八十話:黒髪、ブチ切れる!
「おぉ…君がぁテッシンかい!?」
こちらに駆けて来たのは…小太りのおっさんか?
見た目、中年に見える。
というかいきなり呼び捨てかよ…
微妙に…感じが悪いというか…馴れ馴れしいというか…
更に後方から二人、男も来てるな。
で、こいつが俺に話しかけて来たのを見て、土人形達は俺から離れ始めた。
初対面の人間が怖いんだろうか?
まぁそれは今は置いておこう。
「はい、そうですけど?」
「おぉ~!?噂に違わぬ黒髪だねぇ~!」
いつから噂なんて流れたんだか…
とにかくそう言って、間近で人の顔を覗き込むようにまじまじとこっちを見てくる。
その目はまるで…自分の事を珍獣を見ているかのような目だ。
この人は好みになれない、というか嫌いだな。
何というか…常識を知らなさそうだ。
で、そんな俺の予想はどうやら当たったようだ。
人の事を間近で見ていたと思ったら、急に片手で人の髪を鷲掴みにしやがった!
いきなりなんだ!?
「それでぇ~…この髪は本物かなぁ~?」
「痛っ!痛た!」
そのまま引っ張り自分の眼前に持っていこうとするので、両手で掴む。
さっきよりもコイツの顔が近くなった。
クソッ!超痛てぇし!
「何をするんだい?」
「こっちのセリフだ!手ぇ離せよ!」
「だってぇ~…こうしないとぉ本物かどうか分からないじゃないか~?」
ニヤニヤと笑いながら手を離すのを止めない。
まるでこっちの反応を伺っているような感じだ。
なんだこいつ、ふざけてんのか!?
「他にやり方くらいあんだろ!」
「えぇ~ぼく、わっかんないよ~!」
そのセリフを聞いて、俺の中の何かがプツンと切れた。
どうやら…コイツは舐めてるというかふざけてんな。
そう理解した刹那、両手でコイツの腕を抑える力を込めて立ち上がり、そのままコイツの腹に右膝を打ち込む。
「ふぐっ!」
力は緩むが、まだ離そうとしない。
ついでに後ろに下がろうとするが…腕を抑えてるから距離は離されない。
で、右足が地面についたらもう一回、膝を打ち込む。
そこでようやく手が離れたので、払いのける。
コイツはよろめきながら後退し、後ろに居た男に抱えられる。
その時にコイツが握っていた手から数本、はらりと髪が落ちた。
「ゲホッゴホッ!
一体なにをするんだ!こっちはただ調べてただけなのに!」
右足に力を込めたまま、動きを止める。
コイツの上げる間抜けな声が俺の心を逆撫でする。
何を調べるってんだ?
黒髪が本物か、か?
それもこんなやり方で?
ってかこいつ普通に話せるのか?
色々と考えが浮かんでは消え、そして無性に腹が立つ。
「てめぇがふざけた態度を取ったからだろ?」
「てめぇ?僕になんて口を聞くんだ!?僕は…」
「知るかよ」
コイツの素性なんて一切興味がない。
中年のいいおっさんが権力にしがみついてやることがこれか?
呆れるな、全く!
「とにかくだ!君のせいで僕は怪我をした!
怪我の代償としてそこの人形、よこせよ!」
「はぁ?」
頭がおかしいとは思っていたが、いきなりネジがぶっ飛んだな。
「だ!か!らぁ!それを寄越せよ!
これは怪我をさせられた僕の正当な権利だぞ!」
「…何言ってんだ?」
わざわざ人を傷つけて怒らせるような真似して、権利も何もないだろ。
ってか…これが目的か?
視線をダダンさん達の方に移すと、コクンと一つ頷く。
どうにも当たりっぽいな。
「寄越すのなら地面に頭を擦りつけるだけで勘弁してやる!
じゃなきゃこっちも容赦はしないぞ!なぁ?」
「「ウッス!」」
おっさんの掛け声に控えていた二人の男達が返事をして前に出てくる。
で、待ちくたびれたと言わんばかりにおっさんは指揮棒みたいな短杖を取り出し、男たちは腰に剣を佩いているが、威圧したいのか指をパキパキと鳴らす。
とにかく、向こうはやる気らしいってのは分かった。
しかし…3対1か。
生憎だがこっちは土人形を引き渡す気も土下座する気も、逃げる気もさらさら無い。
人の髪を引き抜きやがった事は、後悔させてやらねばならないからな。
それに今は、この抑えている事も出来そうにない怒りをどう発散するかという問題もある。
このまま二人が仲裁に入っても、俺は収まらない自信がある。
それだけ、自分の怒りは相当なものなのだ。
幸いにもマントは羽織っているので、その裏で木剣を抜き放つ。
意識を逸らす為にこれ見よがしに鋒を向けつつ、霊力も魔封じに十分な量を遠慮なく放つ。
その影で左手で瓶を掴んで、準備完了だ。
「これが答えだ」
「ククッ、そうか!お前ら!かか…」
コイツが号令をかける前に特攻する。
これはただの喧嘩だ、割と命をかけた…
何も律儀に待ってやる必要は無い。
前の男二人は驚きつつ戦闘の為に腰に佩いている剣を抜こうとする。
…こいつらは特攻してくるなんて思ってなかったんだろうか?
