五十話:ギルドに行ったら・後編
だけど隠れていた爺さんは自分の姿が見えていることに気がついていない。
視線をこっちに向けたまま動いており、また彼女にぶつかるあたりまで近づいたらまた離れ始める。
ここにいる全員が爺さんの足音が出ない奇妙な動き方を見ている光景はなんだかシュールだと思う。
がに股で、そろ~り…そろ~り…とつま先で移動していて、腕は人を挑発するような…ふざけた感じでくねくねと動かしている。
…あの歩き方は自身の魔法が解けない事への自信だろうか?
ただ、見えているからにはただの可哀想なジジイだけど…
((えっと…?))
誰もが言葉を発せずに、見てはいけない物をみたショックと言葉に出来ない疑問符と…ジジイの動きだけがこの場を支配する。
そして再び元の位置に戻ったジジイは誰も動きを見せないのを良い事に第三セットへ…
「もうやめて!おじいちゃん!」
向かう前にジーニャが止めに入る。
彼女、よく見なくても顔が真っ赤だ。
おじいちゃんって…身内か?
だとしたら止めに入るのも当然か。
身内があんな事してたら止めるよな。
「どうしたジーニャ!?」
「おじいちゃん見えてる!見えてるからぁ!」
「なんじゃと!?」
驚愕の表情を浮かべているジジイは自身の手を見る。
そこでようやく姿が見えることに気づいたのか、やっちまった…みたいな表情に変わる
そしてどこか泣きそうな顔の女性がジジイにしがみつき、ジジイの胸に顔を埋めている光景はどうしようもない悲壮感が溢れていた。
「いつから!いつからじゃ!」
「途中からよ!」
「変な動きをし始めた頃にはバッチリ見えてたぜ…」
男のうちの一人が補足を入れる。
そこから我に帰ったのか男達の方から次々と非難の声が飛ばされる。
「爺さん!なに重要な時にふざけてんだよ!」
「あんたなら取り押さえられただろ!」
「そんな魔法使えたのかよ!」
「禿げ上がってんじゃねぇぞ!」
「真面目にやれよ!」
とかなんとか、もうここにはさっきまでの緊張感も何も無くひたすらにジジイを非難する場が完成していた。
というか一人、さらっと関係ない事言ったな。
ハゲはなりたくてなるものじゃないだろ。
まぁ当の本人もただ言われるだけじゃなくて言い返してるけど。
「えぇいうるさいわい!お前らももう少しは活躍せんかい!
大体何じゃ、儂にばかり気を取られおってからに…
肉壁になるくらいせんかい!」
「「ちょ!ひでぇ!」」
「とにかく…お前らも何か出来たじゃろう!」
具体的に言っている事は酷いが実際にこいつら殆ど何もしてないんだよな。
自分も隙を見せてた訳じゃないけど、折角大勢で来たんだから人海戦術で取り押さえるとかあっただろうに…
怪しいってだけで取り押さえられるのも癪だけど…
「まずはこの旅人と話をつけようと思ったんだ!」
「じゃったらこんな大勢で来る事ないじゃろ!」
爺さんの、言う事に一理あるな。
そもそも大勢で武装して来て丁寧に入口まで塞いで話をしようってのも…どうなんだ?
心配なら扉の向こうにでも待機させておけばいいだろうに。
見方によっては完全に脅しに来てるよな、これ。
「この前来た旅人のせいで親方は怪我したじゃないか!だから…」
「それこそお主がそやつらに絡んでおったせいじゃろ?」
なんだかこっちの方にも訳がありそうだな。
聞いた限り、なんだか自業自得っぽいけど。
「あの…そろそろその辺で…」
「そうじゃな、忘れるとこじゃったわ。」
ジーニャがちょっと申し訳なさそうに間に入り、爺さんがこっちを見る。
で、一応警戒は怠らず、俺が剣を向けているのを見て…
「さっきはスマンかったの、まさか見つかるとは思わなんだ。
今は特に何もする気はせんから警戒を解いては貰えぬか?」
両手を上げつつそう言う。
一応言っている通り、魔力を使って何かする様子もないので素直に武器をしまう。
魔法を打ち消した事に特には思うことが無いみたいだが…たくましいな。
俺ならあんな失態見られたら…悪いが根に持つぞ?
それくらいあの爺さん、ふざけてたしな。
「そうだった!あんた本当に冒険者なんだな!?」
「あぁ、そう説明したじゃないか。」
「ふむ、ワシにも見せてくれんかの?」
ちょっと興奮気味の男をよそに、そう言って爺さんが一歩歩いて前に出る。
確かに、爺さんはあの時いなかったから見せてないな。
というか爺さんが隠れて来たから仕舞ったんだが…
あと、これ以上話が進まないと困るから言っておかなきゃならない事がある。
「見せる必要があるのか?
ここで冒険者だって証明して、一々こうなると困るんだけど?」
そもそもこの場に権力者がいるのか?と言う話だ。
ここで説明して…あそこでも絡まれたから説明して…なんて事をやっていたら面倒だ。
あの男にもこの爺さんにもそこまでの権力があるのか?
