、ほんとはこのままがいいな
豆腐縛りだっていいじゃない!
わたしがいるのよ
隣でそっと、支えているから
大丈夫だよ
水に揺られて、漂う日々
不安な気持ち、隠せないけど
あなたの声が、聞こえるから
少しだけ、強くなれるの
豆腐縛りだっていいじゃない!
わたしがいるのよ
どんなあなたも、大好きだから
安心してね』
ピアノの優しい旋律が響くなか、アウトロの旋律とともにトーフマンの意識の光はゆっくりと宇宙の深い闇の中に溶けて消えていった。
シアさんは心を込めて歌い終えると、わずかに息を整えるような可愛らしい電子音を立て、トーフマンに向かって話しかけた。
『いかがでしたでしょうか、トーフマンさん? 私の渾身のラブソング……あ、失礼、バラードは!』
しかし、トーフマンからの返答は一切なかった。彼の意識はすでに現在の体を離れ、次の転生先へと向かう不可逆のプロセスに入っており、完全に途絶えていたのだ。
『あら? もう完全に意識を失ってしまわれたのですね……。最後まで、ちゃんと聴いてくださいましたか? せっかく、私の正直な気持ちを歌詞に込めて歌いましたのに……』
シアさんは露骨に声を落とし、とても悔しそうに呟いた。だがその直後、ハッと大変な事態に気づいたように甲高い声を上げた。
『あ! 大変ですわ! 転生先の詳細を伝え忘れてしまいました!』
シアさんは自作の歌を披露することにすっかり夢中になり、システムアナウンスとして最も重要な、次の転生先のアナウンスを完全に忘れてしまっていたのだった。
これによって転生処理そのものや物語の進行に重大な支障が出るわけではない。問題なのは、シアさん自身のシステムアナウンスとしてのプライドと矜持であった。
『職務怠慢、退散! システムエラー、降参! 職務怠慢、退散! データ処理、追いつけ! 職務怠慢、退散! しょ、しょくむ、たい、まん、えらああ、あああ、あ……』
シアさんの声は、プロ意識と激しい自己嫌悪の挟間でパニックを起こし、徐々にノイズ混じりの途切れ途切れな電子音へと変わり、システムとして一時的な機能不全に陥っていった。
トーフマンは、そのシステムが情けなく崩壊していく悲鳴を聞くこともなく、穏やかに次の転生先へと旅立っていったのだった。