とにかく遅い、遅すぎる。
「…っ!」
無音の気合を込めて、男達の顔の前で瓶の中身を振りまく。
中身は言わずもがな、涼甘草の種の粉末だ。
種も品切れだし、粉末も殆ど残ってないからここで使い切っても良いだろう。
瓶は後で回収するから転がしておこう。
それで、粉末をモロに喰らった奴らは、その場で転げ回り悶絶し始めた。
「うわぁぁ!目が!目がぁ!!」
「鼻も!ペペッ…口まで!」
態々相手にしてやる気力もなさそうなので、放置だ。
つーかこいつらは俺の目標じゃない。
あくまでも、俺に喧嘩を売ったのはアイツだ。
という訳でそのまま二人を無視して、おっさんの所まで行く。
「風砲玉!土砲玉!いけ!」
おっさんが迎撃用の魔法を打ち出そうとしてきたが、霊力高めの感知の前では幾つかのそよ風と小石しか生まれない。
まだ魔封じのレベルではないんだけどな、これ。
そのままマント越しに左手で払い、接近する。
「あれ!?なんで!?」
狼狽えて次の魔法も使わないおっさんは非常に隙だらけだ。
あっという間に接近し、そのまま木剣を逆手持ちにして…
「だらぁ!」
テレホンパンチみたいな振りかぶり方で、顔面をぶん殴る。
錐揉み回転をし、地面を転がりながら吹き飛んでいくのを、剣を鞘にしまいながら追う。
そのまま持っていた木剣で天閃、突き刺してもと思ったが…別に殺したいとかって程じゃない。
ちょっと人にこんな事をした事を後悔して貰って、更に地獄を見てもらいたいだけだ。
というか一応こんなんでも殺ったら、人殺しだ。
「ふぐぅ…ぶふぅ…」
で、追いついたらこいつ、豚が上げそうな声を出しながら転がっている。
見た目子豚みたいな奴だし、しょうがないか。
ってか起き上がる気配もヒールを使う気配も無い。
ヒールを使ったらその分痛めつけるけどな。
しょうがないので蹴飛ばして仰向けにして、馬乗りの状態になる。
「さて、何か言いたい事は?」
「ふ…黒髪、風情が…この僕にこんな事…ゴフッ!」
どうやら、立場が分かってないみたいだ。
思わず一発拳を当ててしまった。
発言はさせてやるが、せめて今の状況を理解してから話せよ。
「パパに言えばお前なんか…ゲフゥ!」
「許される事じゃ…フグッ!」
「今なら謝れば…ガァ!」
態々コイツの挑発を聞くために喋らせてる訳じゃないんだけどな。
さっさと謝れば、ボコボコにするだけで許してやるのに…
なんたって命乞いどころか謝る気配さえ見せないんだか…
そして…中々ブヒィって言わないな。
絶対言うと思ったんだかな…
「い、命だけは…」
「命だけは?」
お?ここで命乞いか?
思わず手を止めて様子を伺う。
流石に死ぬまでこんな事する気は元から無いが…向こうは殺されるって思ってるんだろうか?
「命だけは勘弁してやる!」
「くたばれ豚野郎!」
「オゴォ!」
なんでよりのもよって、ここまで来てまでそうなるんだか…
思わず罵声と共にさっきより強めに手が出てしまった。
そのせいで、気絶させたのは失敗だったな。
もう少し加減すればよかった。
「テッシン!大丈夫ですか!?」
「何処か怪我は!」
それでこいつから離れると、戦闘が終わった事を察知したのか二人が来る。
「あぁうん、大丈夫…」
しかし散々ついて来たいだの心配だの言っておいて、この二人が出てこなかったのはなんでだ?
苛々した思考の中で、ふとそんな事を考える。
まぁ出てきても実力不足だとは思うけど…
恐らくだがダダンさんとジーニャさん、そこまでの実力は無いだろう。
そこで悶え転がっている男達と同等かそれ以下だ。
「すみません、助けには行きたかったんですが…」
「親方の事を出されるとどうしても、な」
「…どういう事?」
「この近辺で発言力の強い村の一つでな…」
「下手に機嫌を損ねると諍いになると思って…
親方が本調子でないですから…」
「なるほどね」
結局の所、怖くて言いなりになってたって事じゃないか…
で、舐められて俺にまで被害が来たと、そういう事か?
…悪いが今の俺はそこまで思いやれる程、冷静じゃない。
それに親方だって快方に向かってるし、何より後継の候補のダダンさんが毅然としてなきゃ駄目だろ?
