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魔法がある異世界を魔力無しで生きるには  作者: リケル
第一章 冒険者になる勇者
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三十四話:絡まれる

そんなこんなで冒険者登録したその日の夜、ギルドで紹介してもらった宿に宿泊することになった。

ギルドで紹介されたこの宿、旅鳥の止まり木亭はなんと一泊150チップとかなりお安い値段で、一般的な宿の一通りの設備が利用できるという優良な宿だ。

なんでも冒険者ギルドが出資・経営している宿らしく、お金が無かったり、単純に駆け出しの冒険者にも路頭で寝ることなく安全で格安な寝床を利用してもらいたいとの配慮かららしい。

とはいっても最低限の設備で、寝室以外は殆ど共用のため、俺的には宿というよりは合宿所みたいな印象だけど。

ちなみにギルドの職員に売り払った野草類は量が量だったのでおおよそ2000チップと中々の額で取引され、余裕で宿代を稼げている。

とりあえず三日ほど、部屋を借りようとお金を払っておさえてもらったのだが、祭りなどで他の宿に泊まれない冒険者などがいない時以外は満室になることもなく、しかも今現在ノーブルの首都からの要請で大半がそっちに行っており利用者は殆どいないという有様らしい。

多分シュルツ村からの救援要請のせいだろうな、もう終わったけど。

そんな事を考えながら案内された部屋は二段ベットと机が一台があるだけの二人部屋だった。

どうやらどの部屋も大きさは同じらしく、しかも二段ベットがデフォルトらしい。

まぁ二人部屋ならビジネスホテルのシングルの二倍はある部屋なので窮屈はしないけど…四人部屋からは机が無くなり、最大の六人部屋は床に荷物を置くと足場が無くなるそうな。

とりあえず部屋に必要のない持ち物を預けてから宿の食堂へと向かう。

ちなみにマントのフードは被りっぱなしだ、髪の色を無闇に晒して面倒事になるのは御免だしな。

そしてついた食堂には、普段は泊まってない人でも格安で利用できるということで結構混むらしいのだけど、今日はガラガラでどこか寂しげな雰囲気さえある感じだった。

席は軒並み空いており、テーブル席を一つのパーティが使っている以外は誰も客はいない。

仲間内で盛り上がっているのを邪魔する気はないのでなるべく目立たないようにカウンター席について、掲げられているメニューを眺める。

…色々メニューがあるけど実物はないのでどれがどういうものか全く分からない。

言葉が分かって料理の名前を知ってるといってもその料理自体は見たことがないからな。

これが文字言語理解の弱点なんだよな、多分真理理解を使えば分かるんだけどさ。

ただ、飯を食うのにいちいち使うのも面倒だし今日は使わない事にした。

後日、別のものが食いたくなったら使う事を検討しよう。

結局、数あるメニューの中から日替わりランチ…いや、夜だからディナーか?を頼む。

程なくして店員さんが日替わりディナーを運んできてくれた。

皿を出すついでに喋る料理名に適当に相槌を打つ中、この料理はこういう名前なのか…なんて思考を巡らせる。

…うん、日替わりで良かった、下手に何か注文してたらきっと失敗してたな。


「さて、いただきます!」


頼んでいたものが全て出揃ったので、いざ食べようとした時だ。

食事前の待ち時間が暇だったので訓練も兼ねて使っていた感知に魔力の反応があった。

反応場所はテーブル席、先客のパーティがいる位置からだ。

魔法の軌道的にはギリギリで俺には当たらないが、手元の食器に当たりそう…というか完全にそっちを狙っているようだ。

魔力から察するに威力は皿を吹き飛ばす程度だろうけど、わざわざそんな事をさせるつもりはないのでこっちに飛んでくる魔法に魔封じを使い、少しずつ威力を減衰させて当たる寸前で消滅させた。

結果的に料理はひっくり返る事なく、そのまま何事も無かったかのように晩飯にありつく。

こんな事が出来る様になったのも多分レベルが上がり、ステータスが上昇した影響で霊力がより繊細に扱える様になったからだ。

具体的には、多分レベル1でもこの魔法は消せただろうけど、一気に消滅させてしまうしか方法は無かっただろう。

それでも結果としては何も変わらないし、これが出来るといって何になるかっていう話だけど。

まぁSPの節約にはなるだろう。

この世界では手足の様に日常的に使われる魔法の代わりの、唯一俺だけが扱える能力(ちから)なんだし、バリエーションは増やしてかなきゃな。

どっかの霊界探偵みたいに指から放ったりする必殺技にならないだろうか?

あとは霊剣とかいって霊力で武器の形を作って戦うとかいうのも有りだよな。

後は武器とかに魔力での武器強化(エンチャント)みたいに霊力で強化出来ればいいんだけどな。

やはり武器による攻撃に期待が出来ない以上、関節技やら投げとかの体術のある程度出来る様になったほうがいいのか?

でも学校で教わる程度のものじゃ大した事ないしなぁ…

どこかに魔力が要らなくて使える武器でも落ちてないだろうか…


「…ごちそうさまでした!」


なんて色々と考え事をしていたり魔法の対処に追われてる内に暖かい食事もすっかり胃袋に収まってしまった。

ちなみに言うと、普通に美味しかった。

というか味気ない食事ばかりしていたせいか、調理したてで味と香りが強い食事はまさに舌が求めているものだったというのが正しいだろうか?


