知ること①
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人が死を迎える瞬間を見たのは初めてだった。戦場で何百人と亜人を殺してきたけど、それは人形を魔法で動けなくしているようなものだった。
表情が消えて、弛緩する肉体はもうどこも動いていない。赤い色が淡い茶色の毛にまとわりついて、流れる場所を間違えていて、黒ずんだ水たまりが出来ている。
「ああっ」
呼びかけたいのに名前を知らない。ーーー聞こうとしなかったから。
親切にしてくれた、やさしさを分けてくれた。ーーー敵国の人間だと知っていたのに。
大切なことに気付かさせてくれた。ーーー生きてて良かったと言ってくれた。
「ライト君、君は」
声の後ろで、こちらに伸ばしたままの大きな手が止まっている。視界が悪くてはっきりと見えないけど、ここでこれ以上ひどい事が起きないのはわかった。
動かない体が二つ道に転がり、雨が降って、冷たさを増す。
水滴は伝って、流れ落ちていった。
自分の選択した結果の意味を知る。それはもう取り戻せなくて、後戻りすることもできない。
「どうして?」
「どうしてって当然じゃねぇか、俺達は」
「待って下さい、レセティックリアンさん」
途中で止まってしまった答え。二人の声は僕から離れて、何を言っているのか聞き取れない。僕はもう濡れるのは嫌になって、家の軒下で座ることにした。
腰を下ろし脚を三角に立てて両腕を膝の上で組み、組んだ腕の上に額を乗せて真下を見る。そうして出来たひとり分の空間。そこには何もなくて息づかいが鮮明に聞こえる。雨の音も少しはましになった。
何かをしなくてはいけないのだけど、何もする気にはなれなくて。時間が過ぎるのを止めることもできなかった。
足音がして影が僕を覆う。顔が起き上がり上を見ると二人がいて、道に転がっていた体は土の中に並んで消えていた。
「ライト君、いきますよ」
体を持ち上げられ背負われる。固い装備がくい込んで痛い拒否することも無く、また人に運ばれている。いきつく先に何があるのか、流れた雨はどこに向かうのだろう。
目が覚めて周りを見る。白を基調としたした部屋で、置かれている物は寝ているベッドと床頭台がひとつ。格子の付いた窓からの光が部屋を淡く写しだしていた。目が覚める前の景色とは何もかも変わってしまった。ここがどこなのか分からないが、動く気にはならなかった。
心に沈んだものは何も変わっていない。格納庫にしまおうとしたけど、前に残していたよく分からないものが大きくなっていて、しまうスペースは無くなっていた。もうはぐらかしは許されないみたいだ。ベッドの上で無様を晒しておくほかない。
扉の開く音がして、誰かが入ってくる。嫌な予感がしたけど、防ぐ気力もなく視線を天井に固定していた。
「目が覚めたのか?」
トレメイン大佐。会いたくないと思っていたはずなのに、その声を聞いた瞬間に抱えきれなくなったものが崩れ落ちる。
「...どうして?戦わなくてはいけないんだ?どうして?戦争なんかしているんだ!?何をしたって言うんだ?どうしてこんな思いをしなくてはいけない!どうしてなんだ!?普通に生きててはいけなかったのか?誰の為に何の為にこんなことをしているんだ?!」
「ああ」
まくし立てる声は聞き取りづらいだろうけど、喉から止めどなく落ちていく。以前に見透かすような目で見られた為か、言葉も選ばなくて済んだ。
トレメイン大佐はたじろぎも驚きもせず、頷くように応えると目頭を押さえて口許を震わせた。
「すまない。例え「勇者」の称号があろうと、信託を授けられた者であろうとも、子どもを戦場に出すべきではなかった。謝って許されることではないが私が知っている範囲で何でも答えよう」
頭を下げる姿に困惑する。どうしてそんな真似をするのか理解が追い付かない、あの毛むくじゃらの耳の生えた人もどうして最後に笑っていたのか。どうしてそんなことが出来るのか分からない。
何を知れば、何を分かれば良いのだろう。自分に足りないものをつきつけられて逃げたくなる。だが逃げ場のない部屋ではどうしようもない。
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知ることは怖いから。知って自分を思い知ることになるから。
過ちをつきつけられるから。至らなかった自分が責められているような気がするから。
それでも知らなくてはいけない。
世界を知らなければ自分を見つけられないから。
自分を知って大人になるから。
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「どうして戦争が起きたんですか?」
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つづく




