雨の音
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大人とは人との関わりの中で、自分というもの築くことだ。それは社会や世界の中で自分の在り方を規定することであり、育ってきた環境や関わってきた人々を通して、自分の中に言葉を持つことだ。その言葉は借りものではなく、自分の熱を持った言葉。一時の感情ではなく誰かへの思いを宿した言葉を。
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空腹が満たされ、鮮明になった思考で状況を把握する。毛むくじゃらで耳を生やした人物は亜人に違いない。調査目的で訪れた地で、ひとり亜人の家に来てしまった。どうして戦争相手の国の人間を助けたのか分からないが、この状況は。
「まずい」
「なんじゃと?ひどいのじゃ!おかわりしよったじゃないか!」
「いえ、そうじゃないくて」
「じゃあ一体何が...おぬし喋れるようになったのか!?」
喋れる状態じゃなかっただけなのだが、こちらの身を案じる様子にいたたまれなくなる。この場を辞さなくてはいけないのはもっともなのだが。
「はい、おかげさまで。それでここは?」
「ここ?ここはわしと孫の家じゃ」
「...他にも家はあるのですか?」
「いんや、わしらの家だけじゃよ」
毛むくじゃらで耳を生やした人物は寂しそうに窓の外を見やる。視線の先にはどんな風景を想っているのだろう。つられて見た窓の外は雨がまだ降り続けていて、水の音が心地よく響いた。飛行機の排気口を洗い流していくように。
「まぁ何にせよ無事で良かったのぉ。にしても王国の子どもは久しぶりじゃ、戦争が始まってめっきり見んようになったからの。前はわしの体に登ってのぉ『フワフワじゃ』言うてよう笑いよったんじゃ」
懐かしそうに話す様子に、触れてみたくなって手が伸びそうになる。背中におぶられていた時は、雨に濡れていて『フワフワ』は感じなかった。淡い茶色の毛並みの手触りは想像をこえるだろうか。
「戦争が始まる前はどんな感じだったんですか?」
「にぎやかじゃった...この辺りは宿場町として栄えていての、この家も宿を営んでおった。旅人や商人、吟遊詩人が足を休めにたくさん来よったもんじゃ。腕によりをかけて食事を作っての、それをだしに彼らの話を聞くのが好きじゃった。夢を語っては笑いよるんじゃ...色んな人がおった。中にはわしに懐いての離れたくないと言って毛を毟っていく子もおったんじゃよ」
毛むくじゃらの耳がゆらりと揺れて、ぽつり、ぽつりと話しだされる思い出。それは引き出しの奥から出された記念品みたいで、気安く触れられない。ただただ雨の音も忘れて聞いていた。
「ただいま~、ってじいさん帰ってたのか!」
「おお、帰ってきよった」
真新しい空気が入り、騒がしくなる。耳を澄ませ、目を見張る。長居してはいけなかった。物音は近くなり、逃げ場のないまま不穏な想像が頭を巡る。
「水路を開けといたから畑は大丈夫だと思うけど、そっちはどうだった?」
「ああ、それじゃが途中で倒れている人がおっての」
「え?」
目が合い、互いに固まる。どんな反応をするのか伺い、何を言うべきか探っているようだ。冷や汗が額をにじませる。視線が逸れ、先に口を開いたのは向こうだった。
「...じいさん、そいつは?」
「ああ、王国人じゃな」
「王国人じゃなって、分かってんのかよ!戦争中なんだぞ!」
「子どもじゃ」
「子どもつったって、どうすんだよ!?それにそいつ何か隠しているぞ!」
再び合う視線は詰問するかのように尖っている。軍の服を着ていなくて助かったが、素性がバレるのも時間の問題。どうしたらこの状況を打開できるか考えても良案は浮かばず、冷や汗が背中を伝う。
「いいんじゃよ」
「いいって何がだよ!?この戦争は変異種か維持種どちらの種が生き残るかを賭けた戦いなんだ!」
へんいしゅ?いじしゅ?聞かない言葉が耳から先に進まない。生き残りを賭けた戦いとは一体どういうことなのだろう?「そんなことも知らないで」ニコの声がまた再生される。
雨の音がひどく響いていた。
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つづく




