ぜーエン様と再び
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重たい荷物を背負って、歩く。
夜明け前にベッドから抜け出して、誰にも見咎められないように王都の外に向かった。物陰に隠れて人が通りすぎるのを待ったり、門番に気付かれないように息を潜めたりしてドキドキしながら。こっちの世界で初めてした「かくれんぼ」を思い出した。
「もっとリン達と遊べば良かったな、転生しているからズルいなんて思わずに」
楽しかった。それを素直に受け入れていれば良かった。
「もう一度やり直せたらな...」
白い稲光が僕を貫いた。
気がつくと真っ白な世界。目の前には、ギリシャ神話に出てくるような長い髪に白い衣を着ているゼーエン様が立っている僕を、笑いながら見ていた。
「久しぶりですね、大橋頼人いや、今はライト・K・フライヤでしたね。ふふっ」
急な展開はダイヤに「おどるおどるおもしろおどる」と言われた時以来だ。あの時は頭が真っ白になって、周りも見えなくなってしまったけど、ゼーエン様の笑っている姿を見たら心の格納庫の扉が開いてよく分からないものが溢れてきた。
「な、何を笑っている?!あんな世界に生まれ変わらせて!ぼ、俺がどんな思いをしたか分かっているのか!?」
「ええ、見ていましたよ。それで?」
「はぁ?誰のせいだと思って!?」
「それは...あなたのせいですね。転生するかどうか決めたのはあなたじゃありませんでしたか?」
ーーー「大橋頼人、あなたは戻る事もできるのですよ?その場合は此処での記憶を失う事になりますが、あなたが居なくなっては悲しんだり、困ったりする人もいるでしょう?」
ゼーエン様に放った言葉は空に向かって話しているようで、まっすぐ落ちてきた。
「あんな世界だなんて聞いていなかった!」
「聞かなかったのもあなたです」
飛行機の整備不良の報せを聞いた時のように胸に鋭い痛みが走る。転生する前から知ることを避けていた事実に胸の奥のまだ乾いていない傷がジクジクと痛んだ。あのとき聞いたのは飛行機がある世界かどうかだけで、どんな世界かは聞かなかった。
魔法があると知ったのも、転生してから。
「でも、あの状況だったら転生を選ぶに決まっている!」
「だから自分のせいではないと?」
「いや、だって」
「何かのせいにして罪悪感を拭って無力感から逃げたいだけでしょう?」
それは「飛行機の整備不良は君のミスが原因だ」と言われた時と似ていて、呼吸が上手く出来なくなる。自分の弱さや醜さを突きつけられるのは、足の底が抜けて落ちてしまう気がする。必死にもがいて理由を探してあちらこちらと手を伸ばすけど、掴めるものは何もない。
「世界を救ってほしいと頼みませんでしたか?ライトさん、あなたは『世界を救う』という言葉がどういう意味を持つと思っていたのでしょうか?」
どこにも逃げる場所がないというのに容赦がない『世界を救う』という言葉の意味なんて考えたことなんかない。物語のように都合良く展開していくものだと思っていた『勇者』という役割はそういうものだと。
「家族や友人をどこかのパーツのように、自分を彩る装飾品と勘違いしていませんでしたか?」
そんな訳ないと言えなくて歯噛みする。何度も見た映画のワンシーンに登場する人物にリンにトルク、ダイヤを見立てて、飛行機の後ろで手を振る姿を重ねようとした。
結局今になっても、転生したことは誰にも打ち明けてはいない。打ち明けてしまえば、その姿が違ってしまうから。
「他人を妬んで、自分を認めてくれる存在が欲しかっただけですよね?」
前世で何も与えられなかったんだから、そういう存在を望んで何が悪い。誰だって受け入れられたいし、認められたいって思うものに決まっている。
責める言葉に押されて心の格納庫の中のものが全て吐き出される。
「それの何が悪い!?自分の持っていないものを持っている人を妬んで何が悪い!みんなそうだろ?俺だって幸せになりたい、憧れた世界のように家族や友人に囲まれて笑って生きたいと思うことが罪なのか?!」
「ライトさん、また転生しますか?」
空がひっくり返るような言葉が落ちてきた。
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つづく




