巡る星
アフシン・モルダード・ヤルネソン。
その三単語に、何度も目を走らせる。鼓動が、どくどくと跳ね回る。
婚礼の式の、招待客名簿。準備を開始してから二ヵ月を経て、メフルダードから渡されたのだった。
シャフリカシャン攻略における連絡の窓口は、アースマーンやペーローズが担っていた。
だから、どういった役割を果たしたか、詳細は知らない。それでも、招かれるほどには、重要な立場にあったのだろう。
心臓が飛び出そうな胸を押さえて、もう一度、ゆっくりと目を通す。
所属は、側近軍団教練隊イェコム隊高等二年。
間違いない。アフシンだった。
きらきらと輝く、青い瞳が浮かぶ。
快活で明朗な笑顔。真っ直ぐな心。――全てを振り絞って悲泣する声。
(……会いたい、アフシン――会いたいっ……!)
今後、どこへ行くにしても、このままは嫌だった。あれが最後だなんて、そんなつらいことはない。
だってもう、割って入る者はいないのだ。それなら、何を憚る必要があろうか。
しかも、来月は誕生日なのだ。好きな菓子や果物を用意して、おしゃべりできたら、どれほど楽しいだろう。
「ボルナー。手紙を書くから、用意して」
意を得て、スヌンゴが立って行く。もどかしく待ちながら、はやる気持ちを抑える。
揃えられた紙と葦筆。下敷きに置くと、一気呵成に綴り始めた。
二週間待って、ようやく届いた返事は、丁重ながら形ばかりの、冷たいものだった。
それでも、せめてと思って、アフシンの好物だった菓子を選び、祝いの手紙とともに、当日届くよう手配した。
――尊き青薔薇様。
盛夏の候、お変わりなく、お過ごしでいらっしゃいますでしょうか。おかげさまで、小生は、平穏無事に日々を送っております。
さて、この度は、結構な誕生祝いのお品をご恵贈いただきましたこと、深く御礼申し上げます。小生の好物ばかりで、大変美味しく頂戴いたしました。また、小生ばかりだけでなく、同輩までお気遣いいただき、誠に痛み入ります。皆、大変喜び、楽しいひとときを過ごせました。
夏の盛り、暑さに慣れていらっしゃるとは仰いましても、この厳しさは、やはり身体にこたえるものでございます。どうぞ、くれぐれもご自愛くださいませ。
略儀ながら、書中にて御礼申し上げます。
側近軍団教練隊イェコム隊高等二年、アフシン・モルダード・ヤルネソン。――
右から左へ、闊達な手蹟をなぞる。それだけで、指先から、ぬくもりが伝わってくるようだった。
アフシンは、もう十七歳。月日が経つのは、本当に早いものだ。
軍人への転向が決まり、鍛練を始めてから、目に見えて、体格がよくなっていった。
ノール人は、なんといっても丈が高い。もしかしたら、もっと背が伸びて、逞しくなっているかもしれない。
凛とした顔立ちを思い浮かべる。
まだあどけなさの残っていた造作が、スピユット戦士団の若い戦士達のように、少し彫りが深くなっていたら。声変わりが終わって、涼やかな低い声になっていたら。
(……あ……)
正座していた膝を、きつく閉じ合わせて、手紙を抱き締める。顔が、ひどく熱かった。
恥ずかしくて、切なくて、会いたい思いが、胸に溢れ出す。
あの日、死んでいたら、こんな気持ちも味わえなかった。生きてみるものだと、心が打ち震えて思う。
スピユット戦士団がブローノードに帰るまで、まだ間はある。
〈契り子〉になるかは決めかねているが、メフルダードに仕える気がない以上、卒院と同時に、シャフリカシャンを離れることになるだろう。それまでに、一目でいいから会いたかった。
