ゼーエン・T・ナール
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言葉に思考は止まり、離陸しようとした飛行機が急に着陸したみたいにガクガクと体は揺れた。前にある顔を見ればさっきまでの責めるような感じではなくなっていて、後ろに続く真っ白な空間は終わりが見えない。
音もなく黙ってしまえば静寂が訪れ、隠しておきたかった妬みの感情をどこに置けばいいのかわからなくなる。
「何を言っている?」
「生まれた世界、そして転生した世界が気にくわなかったのでしょう?だから新たな転生を提案をしたのです。安心してください、あなたがいた世界は消滅するので何の心配も要りません」
真っ白な世界では自分がどこにいるのかも定かではなく、確認しようもない。せめて目の前の存在を確かめたくて発した問いは静寂に消えて、届いたのは慣れたキャビンアテンダントのように淀みのない口調と端正に作り込まれた笑顔。
「お伝えしましたよね?転生を選んだ場合あなたの存在が初めから無かったことになると」
「それは俺がいなくなっても何の影響もないってことだろ?」
「くっくっく」
口角が上がり端正な顔が崩れ首をかしげる様はおぞましさすら感じ、額に手を当てて大きく笑う姿は道化師を思わせた。何もかも知っている道化師は無知で右往左往する者を滑稽だと笑う。その姿は遥か高みから見下ろす神様と変わらないのかも知れない。
「あなたが初めから存在しなかった世界が有り得ると思っているのですか?」
いたずらの種明かしを楽しむ姿がよりゼーエン様を神様から道化師へと変貌させる。1+1は何ですか?と尋ねるような口調も嫌みがなく板についている。単純なパラドックス、考える時間もいらない問いかけに乾いた笑いがこぼれそうになる。
「有り得ない」
「そうです!有り得ないのです。よく気付きましたね、とても遅かったですが。ふふっではあなたが前にいた世界はどうなったのか?」
「消滅」
「はい、そうです消滅しました。人がひとりいなくなるということを軽く考えていましたね。何十億といるからひとりいなくなっても変わらないと思っていましたか?」
くるくると回り始めたゼーエン様は歌うように言葉を紡ぎだす。
「世界の認識はどこにあるのか、それはあなたの中に。認識された世界は1つしかない。あなたが居なくなった世界が続くか、あなたは確かめることが出来ない。世界はあなたと一緒に消えます。世界を認識する者のいない世界は存在しない。転生するか、あの世界に戻るか考える時間を与えます。よく考えてください、あの世界の悩みもあなたが転生することを選べば一緒に消滅してしまうのです。それはそれで良いとは思いませんか?」」
恭しくお辞儀をして軽くステップを踏んだゼーエン様は、こちらの問いに一切答えずに手を振り去っていく。道化師とはそういうものだと言わんばかりに。そして最後にこう残した「決まったらゼーエン・T・ナールと呼んでください」と。
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やぁ、久しぶり。どうだった?ひとり取り残された俺は、映画のように自分の人生を振り替えってみたってわけなんだけど...まぁ自分のことながらなんて情けないことを言っていたのだろうかと思う。
特にゼーエン様との会話で「憧れた世界のように家族や友人に囲まれて笑って生きたいと思うことが罪なのか?!」なんて自分に酔った台詞は恥ずかしくて誰もいないのに、身を隠したい気持ちで一杯。ついさっきのことで、舌の根も乾いていないから恥ずかしさが身に染みるよね。
妬みの感情を口にするなんてとても格好悪い。100メートルを10秒で走れないからって絶対にそれが不幸せではないよね?でも10秒で走れないから不幸で、走りたいと思うのが悪いのか?って言っていたのがさっきまでの俺。
ゼーエン様も取り合わないわけだよ、そんなことを言われても「知りませんよ」と返すのが精一杯だ。
何もない空間でひとり物事を考えると、今まで見えていなかったものも見えるということだろうか。
ただ漠然と振り返っていたわけではないから。
ダメなところも含めて、大事な思いを掴みあげてきた。
