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九百十三:泰子さんの話(810) ★野心のすすめ ― 「低め安定」の人生(3)

九百十三:泰子さんの話(810) ★野心のすすめ ― 「低め安定」の人生(3)


 例えば中でも面白いと思ったのは、「五十を過ぎて全身ユニクロでは惨めだ」といった趣旨の話を、彼女はしている。これを読んで、私はしばらく考えた。なぜユニクロではいけないのか。服が着られて、寒さを防ぎ、暑さをしのげれば、それでよいではないか。

 もし私が五十を過ぎて全身ユニクロで歩いていたとしても、別に惨めとは思わない。むしろ「便利な時代になったものだ」と感心するかもしれない。私はどうも、この辺の感覚が彼女とは違う。


 けれども、そんな違いもまた一つの発見だ。読んでいるうちに、女の世界というものが少し分かった気がする。文学書を読んで人間を知ることがあるが、ユニクロの話から女心を知ることもある。さまざまに人間の勉強をさせられる。


 彼女は、マスコミで目立つこと、引き立てられること、そして作家として成功することを人生の目標としていた。マスコミ界と文学界で上昇したのに対し、私はそんな世界とは無縁で、営業の世界で上昇した。互いに異なる世界だが、本を読んで気付くのは、一つだけ、しっかりした共通点がある。


 それは、双方とも人生に対して極めて積極的で、「上昇志向」が人より強くあったのは、確かだ。冒頭の「低め安定」を決して望まなかった点に関して、一致している。更に、「自分に与えられた人生の持ち時間は、これだけしかない」という一種切羽詰まったような考えが、身に染み付いていた事も共通している。人間の、一生のはかなさを意識していた。


つづく

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