爺さんはともかくとして、男の方はどうなんだろうな。
「安心してえぇよ、儂ここのギルドマスターじゃし。
こいつも侘びとして住んでる者への周知くらい徹底してくれるじゃろ。
一応ここの町の親方の二番弟子じゃからな。」
「あぁ、その事は保証しよう。」
「…色々と聞きたい事が増えたよ。」
主に爺さんに、だな。
ここに暫くいるつもりだしこのギルドの惨状については説明して貰わなきゃな。
あと…男の二番弟子という肩書きにちょっとだけ不安は覚えるが、そこはしょうがない。
親分とかいう人に会うのに融通くらいしてくれる立ち位置だと信じよう。
「はい、これ。」
そういってさっき見せたカードをもう一度見せる。
「ふむ、ちょっと貸してもらってもいいかの?…壊したりせんから。」
「別にいいけど…」
そう言ってギルドカードを爺さんに渡すように差し出す。
なんだろう?なにか確認をするんだろうか?
一応ギルマスだって言ってるし、なにかあるのかもしれない。
「どれどれ…」
そう言って手を伸ばして…
「隙あり!」
「うわっ!」
確認する振りをして…顔に向かって一撃入れようとしてきやがった!
咄嗟の判断でしゃがんで避けたが…
「お!…おぉ…?」
「あ…」
「「え…」」
それは間違いなく悪手だった。
顔の代わりにふわっと頭のモノが浮いた感覚と後方に飛んでいき共に視界が広くなると共に、ここにいた全員から驚きの声が漏れる。
…フードが脱げたのだ。
「ちっ…!」
こうなってしまった状況に軽く舌打ちしつつ、脱げたフードをかぶり直す。
ついでにジジイの頭を掴んで思いっきり力を込める、アイアンクローだ。
…もう少し警戒しておけば良かった。と後悔する。
さっきの仕返しをしたつもりか?
あのジジイ、やってくれるじゃないか!
「何しやがる…!」
「イタタ!待った待った!別に悪意があってやった訳じゃない!
別に偏見なんぞ持っておらんから!ほら!ほら!」
「流石に黒い髪は見たことなかったから驚いたが、ここの連中は似たようなもんだしな。」
「なんだか夜空みたいで綺麗ですねぇ~」
「ほら!皆もそう言っておる!じゃから離してくれぇ!」
ジジイが必死に弁明している以外、周りの反応は別に否定的なものではない。
否定的ではないが、それとこれとは話が別だ。
更にギリギリ…とジジイの頭に力を込め続ける。
そこからまた声を上げつつ、まだジジイの弁明は続く。
「イタタ、それにほら!ここに来る奴らって大体髪の色とかコンプレックスなんじゃよ!
皆そうやって隠してくるんじゃよ!イタイイタイ!
それで気にしなくてもいいんじゃよってこうやって励ましていてな!
こうするのはもう…掟みたいなもん…なんじゃよ!…ウゥ!
じゃから…悪かった!許してくれぇ!!
もうしない!しないからぁ!!」
とまぁ…こんな感じに悪気はあったが反省もしたようだし、離してやる。
で、爺さんは呻きながら地面に崩れ、顔を覆うようにペタペタと手で触っている。
眦から一筋の雫が流れているのが何とも言えない感じだ。
ついでに小声で「ひーる…ひーるぅ…」と呻いている。
…それで痛みが引くといいな。
「…本当に気にする人はいませんし、隠す必要は無いと思いますよ。」
そうジーニャが言うので、周りの奴らの反応を伺ってみるが…
「むしろ、気にする奴はここじゃ生き残れないな。」
「親方に半殺しにされて追放だな。」
その言葉に周りが頷く。
…どうやら本当の事らしいな。
わざわざここから追い出されようとする奴もいない、か?
自分としては別に一々問題事になるのが面倒なだけだったからな。
そうじゃないなら、この邪魔なフードを被っている理由もない。
「…そうか、分かった。」
そう言ってフードに手をかけ、フードを脱ぐ。
それから…再び周りを見渡して反応を見てみる。
「しかし、夜空とはピッタリの表現だな。」
「俺的には星空でも良かったと思うな~」
「やっぱり綺麗ですね~」
そう言ってくれる彼らの目からは、嫌悪とか哀れみとか蔑みとか…そういった感情はない。
最初は驚いてこそいたものの。今はもう普通に反応してくれている。
「あぁ、自分自身そう思う。」
こう、黒髪だからって下らない理由で何か言われないのは元の世界に居た以来だ。
シュルツ村でも…いやあそこではなんやかんや言って可哀想な奴程度には思う人が居たしな。
だからこう…純粋に嬉しさとか、そういうものが出てきてしまう。
「あら?笑った顔も可愛いじゃない。」
あれ?いつの間にか笑ってたのか?
そう思って顔を触ってみると、微笑む程度に口がつり上がってた。
「会ってからずっと警戒してた顔してたよ?」
そんな警戒してた気は…するな。
でも顔に出るほどだったか…
「あぁ、似合ってる似合ってる!」
「ヒュ~!可愛い子だねぇ!」
なんて思っていると、男連中がはやし立ててくる。
…変に誤解を生まない内に釘を刺しておくか。
「言っておくけど、俺は男だぞ?」
その言葉を聞いた連中と周りの空気が凍り付いたように止まる。
なんでこうなるかなぁ…
それで、ひと呼吸の間を置いて…
「「えぇ~!!」」
そこにいる全員で建物に響く驚きのハーモニーを奏でた。
「ひーる…何故効かんのじゃあ…」
ただ一人、魔封じの影響でヒールが使えずにずっと地面に転がっていた爺さんを除いて。
老人はしっかり労わりましょう。




