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八百八十七:泰子さんの話(784) ★大金を盗まれた話(4)

八百八十七:泰子さんの話(784) ★大金を盗まれた話(4)


 そこで私は考えた: おそらく犯人は預金口座内の残高を知らなかったのである。一億円を出金しようとして残高不足なら警告が出るかもしれない。しかし一千万円なら普通の会社の口座にはまず入っている。犯人は成功率を優先したのであろうか。つまり一千万円という数字は偶然ではなく、慎重な計算の結果だったのかもしれない。となればーーー、ウチも舐められたものだ。


 ウチの息子の意見はやや違った:「そうじゃなくて、ウチは超巨大な会社と思い違いしたに違いない。一千万円程度なら、こっそり抜かれても、はした金で、犯人はウチが気付づくまいと思ったのかもーーー。」

事実、ウチは金を抜かれたこと事を、一週間以上も気付かなかったのである。


 それらを考えると、犯人像が少し見えてくる。

 大胆でありながら臆病である。危険を冒しながら失敗を恐れている。人というのは、悪事を働く時でさえ性格が表れるらしい。


 今の処、警察も銀行側も、誰がどうやってやったか、犯行の手口は不明である。銀行はウチの会社のパソコンでしか絶対に出金操作出来ない筈だ、と言い張るばかりだ。信用問題となるから、銀行は行内の仕組みや手の内を見せようとしないのだ。


 となれば、本当に怖いのは、盗まれた一千万円そのものではない。犯行の原因と手口が分からないことである。病気でも診断名が分って、初めて治療法と対策が考えられる。仮に銀行が内部に犯人を飼っておれば、預けている当方ではどうしようもない。

 原因不明なままなのは、不安を増殖させる。明日また同じことが起きて、銀行に預けた金がある日突然消える。そういう可能性が今後も残り続けるのだ。病で言えば、昔は無かった金融の現代病である。


つづく

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