知ること②
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200年前。
霧状の雨が降った日。
世界の端に建てられていた壁の一部が消失した。浮島で暮らす者にとって、壁は絶対的な境界。それが初めからなかったかのように途切れていた。
あってはならない事態に、人々は原因の究明に奔走した。その結果、周囲の物質に異常が見つかる。魔素の研究者が付近の土や壁を解析した所、魔素が含まれていることが判明したのだ。
魔素を観測することによって、魔素は空気中で一定量しか存在できず飽和すると近くの物質に侵入すること。侵入した物質の繋がりをほどき、形を変えてしまうことが新たに明らかになった。
壁の一部が消えたのは、居場所を変えた魔素によって、世界が物理的に分解されたに過ぎなかった。
研究者たちは魔素が飽和した原因について、大陸の端は人々の生活圏ではなく魔素が消費されない為だと予想した。しかし、観測記録は残酷な事実を突きつけた。大陸全体の空気中の魔素は年々増加していたのだ。
人の手で魔素を消費するにも限界がある。
さらに物質に侵入した魔素は直接的にも人に影響を与えた。魔素の含まれた土で採れた作物を口にした者や魔素を含んだ雨を浴びた者の中に、獣の特徴を持つ者が現れはじめた。ただ魔素を呼吸以外で体内に取り入れた者の全てに変化が現れた訳ではなかった。
それが事態を複雑にした。人々は維持種と変異種に分けられることになり、差別が生まれた。やがてひとつであった国が、ふたつ、みっつと別れていった。
善き隣人であった魔素が、運命を弄ぶ悪魔になった。
人々は魔素の増加を止めることも対策を取ることも出来ず、大陸が削られていく様を見るしか出来ないまま時は流れた。
そして15年前。
食料不足が深刻化し、国としての対応を迫られたロイテ王国の国王は王国人以外の虐殺を決断する。変異種の呼称を亜人とし「生存すべきは維持種のみ」と大義を掲げたのだ。
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「どうすればいい...」
星の明かりが見える部屋でひとり、息を吸い込む。
トレメイン大佐との話は明かりを灯すまで続いた。たどたどしい声が端正な声で返されていくのが情けなくて、恥ずかしかった。知らなかった事を知る度に、汗が流れ体が沈んだ。自分の愚かさと向き合うことは、全身の皮膚を剥がされたかのように酷く身を悶えさせた。
悔やんでも取り返せない言動に間違っていなかったという願いが、まだ体の中を廻っている。
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「みんな知っているのですか?」
「戦争に参加している者で知らない者はいない。どうして戦うのか?それを知らずに戦うバカはいないだろ?」
「...僕は知らなかった」
「バカだったんだな。20年だ。あと20年で大陸全土が崩壊すると研究者たちは試算している」
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毛むくじゃらで耳の生えた人も知っていたのだろう、きっと父さんも。集落の皆はどうだろうか?リン達は知らないにしてもザックさんや母さんは知っていたのかも知れない。
あと20年で崩壊するという世界で、何を思って生きていたのだろう?
僕は知りたいと思った。
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つづく




