「なにも知ろうとしなかった」
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雨は倦むそぶりを見せず、いつ止むとも言わない。このまま変わらないんじゃないかと疑ってしまう。目の前では毛むくじゃらで耳を生やした人達が言い合いを続けていた。
「種を賭けた戦いじゃと?そんなもんじゃないわい。ただの口減らしだろうて」
「何言ってんだよ!?あっ今日の分のメシ食ってんじゃねーか!」
「わしの分じゃよ。お前の分はほれ向こうに用意してある」
「ああ?いや、あれは明日のじゃ」
差し出された鍋の中は空っぽになっている。おかわりしたせいで、2人の分を食べてしまったらしい。そこまで食料が不足しているとは知らなかった。
知らなかった。
違う、知れたはずなのに知ろうとしなかったんだ。
今まで食料を徴収されたり配給を受け取ったりした経験があったのに、差し出された食事に何の疑問も持とうとしなかった。空腹だったから考える余裕がなかったんだという言い訳も、おかわりしておいて何を言うのかという話だ。
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「何も知ろうとしなかった」
ここに来て、この言葉の意味がようやくわかった気がする。
『違う、そうじゃない。踏み込んでいいのか分からなかったんだ。前世の記憶がある僕はどうしたって人との関わりに壁を感じてしまうし、前世の体験が踏み込むことを戸惑わせた』
自分の臆病さや未熟さを境遇のせいにして、向き合っていなかった。俺は悪くないと思いたかったから。踏み込めないことを前世の記憶があるのを理由にして逃げいていたんだ。
父さんがどんな思いで戦場にいたのか、誰にも聞いていない。母さんがどうしてお風呂場で泣いていたのか、誰にも聞いていない。
ただ与えられたものを受け取っていただけで、自分から手に入れようとはしなかった。
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「明日の分って、じいさんは食わないつもりなのかよ!?」
「わしの勝手じゃ。もうええ、怪我人の体に障る」
「~~っ!」
鋭い目が僕を捉え、いつまで部外者でいるつもりだと咎める。何を言えばいいか分からない。ご飯を食べてしまったことを謝ればいいのか、それは親切に対しての裏切りにならないだろうか。助けてくれた手を侮辱することになってしまうのではないか。
視線を横に逸らすと、まっすぐな目があった。
「ありがとうございます」
「いいんじゃよ。ところで名はなんと言うんじゃ?それにあんな所で何をしよったんじゃ?」
どうこたえればいいのだろう?どうこたえたいのだろう?
「僕の名前はライトです。軍の調査で崖から落ちた所を助けていただき、ありがとうございました」
「そうかそうか、大変じゃったな。ワシは「軍!?軍だって?ほれ見たことか!維持種なんて厄介なものを引き込むからこうなる!!」
怒声がすべての音を飲み込んで、ひとつの影が動いた。床を踏み鳴らして大きな手を伸ばす。掴まれる腕に引っ張られる体。お皿とスプーンが手から落ちて、布団の上に転がる。
制止する言葉も振り払い、影は雨の音へと近づいていく。扉が開き、冷たい風にさらされて仰ぎ見る雨空。
放り出された体が泥水を削り、汚れてしまう。せっかくキレイにしてもらったのに。不器用な手の感触が流されて、投げつけられた軍服は重さを増す。
「リトル!!」
あとで間が悪いというのはこういう時に使うのだと思った。僕を家の中に連れ戻そうと出てきた毛むくじゃらの耳の生えた人が、触れようとした場面にビアードさんとピアンテさんが鉢合わせたのだから。
言葉が遅かった。
ビアードさんが剣を毛むくじゃらの耳の生えた人に刺して、僕から離すように突き飛ばした。雨ではないものが降って、フワフワになる毛はひどい色に変わった。
「うあ、あ+%$#!!&”」
肩に置かれた手を振りほどいて、毛むくじゃらの耳の生えた人の所へと走る。足が滑って、泥水が口に入って気持ち悪い。這いながらひどい色をした毛にたどり着く。
「おい!リトル」
「ビアードさん、待ってください。様子が変です」
目が合った。笑っている目だった。不器用な手が頭を撫でて、落ちていった。
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つづく




