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1912/1932

九百:泰子さんの話(797) ★お金の話(2)

九百:泰子さんの話(797) ★お金の話(2)


 私は八十を過ぎた今でも、中学校三年生のクラス会を毎年持っている。学年全体の同窓ではなく、いちクラスで、当時級友60名だったクラス会だ。幹事を引き受けて久しいが、集まるのは、毎回十名程で顔ぶれはほぼ決まって同じだ。


 昨年の事だったが、ふと級友だったS君の事を思い出した。彼とは中学のニ年と三年の時に同級で、親しくしていた。けれども卒業以来、彼は一度もクラス会に顔を出したことが無かった。

 まだ健在かと気になった。クラス会の実施予定日前に直接電話をした事がある。名簿に残っていた古い電話番号へ半ば諦めながら電話をかけると、意外にも数回の呼び出し音のあと、速やかに受話器が取られた。本人だった。


 掛けたのは確かにこっちからだったが、私は一瞬戸惑った。なぜなら、私はこんなプロセスを想定していたからだ:もうこの歳である、電話の呼び出し音が長~く続いた末に、電話口に出てきた年老いた奥さんが、先ず気の抜けたような声を出し、やがてS君が奥さんに呼ばれて、やっと電話口に本人がやって来る。だから、二分以上は掛かると想定していた。それが現実には、10秒足らずだった。


 この10秒足らずを、私は重く見た。かすかに不吉なものを感じた:奥さんがそこに存在しないーーー、或いは、逃げられたかした家庭の状況がある。今までのクラス会への不参加、中卒で就職した当時の彼の家庭の事情。これら複数のファクターが、私の頭の中を素早く駆け巡った: 昔だけでなく今も、彼は幸せでないに違いないーーー。いや、一層悪化したか、と敏感に見抜いたような気がした。


つづく

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