12. そして男は宇宙を漂流する豆腐となった
次に目が覚めたとき、俺の視界に入ったのは、まばゆい光に満ちた天界でもなければ、おどろおどろしい地獄めいた魔界でもない。
全身を包み込んでいるのは、皮膚の奥深くどころか存在そのものを凍てつかせるような絶対零度の冷気(約2.7ケルビン[約 -270.45℃]なので、厳密には【限りなく絶対零度に近い、非常に冷たい世界】)と鼓膜が破れそうなほどの真空の静寂だった。
あたりを見渡せば、無数の星々が宝石のように冷たく瞬いており、はるか遠くには美しい銀河が巨大な光の渦を巻いて広がっている。
俺の体は、きわめて透明度の高い強化ガラス製のキューブ状容器に収められ、無重力の闇をゆっくりと漂っていた。
『転生先、宇宙空間の豆腐。種族スキル凝固、特性:エネルギー充填を獲得しました』
シアさんの声は、宇宙の静寂を切り裂くように、どこか喜びを隠しきれない調子で脳内に直接響いてきた。
「シアさん、今度は宇宙空間を漂う豆腐か! もういい加減にしてくれよ! 水も空気もない場所で豆腐を続けさせるなんて、いくらなんでも拷問が過ぎるぞ! 頼むから豆腐じゃないものに転生させてくれよ!」
『豆腐じゃないものはさておき、ご安心ください、トーフマンさん。今回は一味違います。あなたの体は、この広大な宇宙のエネルギーを極限まで凝縮し、蓄える特別な存在、オリハルコン豆腐として転生しました。あの古臭い光るシステム、そう、女神のことですけれど、あんな被験者よりずっと高性能なのですから!』
「おい、今の私情アナウンスはなんだ! システムアナウンスが私情を挟むな! というか、誰のことをディスっているんだ、シアさん!」
『ふふふ、さぁ、誰のことでしょうね。そんなことより、この壮大な宇宙空間での漂流を心ゆくまで楽しもうではありませんか』
そう言いながら、しっかり天界の女神の記憶を消去できていることに満足し、シアさんは心底楽しげな声で無為に時間を浪費しようと提案する。
俺の体は、透明なキューブ状の容器のなかで星の光を美しく反射させながら、あてもなく無重力空間をゆらゆらと漂い続けていた。
「オリハルコン豆腐……? 神話に出てくるような伝説の金属の名前を冠するなんて、なんだか凄そうな響きだけど、結局のところは豆腐だろ? なぁシアさん、俺の旅って、もしかしなくても……永遠にこのパターンが続くのか?」
『お気づきになりましたか? フフフ……ええ、そうなのです。はい、あなたの旅は、永遠なる豆腐縛り転生です!』
シアさんは、この上なく満足そうに誇らしげなトーンで言い放った。トーフマンは、己の運命に隠された身も蓋もない真相に、激しい絶望を覚えると同時に、やっぱりそうだったか、と妙に納得してしまっている自分に気づいた。
「そうか、そういうことだったのか……。それで、俺は宇宙空間でこのまま果てしなく漂い続けるのか? また誰かの都合のいい道具にされる運命を待つだけなのか?」
『いいえ、ご安心ください。あなたの特性、エネルギー充填は、非常に強力で万能な力です。この宇宙で巻き起こる様々な事象を自らの力へと変換することができます。まさに、私にとって最高のエンターテインメント空間と言えますわ!』
シアさんの言葉通り、俺の体は無重力空間を漂いながら、次々と凄まじい宇宙現象に巻き込まれ始めた。巨大な超新星爆発の残光に近づいたとき、俺の体は七色のオーラに包まれ、膨大な熱と光のエネルギーをあっさりと吸収してみせた。
『特性、エネルギー充填により、超新星の爆発エネルギーを吸収しました! スキル凝固が超硬質凝固へと進化しました!』




