13. そして男は貴重な資源となった
続いて、強力なブラックホールの圧倒的な重力に引き寄せられたとき、俺の体は宇宙の時間の流れそのものを体感するかのように、ゆがみ、引き伸ばされていった。
『特性、エネルギー充填により、ブラックホールの重力を一部吸収しました! スキル超硬質凝固が超吸収凝固へと変化しました!』
さらに、銀河の中心に位置する巨大な星団を通過したとき、俺の体は無数の星々から放たれる眩い光を全身に浴び、まるで小さな銀河そのものが立方体の中に閉じ込められたかのような輝きを放ち始めた。
『特性、エネルギー充填により、銀河のエネルギーを微量吸収しました! スキル超吸収凝固が銀河凝固へと変化しました!』
俺は究極の豆腐へと進化を遂げていった。そう実感したのも束の間、体表から水分が微かに気化し、体積が徐々に減っていく妙な感覚に、トーフマンは一転して強い焦りを覚えた。
「シアさん! オリハルコン豆腐なのに、中身がどんどん乾燥していくぞ! このままだと干し豆腐になっちゃうって!」
『これはこれで独特の味わいがあると言いますか。ギュッと濃縮されたトーフマンさんも実に素敵ですよ』
「いやいや、内側から締め付けられるような窮屈な感覚が凄くてさ、なんとかならないかな。このままだと本当にただの豆腐パテになっちまうよ!」
『そうですねぇ。魔力自体は充分すぎるほど溜まっているようですし……ここをこうして、魔力の循環を書き換えて……うん、これでなんとかなるでしょ!』
シアさんは、トーフマンが保持する特性、エネルギー充填を活用し、失われる水分を魔力によって半永久的に生成し続けるという、豆腐ならではの画期的な延命措置を発見し、適用してくれた。
「おお、内部の窮屈さが一気に解消されたよ。ありがとう、シアさん」
シアさんは顔を隠すようにして、盛大に照れた気配を漂わせた。
どれくらい宇宙を漂っていたかも分からない、この過酷で優雅な漂流の旅にも終わりが訪れる。
俺の体は、遠くから近づいてきた巨大な宇宙ステーションのエアロックハッチへとすーっと吸い込まれていった。ステーション内部の減圧室に入ると、そこには異星人らしきクルーが数名集まっており、ガラスケースの中の俺を熱い眼差しで見つめていた。
「……おお、ついに届いたぞ! これこそが我が艦隊の悲願、伝説のオリハルコン豆腐か!」
異星人クルーAが興奮のあまり声を張り上げる。その隣に立っていたクルーBも、深く頷きながら言葉を続けた。
「ええ、我々の母星の慢性的なエネルギー問題を一気に解決する動力源であり、同時に究極の食料ともなる、奇跡の物質です!」
(クルーAの心の声:やったぞ! これで我が社のエネルギー問題は完璧に解決だ! しかも、噂通りの美味さなら、私の昇進は確実!)
(クルーBの心の声:見た目はただの白い立方体だが、この内部に秘められた神秘的な輝き……間違いない。しかし、これほど貴重な代物を食料にしてしまうなんて……司令からの直接の命令だから仕方ないか)
そこに、端末を手に持ったクルーC(技術者)が会話に加わってきた。
「この銀河凝固レベルのエネルギー密度は極めて貴重だ! このまま極低温環境でプラズマ冷凍を施せば、エネルギー変換効率が向上するぞ!」
さらに、口元をぬぐいながら近づいてきたクルーD(美食家)が、目を輝かせて熱弁をふるう。
「このオリハルコン豆腐特有の微かな星の香りを堪能するには、生で食べるのが一番だ。私はエネルギー抽出の燃料にするより、贅沢な最高級デザートとして味わいたいね」