せっかく生きながらえた命の、使いどころ。
手紙を丁寧に文箱に仕舞うと、紙と下敷き、葦筆を揃えて、対面を願う手紙を書き始めた。
六月に入り、いよいよメフリガーンの迫る頃、思いがけない方面から、手紙が届いた。
巻き取られた紙を、侍童が恭しく差し出す。
「マタラム王国のスセハト第二王子よりにございます」
少しざらざらとした、クラムビル(ココナッツ)紙の硬い感触。差出人として記された、マタラム人特有の長い名を眺めながら、綴じ紐に、手をかけられずにいる。
いったい、何が書かれているのだろう。あれほど冷たくあしらい、絶望の淵に突き落としたのだ。きっと、恨み言にちがいない。
傍らに控えるスヌンゴに、声をかける。
「……文箱を、持ってきて」
すぐに開けて、読むものだと思っていたのだろう。戸惑って、一拍遅れた返答。しかし、素早く立って行き、取ってきてくれた。
留め金を外し、そっと収める。閉めた蓋を、苦しい思いで見つめる。
(ごめんなさい、兄上……でも、僕は……)
今、兄の心を受け止める勇気はなかった。
いまだ、この身体は、はしたないままなのだ。〈水やり〉がなければ、湧き上がる劣情すら、満足に解消できない。
〈角〉に奥深くを突かれて悦ぶ自分を知覚する度に、どうしても死にたくなる。
ベフナームの相手をし、不本意だと思い込めた方が、まだ救いがあったなんて、本当に皮肉だ。
しかし、死にたいなど、口が裂けても言えない。ジャハーンは、きっと、一切ためらいはしないだろう。
丁寧で優しい所作。事が済んで、恥辱に泣いていると、いつも抱き寄せて、歌ってくれる。
その、柔らかな低い声。クラムビル水の甘さ。黒い瞳に見え隠れする、自責の念。
ジャハーンとスヌンゴ。そして、外帝将。
生きてほしいと願ってくれる人達がいる以上、今は、不用意に、心に負担をかけるわけにはいかないのだ。
日々の為すべきことで時を過ごしながら、楽しいことだけを考える。そうでなければ、不意に訪れる夜の苦しさを、乗り越えていけなかった。
「……ボルナー」
はい、と答える、控えめな声。振り見れずに、声をこぼす。
「今は、許して……気になるようなら、読んでいいから」
スードラは文字を学ばない。それでは将来に不便だろうと、基本的な読み方は教えてきた。家族同士のやり取りなら、問題なく理解できるはずだ。
慮る声音が応える。
「お気遣い、痛み入ります。――仕舞ってまいりますね」
頷くと、丁重に文箱が下げられる。
夏用の、毛足の短い絨毯。苦しい心で見つめながら、遠く響く中庭の噴水を、故郷の潮騒のように聞いた。
メフリガーンの晴天に、バルバット(卵型の弦楽器)の金属的な音色が突き抜ける。朗々とした節回しの歌声。祝賀の心を全身にこめて、豪奢な裾を翻す。
定番ながらも人気のある、婚礼の祝い歌。
舞いの基礎練習にうってつけの振りで、折々に練習してきた。おかげで、観客を見渡す余裕もある。
綺麗な晴れ姿を見てほしい。
そう願って、アフシンの席次は、舞台が見やすい位置に配した。
ついでに、アースマーンを始めとする教練隊の学生も一緒にし、賢明な王〈シャー〉は、将来ある若者達に期待を寄せている、と示せるようにしている。
まさに、一登二実。このくらいは、役得というものだ。
微笑んで手首をひらめかせながら、居並ぶ客を見渡す。数多の髭面の中、紅顔の学生達がいた。
様々な顔立ちの若者達。しかし、探すまでもなかった。
(――アフシン……!)
