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八百九十九:泰子さんの話(796) ★お金の話
八百九十九:泰子さんの話(796) ★お金の話
世の中には、「お金は人生の大事ではない」と、いかにも達観したように言う人がある。ひょっとしたら、私だ。その言葉自体は、おそらく間違ってはいない。私もまた、お金だけを人生の目的とするような考えには、どこか貧しい響きを感じる。けれども、最近になって私は宗旨替えをしなくてはならないかと、考えている。
長い人生を振り返ってみると、先の言葉をもっともらしく口にする人ほど、不思議にお金に不自由している場合が少なくない。持たない人は持ってないのを慰めるために、持っている人は持つことに後ろめたさを感じないために、人は理屈を考えるみたいだ。
もちろん、お金より尊いものは、この世に数多くある。人を恋する心は金では買えないし、子を慈しむ情も、友を思う心もそうだ。僻地で損得を顧みず診療に当たる医師の姿などを見ると、人の価値とは、結局その人の魂の在りようにあるようだ。
けれども、その一方で、ほんの数千円、いや数百円がなかったために万引きを犯し、一生を台無しにしてしまう人がいるのも現実だ。その人にとって、その僅かな金は、恋よりも、名誉よりも重かったに違いない。そう考えると、お金は人生で最も大切ではないかも知れないが、人間の尊厳を支える最低限の土台ではあるように思う。
つづく




