不器用な手
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落ちていく感覚に晒されながら、飛行機の墜落じゃなくて良かったと安心する。重力が現れて抗う力に意味が無くなり、何も希望を見いだせないから。
地面に叩きつけられる直前に魔法を強め、衝撃に備える。転がりながらでは上手く出来ると思えないがやらないよりましだろう。ランディングとまでは行かなくても不時着ぐらい『シュトゥルム・ベーエ』垂直方向での落下を避け、地面との衝突エネルギーを横の移動エネルギーへと変えるように風の魔法を追加で放つ。
魔法の発動と共に投げ出される体、地面を転がり跳ねてエネルギーが消費されるのを待つ。地面の凹凸や木々にぶつかって、機体の損傷は免れない。意識を失う前、落ちてきた場所を見た。その崖は高くて、とても高くて登れそうになかった。
「......どしたんじゃ?」
誰かに揺らされているのに気が付いて、体を動かそうとするが叶わない。体力も残っておらず、痛みが全身を駆け巡る。
「大丈夫かの?」
年齢を感じさせる声の主が僕の体を持ち上げ、背負うようにして連れていく。大きくて柔らかい背中にやわらかな感覚を覚える。どんな姿をしているのか気になったが、降りしきる雨でその姿を捉えることも出来ず、そのまま僕は目を閉じた。
背中に揺られ体の痛みも幾分かましになった頃、皮膚を叩いていた雨が止まる。あれから目を開けてはいないが屋内に入ったのだろう。
何も考えたくなかった。目を閉じていれば、新たに情報が入る事はない。からだの痛みのおかげで余計なことを考えずに済む。この状況は今の僕にとって都合が良かった。まどろみ中に包まれていく。
次に気が付いた時には、服を脱がされ暖かいお湯に浸けられていた。驚いたがそれでも動く気にはなれず、されるがままになる。
大きな手によって無造作に体を拭かれ、適当な布を着せられ、やわらかな物の上に寝かされた。不器用な手だった。その手は寝かせると頭を5回ほど撫でると離れていく。子どもに戻った気がして、目を閉じたまま笑う。
そうしていると美味しそうな匂いがしてきて、鼻孔をくすぐる。そう言えば朝から何も食べていなかった。意思に反して食欲に体が反応する。
「起きても平気かの?」
湯気を立ち昇らせた鍋を持って、こちらにやって来る。毛むくじゃらで耳を生やした人。驚きのあまり口をパクパクとさせて、じっと見つめてしまう。
「声は出せそうにないのじゃな、食欲はあるかの?」
状況が飲み込めず、コクコクと頷づくことしか出来ない。毛むくじゃらの耳を生やした人は横に座り、鍋からよそったお皿と木製のスプーンを僕に差し出す。
大きな野菜が浮かぶ乳白色のシチュー。
美味しそうな匂いに手が伸びる。お皿を受けとり、スプーンですくって口元に運ぶ。息を漏らし、かじりついたスプーンは口の中に温かな味わいを広げる。飲み込むと、体の中に熱が生まれるのを感じた。
「ほっほっほっ。良かった良かったのぉ」
毛むくじゃらの耳を生やした人が、目を細めて笑う。その笑顔を見て浮かぶ父さんと母さんの顔。彼らは僕を見てこんな風に笑ってくれていた。どんなことを考えていても、慈しむように、嬉しそうに、ただ存在することを喜ぶように。
シチューの湯気に鼻孔が刺激されて、次の一口をすくいたいのにスプーンが曲がっていた。
「生きていて良かったのぉ」
大橋頼人でもライト・K・フライヤでもなくて、「勇者」でもない。僕という存在のすべてを望んでくれていた。
どうして気付かなかったのだろう。
乳幼児の頃、寝過ぎることで心配はしていたけど、気味悪がったりなんかしなかった。面白い躍りの為にで「プロペラッ」なんて奇行をしても一緒になって笑ってくれて、邪険になんかしなかった。プロペラ飛行機を墜落させた時も、文句一つ言わず全てを救ってくれた。
悩む必要なんてなかった。
転生していることを打ち明けても「それが何?」「あなたはあなたよ」って声が聞こえるくらい鮮明に想像できる。
不器用な手が背中を撫でた。
それで良かったんだ。
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つづく
少しでもいいな、心動かされたと思ったら私を応援する意味を込めて評価というか点数をつけた方がいいんじゃないかしら?
感想なんて尚いいわね。