途端、どくんと、鼓動が跳ねる。歌と旋律に耳をすませつつも、その姿から目が離せなかった。
燦然と輝く金髪。彫りの深くなった顔立ち。少年らしく華奢ながらも、しっかりとした体躯。きりりと整った眉。その張り出した骨の下で深く冴える、青い瞳。
想像以上だった。なんと、立派に成長したことか。
身の奥深くから、この上ない喜びが溢れる。健やかに見えた奇跡を言祝ぐように、くるくると舞い踊る。
絢爛な衣の裾が円形に翻り、快晴の光に反射する。視界に映る全てが、きらめいて見えた。
締めの型を決め、万雷の拍手を受ける。おもむろに座して、礼をした。
顔を上げれば、青い瞳と、しっかりと目が合う。
滲んで輝く、深い色。幸せに打ち震えて微笑む。心の奥深くから、しみじみと感慨が湧いてくる。
(……生きていて、よかった……)
あのまま死んでいたら、アフシンは、強く自分を責めていただろう。
こうして、いとおしい人に健やかな姿を見せられたとは、想像以上に幸福なことだった。命を終えていたら、その成長を喜ぶこともできなかったのだ。
ひたすらに見つめながら、ゆっくりと立ち上がる。名残を惜しみつつ、王〈シャー〉の傍らへと戻っていった。
*
サカ暦七七四年カパ(四番目)の月の十五日。
雨が増え始め、乾季の終わりを感じる頃、マタラム支庁が解散し、ファールサの軍人と文官は、プラゴタ港へと出発していった。
夕刻の祈祷を終えると、人々は誰からともなく集まり、町中が、飲めや踊れやの大宴会の場と化した。
当然、宮も例外ではなく――もちろん、こちらは計画されていたが――自宅から到着した頃には、三大臣を始めとする廷臣達は、すでに出来上がっていた。
縁側に立つと、一〈シジ〉の大臣が気づいて、大仰に出迎える。
「おお、バガワド様。いらっしゃいましたか!」
「遅くなってすまない。皆、楽しんでいるようだな」
「それはもう! 記念すべき、この佳き日でございますからな!」
微笑んで頷き、しつらえられた上座へと歩む。
二〈ロロ〉と三〈テル〉の大臣が、挨拶しかけて、はたと止まる。怪訝な声音が問う。
「そちらの白い方は……」
「いずこかで、お見かけしたような――」
三者が一斉に息を呑む。上気していた顔が、おもむろに青ざめていく。
一歩下がった位置に座った姿を一瞥し、頷いて告げる。
「スルシコ兄上の二〈カリ〉の子――スキリコだ。今、大プダンダ様の庵で暮らしている」
「……そんな……行方不明になられたと……」
一〈シジ〉の大臣が、口をしきりに開閉させながら呟く。非難の滲む声音。受け止めて、静かに語る。
「当時、この子はまだ九歳だった。居所がわかれば、ステノゴ達のように、ファールサに連れ去られると思った」
実際、同じ緑の瞳のステノゴは、その容姿のために、寵童にされた。たった十歳で辱めを受け、慰み者にされたのだ。
仮に留め置かれたとしても、身綺麗なままでいられたとは思えない。
「リシ・ヤドニャを受式してしまえば、政には関われない。だから、それまで、隠しておくことにした」
三大臣の六つの目が、スキリコを凝視する。
少年の纏う、白い僧衣。プマンクの、証。
わななく声が、やり場のない怒りをこぼす。
「……そのような……そのようなことが――ゆ、許されませんぞ……」
「嘘をついたことは詫びる。ただ、後悔は一切していない。行方知れずになったからこそ、こうして無事に、この日を迎えることができたのだから」
二〈ロロ〉の大臣が、口を半開きにしたまま、緩慢に首を振る。
非難と憤り。まるで、同意するかのように、淡い地揺れが一瞬、酒器を鳴らして止まる。青ざめた面々に、さらに糾弾する色が深まる。
「――皆々方」
と、スキリコが、にじって手前に出る。記憶と異なる低い声に、三大臣が面食らう。
