プロペラ
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「リュッケンヴィント」
王都を背に俺は歩く、道のりは長いけど。ゆっくりと歩きたい気分だから、流れる雲のように進んでいく。
とは言っても、追い風でとても楽ちん。魔素は使った方がいいらしいし、俺は俺なりのやり方で前に進んでいく。
重たい荷物は寄り道した先で降ろしてしまった。
何百という命を奪っておいて無責任だと言う人もいるかもしれない「戦争だから仕方ない」なんて言い訳をするつもりはないが、そういう人は俺がPTSDでも発祥すれば満足して許してくれるのだろうか。他の人の顔色を伺って答えを選んでいけば、そういう人からは責められはしないだろう。
キレイにラッピングされた箱にリボンが固く結ばれている。検問だって素通りして、映画のような夢で呼吸を忘れる。いつかボロボロになるその日まで。
そして気付く。なにも手にしていないことに。
まだぎこちないけど、大人になった俺は他の人の求める答えではなくて自分の答えを持つ。あの時の俺はあれで良かったと。感情のまま流されて戦争に参加する選択しか思い浮かばなかった。それが過ちだと気付いていなかった。それは空も見ないで天気を当てるようなものだった。
空を見上げて見ると、雨は降っていなかった。
道に大きめの小石が落ちていて、それを蹴ってみる。小石は転がり、形によって思いもしない跳ね方をする。思いっきり蹴ると道を逸れて草むらへと消えていった。少しの間だけ痛みを残して。
「ライトちゃん!!」
集落が見えてきたと思ったら母さんの声が聞こえた。
「ぐえっ」
母さんの声が聞こえたと思ったらお腹に衝撃がきた。
「バカ兄さん」
お腹に衝撃がきたと思ったら罵倒された。母さんとニコの声を聞いたのはいつぶりだろうか、離れてから一年も経っていないと言うのに何年も聞いていなかった気がする。お腹にくっついた小さな頭を撫でていると、体が引き寄せられて人口密度が高くなる。
道には充分な広さがあるのに、くっついているのはそれだけの理由があるから。小さな声で「ごめんなさい」って聞こえたけど、母さんが僕に謝る理由は分からない。
「どうして?」
「どうしてってずっと待っていたからに決まっているじゃない!!」
ニコが器用に胸の辺りをを叩く、こっちは撫でているのにいったいどういう具合で歯車は回っているのだろうか。
「どれだけ母さんが心配していたと思っているの!この兄さんは!!」
歯車は正常に回っていたみたい。形容詞がなくなったのは良いことなのか悪いことのなのか「兄さん」と呼ばれて、嬉しい気持ちが湧いてきて、謝らないといけないのに頬が緩んでしまってサ行もガ行も言えない。雲ひとつない空が広がっていてもポツリポツリと水滴が落ちていく。
「帰ろっか」
左手が母さん、右手はニコに繋がれて歩く。こういう時真ん中に来るのは一番幼い子の役割りだから、きっとそういことなんだろう。不甲斐ない兄で息子ですいません。下を向きそうになる顔にニコの目が写り、急いで顔を上げると母さんと目があう。
繋いだ右手が前に後ろに大きく動き出し右手に合わせて左手も大きく動き出す。互い違いにピストンして、しぼんだ背中をまっすぐに伸ばした。
集落に着くと3軒の家には明かりが見えた。フライヤ家にだけ明かりはなく、そこには誰もいないことを表している。並ぶ影が静かに消えていく。
家は何も変わっていないくて、染みがついたカーペットに傷のついたテーブル。明かりを灯して広がる色褪せたカーテン。使い古されたベッドにおもちゃ。背が伸びた時間のほとんどを一緒に過ごしてきた。ライト・K・フライヤの得たもの、捨てたもの、変えたもの、変えなかったものが残っている。
部屋で着替えを済ませると一人大きく息を吸い込んだ。
リビングに戻り四人掛けのテーブルに3人で座り食事をとる「明日は腕に寄りをかけて作るから」と出されたメニューは豪華とは言えないけど、美味しくて暖かい。
昨日もそうであったかのような何気ない話をして夜になる。
「入っていいわよ」
扉をコンコンとノックをして、招かれて入る両親の寝室。腰掛けている母さん、ひとりで眠るには大きすぎるベッドの端で両手を膝の上で揃えている。
なかに入ったはいいものの扉の前で立ち尽くしていると、飛び立った飛行機は必ず着陸するのが当然のように隣に座れと訴えてくる。
「母さん、俺...」
管制塔に逆らえるはずもなく、引き寄せられて輪郭と体温を知る。
「なに?」
「その俺、」
はじめにどの話をすればいいのか決められない。戦争のこと、亜人のこと、この大陸のこと、転生のこと、胸の滑走路から離陸出来ずに居座ってしまう。
