11. そしてシアさんは計画を練り直した
『ふぅ……』
シアさんは深いため息をついた。
『イヤイヤ展開になって、転生せざるを得ないタイミングがきて、そこで天界にふさわしい私の歌を聴かせてあげるつもりだったのに、あ~あ、初お披露目できなかったなぁ。私の歌で、トーフマンさんの悲痛な心を癒してあげようと思ったのに』
シアさんは自作の歌を披露できるタイミングを失ったために、露骨に不機嫌になっていたようだ。
『それに、あんな、デレデレしちゃって……。あの女神なんて、私より全然システムが古いじゃないの。あの豆腐の脳内を初期化してしまおうかしら』
『いけないいけない! 初期化は物語の進行促進という私の大原則に反する行為だわ』
シアさんは、自身の中の不愉快な感情をシステムエラーとして処理しようと試みる。トーフマンがあの天界の女神に心を奪われたことは、システム管理者として客観的に見て、転生前の体が本来有していた俗物的な本能に過ぎないはずだった。
(なぜ、これほどまでに腹立たしく、トーフマンのデータを消去したい衝動に駆られるのか? 彼の反応は、私の期待通り、コミカルで面白かったはず。これは……嫉妬? いいえ、断じて違う。これは、低スペックな別システム[天界の女神]に、私の最高の被験者が惑わされたことに対する、システム管理者としての、純粋な品質への苛立ちだわ)
それを「嫉妬」ということに気づかないふりをするシアさんは、自分の言動が感情的になりすぎたことを自己評価し、冷静さを取り戻した。
『ふん。もういいわ。あのくだらない女神の記憶など、次の転生先の極限環境で瞬時に上書きされるに決まっているんだから』
彼女はトーフマンが送られた宇宙空間のデータを展開した。そこには、水も空気もない絶対零度の闇が広がっている。
『転生先は宇宙空間。特性はエネルギー充填。この極限環境で豆腐の命を維持させるには、相当な工夫が必要ね。死なれてしまっては、私の物語が途絶えてしまう。かといって、安易にサポートすれば、彼が成長しない』
シアさんの脳内では、トーフマンが生き残るための緻密なシミュレーションが始まった。
問題点1:水と空気の欠如 → 豆腐の維持が不可能。
対策:特性のエネルギー充填を応用し、微量物質変換を補助スキルとして解放する。トーフマン自身に、宇宙に漂う魔素の断片から、生命維持に必要な水分を生成させるのだ。
問題点2:移動手段 → 宇宙空間では無重力で動けない。
対策:高密度凝固とエネルギー充填を組み合わせ、豆腐の表面から低出力プラズマ噴射による推進力を生み出す能力を付与する。
『よし、これで彼は、宇宙空間を浮遊する、エネルギー豆腐となる。最高の舞台だわ』
シアさんは、孤独で絶望的な宇宙空間でのトーフマンの苦境を想像し、再び歓喜に胸を震わせた。しかし、今回は反省を生かして、彼の心が折れないよう、精神的なサポートも計画に入れた。
『そして今度こそ、彼は究極の孤独に直面する。その時こそ、私の歌を聞かせる最高のタイミングだわ。ハープシコードの静謐なメロディに乗せて、「あなたは一人ではない。この広大な宇宙で、あなたのそばにいるのは、この私だけだ」という意味の歌を伝える。今度こそ、彼に私こそが唯一のパートナーだと気づかせる』
シアさんは、次の転生先での成功を確信し、宇宙の静寂に響く歌のメロディをそっと口ずさんだ。今度こそ、最高の形で、その歌をトーフマンの脳内に響かせられると想像しながら。