三つの顔を見渡すと、スキリコは丁寧な口調で言った。
「どうか、叔父上を責めないでください。僕のために、なさってくださったことです。当時は、不安に感じることもありましたが――ファールサの習慣を知った今は、これでよかったのだと、思っています」
一〈シジ〉の大臣が、じっと、スキリコの顔を見つめる。そして、おもむろに表情を改め、思案するような声音で問いかけた。
「……それでは――いまだ、御身は、潔白なままでございますな?」
振り見て窺う、緑の瞳。頷いて、答えを引き受ける。
「今日は、それを相談したくて、連れてきた。――この子も、もう十八歳。身の安全が確保された今こそ、妻を与えてやりたいと思ってな」
「――左様でございましたか」
妙に納得した様相。
不安を覚えて、眉をひそめる。二〈ロロ〉と三〈テル〉の大臣も、一〈シジ〉の大臣を怪訝に見ている。
どこか、満足げな微笑を浮かべながら、一〈シジ〉の大臣が告げた。
「それならば、ご長女のスイムティ様は、いかがでございましょう。ちょうど今年、十三歳になられました。また、お二方にお子様がお生まれになれば、王家のご復興も叶います」
二人の大臣の顔が、一気に華やぐ。
「おお、それは、妙案でございますなあ!」
「お二方は従兄妹同士――血筋も申し分ございませんな! いやはや、一〈シジ〉の大臣、さすがでございますぞ!」
喜び勇んで手を叩き、膝を打つ面々。
血の気が引いていくのを感じながら、経典の文言が、頭を巡る。
因果応報。スキリコを守った代わりに、娘を差し出す。何ものにも代えがたい――最愛の妻との、大切な娘を。
いずれ、三大臣家か主要五島の首長の子弟の元に、嫁がせるつもりだった。
しかし、スキリコが生きていると知らせてしまった以上、もはや選択肢はない。縁談を持ち込んだところで、固辞されるのが関の山だ。
ワルナ(カースト)を越えれば、活路はあるかもしれないが、それでは、スイムティがあまりにも憐れだ。
せっかくサトリアに生まれたものを、ワルナを落とすことになる。
一度、格が下がってしまえば、二度と戻ることはできない。スアングティにも、申し訳が立たなかった。
「叔父上……」
そっと、スキリコが、窺うように呼びかけてくる。
たまらなくて、それでも、なんとか顔を向ける。声が、微かに震えた。
「到らないところの多い娘だが――もらってくれるかい?」
緑の瞳に、強い光が宿る。スキリコは、にじって下がると、床に手をついて、深く額づいた。
「有難く、頂戴いたします」
途端、歓喜の声が湧き上がる。
三〈テル〉の大臣が、目を潤ませながら感嘆する。
「ああ――これで、先々は安泰でしょう!」
「再び白き王様を戴けば、クヌニ山のお怒りも、きっと鎮まりましょうや!」
喜び合う二人の大臣を眺めて、一〈シジ〉の大臣が、感慨深げに幾度も頷く。
騒ぎを聞きつけた廷臣達が、何事かと寄り集まってくる。
説明を受けてからの、戸惑い、得心、そして、諸手を挙げての歓呼。めでたいと、口々に祝いの言葉をかけられる。
誰からともなく歌い出し、節に合わせて踊り始める。
そこここで高らかに上がる、乾杯の声。飲み干されていく、クラムビル酒。
この世の誰よりも喜びたかった瞬間を、苦しい思いで味わった。
*
手首を掲げ、月明かりにかざして、まじまじと眺める。
冴えた盛秋の光にきらめく腕輪。寝る時は、耳飾りも含めて、全ての装飾品を外すのに、これだけは、ずっとつけていたかった。
今日は、十九歳の誕生日だった。
数多の贈り物の中で、ひっそりと紛れていた、質素な包み。
広げてみれば、これまた庶民的な――言ってしまえば、明らかに安物の、鉄製の腕輪が、ひとつだけ収められていた。