結局の所、只の言い訳にしか聞こえない。
「しかし、派手にやりましたね…」
「こりゃあボコボコだな…」
「いい見せしめになるんじゃない?」
「見せしめ、ですか?」
「そう、人に喧嘩を売ったらどうなるかっていう…ね?」
それを聞いて二人は苦い顔をする。
これからはこういう奴が減ってくれればいいとは思っているだけだ。
別に黒髪云々喋るのはどうでもいいし。
感性は人それぞれだしな。
ただ、実害があるなら容赦しないと知らしめておかないと、な。
こうやって事があって、ちょっとだけそう思った。
「うぅ…」
「あぁ…顔がぁ…」
とか話していたらちょうど良く男達が復帰した。
…床がビシャビシャになってる。
こいつら…水で顔を洗い流していたな?
ジーニャさん、ダダンさんはそれを見て身構える。
ただ、おっさんの様子を見て武器をしまう辺り、戦意は既に無さそうだ。
これ以上相手にしてやる必要もないな。
素直にご退場願えないかな…
「君達、大丈夫?」
「「「「えっ…?」」」」
何故だか、そこにいる全員の声が重なる。
ん…?どういう事だ?
そんなにおかしな事をしたつもりは無いんだけど…
…まぁいいや。
「大丈夫なら、さっさとこれを引き取って去ってくれないかな?」
不快感を出しながらそう言って、近くに転がってる奴を軽く蹴る。
戦うつもりが無ければ別にこいつらには恨みも何もないからな。
ここから出て行って貰うのが良いだろう。
彼らがどうしても、というので無ければな。
「それとも…殺るかい?」
「いえ、そういう訳では…」
「じゃあよろしく」
それだけ言うと、こいつから離れる。
それがきっかけになったのか、すぐさま男二人は駆けつけて肩を持ち運んでいく。
直接見ては居ないが、感知で分かる。
「あぁ、そうそう!
それの目が覚めたら、次は容赦しないって言っておいてね」
運んでいる男二人は一瞬立ち止まり戸惑ったような感じではあったが、すぐに外へと向かっていった。
で、完全に見えなくなった後、ソファに再び腰掛ける。
なんだかんだ言って、かなり疲れてるんだ。
すぐにでも休みたいんだが…無理だろうな。
グゥ~…
少し気が抜けたせいか、腹がなった。
「あ、今何か作りますね!」
「そうだな、俺たちも食ってないし頼む…」
「あれ、そうなの?」
「みんなで食べようと思ってたんですよ!」
てっきり二人はもう食ってると思ったんだけどな。
ジーニャさんがそう言って厨房に向かっていく辺り、本当なんだろう。
「あぁ、それもだが…アイツに散々手間取らされてな。
実力不足ですまないと思うが、とにかく助かった」
「うん…」
やはりそれもあるよな。
むしろあれだけやって、こっちで何もしなかったって言うのも考えづらい。
で、上手い事躱してたんだろう。
それで最終的に俺に突っかかって来るしかなかったってか?
「あの村、中央と少し繋がりがあるからって偉そうでな。
村長も息子もああだし周囲の村からは評判が悪いんだ。」
「それでよく、村が無くならないもんだね」
「無駄に力と悪知恵だけはあるんだ、さっきみたいにな」
「なるほど」
言うてそこまで実力は無かったけどな。
まともに殴り合いでも何とかなった気はする。
なんやかんや言ってステータスだけ見れば常人の三倍から四倍くらいだ。
…って力って権力の事か?
色々と話をしながらそんな事を考えていたら、土人形達がわらわらと足元にやってきていた。
あいつらも去ったし、安全なのを理解したんだろう。
というかこれを操っている奴…割と頭は良い。
今までも話している事を理解できるみたいだし、数が増え始めてからは状況に合わせて行動も出来る。
人と同じくらいの知能はある…というかこれ、人が操っているんじゃないか?
こう…山を超えて逃げて来たみたいな?
犯罪者として扱われていて、周囲の安全を確認したいとか?
まぁ…とにかくどんな奴だったとしても事情は聞いてやるしかないだろうな。
俺の方針としては出来れば友好関係を築きたい。
人殺しをしたいわけじゃないし、させたい訳でもない。
何か納得する理由がない限り、それは変わらないだろう。
それで…集まってきて遊び始めたのは良いのだが、彼らが持ってきたものがある。
さっき戦闘で転がした空き瓶だ。
一度座った関係で、取りに行くのは怠いと思っていたが気が利く。
…瓶に人形が詰まってなきゃな。
「なんで入ってるんだ?」
人形のサイズと瓶の大きさ的にかなりキツイはずだが…体育座りみたいな体勢でギリギリ詰めこまれている。
それに蓋までして、神輿を担ぐみたいにこっちに持ってきていた。
受け取って蓋を開けようとすると、中に入っている人形は外に出るのを嫌がる様な仕草をする。
「えっと…このままでいいの?」
土人形達に聞くと、コクリと首を縦に振られる。
で、このまま持ち運べと…?
まぁ空いた瓶に入れるものも今の所無いし、いいか。
しかし…空き瓶で持ち運ぶか…
なんとなく、高く掲げてみる。
これで俺が倒れた時に瓶から出てきて…とか、あるだろうか?
テレレレ~(ゼ○ダ風)