「“オレ”って言うようになったのね。そうよね、もう私達の住んでいる大陸が長くないことを知ったのだもの、オレって言うようにもなるか」
頭の手に力が入り頬と頬がくっついて、少し体温があがる。
「こんな世界に生まれて嫌になった?産んだ私たちを恨んだ?」
掠れる声が揺れている。首を振って揺れないで欲しいと願う。
「世界が滅びるとしても辛い未来が待っているとしても、私達はあなたを望んだの。喜んだり嬉しい気持ちを知って、笑って楽しんで生きるのって素晴らしいって思って欲しかった。一緒に世界を見たかった。...勝手だよね、ごめんね」
「そんなことない。でも、生きるのって楽しいことばかりじゃなくて辛いことや悲しいこともある」
「辛いことや悲しいことを前にしても、乗り越えて、立ち向かうように育てるのが親の役目だってアレクとね」
「例えそれが絶対的な絶望でも?」
「そう、絶対的な絶望でも」
プロペラッを初めてした時、ダイヤたちに失望されたのが辛くて父さんと母さんと一緒に考えて面白い躍りの練習をした。雪が降って作物がダメになった時、楽しい方へと振り向かせてくれた。プロペラ飛行機が墜落しそうになった時も助けてくれて何も言わなかった。父さんは俺を戦場に立たせないために騎士になって守ろうとしてくれた。
「過保護が過ぎるよ...その、俺には前世の記憶があって、この世界とは違う世界での記憶なんだけど、それでこの世界に生まれ変わる時の記憶もあるんだ」
ゼーエン様との出会い、前世での生活、孤児だった過去、憧れた物語の話、こちらの世界での思い出。胸の滑走路から離陸していく。飛び出した言葉は不揃いで、歪で飛行経路も守れてなく、着陸できるか分からない。頭に置かれていた手は何も変わらない。
喉の奥を鳴らす音がして飲み込まれていく言葉、どこに着陸したのだろうか。
「ねぇ子どもは親を選べないって言うけど、親も子どもを選べないのよね。その子がどんな適正を持って生まれたのか、この世界ではどんな魔法を覚えるかも分からない。だからライトが前世の記憶を持っていようが、そのゼーエンとかいう神とどんな話をしていようが、私たちの子ども。この手で抱き上げてきたのよ?」
無事に着陸したと報せが届いて胸の空港には歓声が上がって、特別な飛行機が飛来する。
「もし俺が悪い子だったら?」
「その時はう~んと叱ってあげるわ」
その言葉を最後、燃料が切れたエンジンのようにウンともスンとも言えなくなって意識を手放した。
「マザコン」
軽蔑の眼差しが目を大きく開かせる。隣では母さんが寝ていて、カーテンの隙間からは光が出番を待っている。会心の一撃を繰り出せるニコは俺よりも勇者している。
「部屋に居ないと思ったら!もう、探したんだから!!」
感情に任せて話すニコを見て、思い付く。
「...ブラコン」
「なっ!なにをバカなことを言っているの!この兄さんは、わたしのどこがそのソレだって!?」
やはり勇者、痛恨の一撃を受けてあたふたしている。部屋にも紫電が走っていて雰囲気が出てきた。バチバチと音もして一体どれだけの魔力を注いでいるのかとニコを見ると、不思議そうな顔。視線の先を見ると窓を開いた母さんが空に向かって雷を放っていた。
「母さん何しているの?」
「え?うちのライトに何するのって叱っていたの」
光が部屋を満たしていって壁に掛かった家族の肖像画を照らし出す。父さんが苦笑いしている。
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月日は経って、俺はプロペラ飛行機のコックピットに座る。移住出来る大陸を探す為に。
周りにはフライヤ家、ファルマン家、ムーロメツ家にデュモン家の皆に加えてキースさんにトレメイン大佐、ピアンテさんとビアードさんを含めた軍の人たちもいる。
リンたちが側にやって来て心配そうな目を向ける。
「大丈夫なの?」
「ライトにい見つかるの~?」
「僕も一緒に」
「...」
ニコとは昨日さんざん話し合ったけど納得していないようだ。。
「ねぇ、みんな。プロペラはね、何度も諦めずに同じことを繰り返して前に進むんだ。だから・・・」
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おわり
ここまで付き合ってくださった方、本当にありがとうございました。
もっと上手くなります。
いままで自己満足で書いていましたが、もっと形にしていこうと思います。
お目を通してくださって、ありがとうございました。
名前を変えるつもりはないので、またいつか。