最上寵童に贈るには、あまりにそぐわない品物。
怪訝に思って添え状を開いてみると、差出人の名に、鼓動が跳ねた。
――このような粗末な品で、誠にお恥ずかしい限りではございますが、せめて何かひとつでも、お祝いを差し上げたいと存じ、求めてまいりました。ご笑納いただけましたら、幸甚にございます。――
どんな豪華な贈り物よりも、心躍る品。
絢爛な衣との取り合わせが悪かろうと、そんなことはどうでもよかった。
それからずっと、湯殿以外では、肌身離さず身につけていた。
手紙で解説されていた通り、一見、ディーダム教のお守りだが、注意深く観察すると、狼とノール文字だとわかる。
改宗しても故郷は忘れない、という、まさに反骨の意匠。大切な人を守りたいと願って贈る、ノール神話の魔除けの腕輪。
(アフシン……)
五月の誕生祝いをきっかけに始まった、手紙のやり取り。
対面の誘いは、もうずっと、断られ続けている。
それでも、わざわざ時と小遣いを費やして、選んでくれたのだ。心はともにあると感じられた。眺めているだけで、ぬくもりが伝わり、頬が幸せに緩んだ。
傍らで、そっと、慮る声が告げる。
「本当に――あの方のことを、愛していらっしゃるのですね」
視線を向けて瞬く。言葉が、ゆっくりと、頭に染みていく。
愛。これは、愛なのだろうか。
そうだとすれば、自分は、男を愛する人間になってしまった、ということなのか。
途端、急に恐ろしくなる。
身体が弓を欲するのは、心も、望んでいるからなのか。男に組み敷かれることを、真実、心から欲望しているというのか。
(……違うっ……僕は……僕は――)
腕輪を見つめる。いとおしい人の、心尽くしの贈り物。
確かに、会いたかった。声が、聴きたかった。抱き締めて、ほしかった。
しかし、それは、アフシンだからで、決して、汚い劣情から来る代物ではない。
愛でると言いながら、ほしいままに肌を暴くような、そんな穢らわしいものでは、決して。
「スヌンゴ……違うんだ――僕は……」
濃茶色の瞳が微笑んで、ゆるゆると、優しく首を振る。心からの温かな声音で、スヌンゴは告げた。
「あなたが幸せでいらっしゃるのなら、それでよいのです。たとえ、どのようなものであれ――あなたが幸せにお感じになる選択が、一番でございますから」
視線を落とし、指先で、腕輪のノール文字をたどる。幸せとは、何だったか。
アフシンは、確かに大切で、いとおしくて、あの時受け入れていればと、今でも思う。
しかし、アフシンは男で、自分も男なのだ。
それとも、変わってしまったのだろうか。組み敷かれる夜を過ごすうち、心も女のように、男を愛するようになってしまったのだろうか。
頭の中で、ぐるぐると、思考が巡って繰り返す。足元が崩れるような、言いようのない不安に襲われる。
わななく口元で、ようやく言葉をこぼす。
「……この気持ちが、愛なのかは……わからない……でも――」
怯えの中、切ない思いが胸に湧く。せり上がる喉に、視界が滲んでいく。
「すごく、会いたいんだ……」
腕輪を握り締めた手に、そっと、手が重なる。
振り見れば、優しい笑みが広がっていた。
「あれほどに、仲睦まじかったのでございます。きっと、ご縁も繋がりましょう。今は難しく考えず、目の前の幸せだけを噛み締めておけば、よろしいと存じます」
恐る恐る、窺うように見つめる。
柔らかく目顔で頷く、黄褐色の面立ち。濃茶色の瞳は、気遣いに溢れていた。
かろうじて、ゆっくりと、息を吐き出す。
その手の温かさを感じながら、ほっと囁く。
「ありがとう、スヌンゴ。――そうだね。あまり考えすぎて、思い詰めてはいけないね」
頷く、穏やかな微笑み。
おもむろに離れると、丁重に挨拶をして、居室を辞していった。