『架空の世界の出来事、そんなものに憧れるのは馬鹿げている』
『大きな島が空に浮いている、重力の干渉はどうなっているのだろう、考えても無駄。魔法がある世界、大きな島が浮いている理由もきっと幻想的なもの』
『みんなが持っているものは僕も欲しかったし、みんなと同じような行動を僕もしたかった』
『小さな子達の期待に応えられなくて、何が憧れを叶えるだ、何が勇者だ』
『たくさんの愛情に包まれていた僕は蒙昧に単純にそんな事を思う』
『僕も『勇者』の適正を告げられる事をについて深く考えずにいられたんだ』
『転生して、映画をなぞるように仲間を集めてプロペラ飛行機を作ろうとした』
『今までの楽しい思い出は、そんな気持ちだけで過ごしてこれたのは、俺が守られていたからに他ならない』
『ただ与えられたものを受け取っていただけで、自分から手に入れようとはしなかった』
与えられたものだけで生きようとした。
『ものわかりが良い事にして妥協しているだけだ』
『知ることは怖いから。知って自分を思い知ることになるから』
『過ちをつきつけられるから。至らなかった自分が責められているような気がするから』
与えられたものを見ようとせず、都合の良いように受け取っていた。
『何も知ろうとしなかった』
『大人とは他人に認めてもらうことではないが、他人との関わりの中に答えはある』
『大人とは人との関わりの中で、自分というもの築くことだ。自分の中に言葉を持つことだ。その言葉は借りものではなく、自分の熱を持った言葉。一時の感情ではなく誰かへの思いを宿した言葉を』
自分を知って大人になる。
知りたいと思った。だから俺は...
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「.....ずっと見てきた、多くの世界が滅ぶのを。声を出しても救うことはできなかった、届かないこともあった」
私の目の前には5つの世界が広がる、私という存在が生まれてから変わらずに5つ。
初めの頃はずっと見ているだけだった。誰に何を言われたわけでもないし、何をすればいいかもわからなかったから。
だが、見ている内に世界に興味を持ち、人間と関わりたいと思うようになった。何か出来ることはないかと試した所、その世界に住む人間のことがわかり、声を届けられることを知った。
残念ながらどの世界にも私は行くことが出来なかったが、人間が笑ったり泣いたりするのを愛おしく感じており、それでも良いかと。たまに声を届けるのが自分の役割なのだろうと納得をした、世界が滅ぶまでは。
「どうして?」
5つあった世界のひとつが滅び、次の瞬間には別の新しい世界が生まれていた。
ずっと見ていたいと思っていた人間が、私の声を聞いてくれた人間がどうしようもなく消えていく。抗う姿が目に悲痛に叫ぶ声が耳に残った。
それからどれほどの世界が滅び、生まれただろうか。その度に私はすり減った。そして私は過ちを犯す。
いずれ滅ぶならと世界に手を伸ばし消えるように念じたのだ。
「まさか、そんな...」
手を伸ばした世界は消え、別の世界が生まれていた。何の為にそんな力があるのか解らないが出来てしまう、その事実が私を歪ませていく。
再び私は自分にどんな力があるのか試し始め、記憶を引き継いだまま生まれ変わらせる力つまり転生させる力があると知った。それは世界を越えることも出来、私は滅びの運命のある世界へと次々と転生させた。
だが、運命は変えられなかった。希望を見出だしていた分、失意も大きくどうでも良くなっていた。気分次第で世界を消滅させた。新しく出来て間もない世界も関係なく、咎められもしなかった。
消滅させることにも飽き、滅ぶ世界を何をするでもなく眺めていた。
『転生か...俺も異世界に転生できたらな』
その声に苛立ち、私はその青年を転生させることにした。
大橋頼人に私の絶望をぶつけ、私の選択が間違いでないと思いたかった。どうにも出来ない状況で自棄を起こす彼を見て、慰めたかった。諦めた自分を許したかった。
なのに彼は最後の最後で私を裏切った。
「なぜ?私はゼーエン・T・ナールなのだろうか?」
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つづく
次で最終話です。