「おい!そこのお前!」


流石に食後に仕掛けてくることはないだろうと、ゆったりした時間を過ごそうと寛いでいたら、声をかけてドカドカと靴を鳴らしてこちらに近づいてくる音が聞こえるので最低限の動きでそっちを見やる。

方向は言わずもがな、あのパーティーの方だ。

どれも着弾する寸前に消滅させてやったけど諦めずに隙を突いてくるようにこっちに魔法を飛ばしてきていた暇な奴は…先頭にいる奴だろうな。

食事中に飛んできた魔法は合計で10発以上、悪戯ならもう少し限度というものを考えて欲しいもんだ。


「先輩冒険者に向かって挨拶も無しとは生意気だぞ!」


どうやらさっきまでの悪戯は新人いびりだったらしい。

というか変な因縁を付けられたな、全く…

先頭の奴はこちらを威嚇するように指をさして声を張り上げるけれど、アンナやザンギさんに比べてみれば対して迫力がない。

具体的にいうと動物園でライオンに間近で吠えられるのと散歩中の子犬が遠くから吠えているくらいの違いだ。

魔圧も使わない辺り、先輩冒険者と言ってもザンギさんくらいの強さではないだろう。

ってかなんでこいつは俺が冒険者だって知ってるんだ?一応ここは冒険者以外だって来る所だろうに…

そう不思議に思っていたのだが、こいつの格好を間近で見て…何となく思い出す。


「もしかして今日、ギルドに居たパーティー?」


「あぁ!?見りゃあ分かんだろ!」


よく見るとこっちに噛み付いてくるかの様に凄んでくる垂れ耳の犬系獣人の男にやや後方でおどおどしている兎耳の女の子、更に後方で事の成り行きを見守ろうとしている茶髪の猿顔の男、後は座りながら笑いを堪えている赤髪の女の四人組…今日ギルドで見たパーティーと人数は一致してる。

どうでもいいけど誰かコイツを止めろよ、迷惑だろ、これ。

そんな視線を送るが兎獣人の女の子が情けない声で「ケントくぅん…喧嘩はやめてよぉ~…」と呟いているだけで後ろの奴らは止める気配は無い。


「おい!よそ見とは余裕じゃねぇか!なぁ!」


相手にされてない事が不満だったのか、殴りかかる勢いで凄んで…って殴りかかってきやがった!


「うおぉ!危な!」


立ち上がる余裕も無かったので座ったままで受け止める。

ペチッ!となんだか可愛らしい音がして右の拳が左の手のひらに収まった。

相手は肉体強化(ブースト)も使ってない訳だし、単純な筋力は自分が完全に勝っているみたいだ。

むしろ圧勝しているせいかちょっと力を込めると痛がる上に、相手が押しても引いてもビクともしないなんていう状況になっている。


「てめぇ!痛っ!こら!離せ!」


「やだよ。」


若干涙目になりながら、必死に拳を引き剥がそうとしているが、剥がれないし何より剥がさせない。

ゆっくりと立ち上がり、左手で掴んだ相手の右腕の下に自身の右肘を胸ぐらを掴みながら通す。

相手は何をされるのか戸惑っていたけどそのまま体を回し、左手を思いっきり引いて体制を崩しながら背負い投げを繰り出す。


「う、わああぁぁぁ!ぶ!?」


受身も取れず、勢いも殺さなかった叩きつけの一撃が盛大に決まった。

動きとしてはかなり筋力で何とかした感じだったけど、まぁ悪くはなかったんじゃないだろうか?

若干床が軋んだけど特に店の方に損害を出さずに済んで良かった、と背面から盛大にいった犬獣人は何が起きたか分からずに荒い呼吸をして咳き込んでいるのを視界に入れつつ確認してから残った三人の方に振り返る。

見れば二人程何が起きたのかと唖然とした様子で、後方で座っていた女は腹を抱えて大爆笑している。

…一番後ろの奴がけしかけたとかじゃないよな?


「さて、こいつを何とかして欲しいんだけど?」


ちょっと苛立ちが混じった声でそう言うと兎の女の子は「ごめんなさいぃぃ!」と90度を通り越して前屈でもしてるんじゃないかと思うほど頭を下げて、後ろの猿顔男は苦笑いしながら「済まなかった」と謝りつつ「一度火がつくと止まらない性格でね。」と付け加えた。


「アハハ!まぁ怪我がなかったんだからいいじゃない!」


んで、ずっと爆笑したままだった後ろの赤髪女が盛大に笑いながら立ち上がり、倒れ込んでいる犬獣人まで歩み寄って…


「ケントはいい加減誰彼構わず喧嘩売るの…プッ、やめなさいよ!あんたの言う…プフッ…ちんちくりんなガキにまでブフッ…負けてるのよ!アハハ!」


小馬鹿にしながら笑い始めた。

こいつらの仲がいいのか悪いのかイマイチ良く分からないな。

あとコイツが黒幕じゃないのは分かったけど、さりげなくちんちくりんとか言いやがったな。

…いや、言ってたのは犬獣人の方か。


「レナ!てめぇ!」


「さて、レイモン!ヴァニラ!こいつを部屋まで運んでおいて。」


「あぁ、分かった。」

「り、了解です!」


いつの間にかレナと呼ばれた赤髪の女が犬獣人を縄のようなもので縛っており、それを猿顔が引きずっていった。

その様子をケラケラとひとしきり赤髪が笑った後、思い出したかのようにこちらを見て…


「あぁ、ごめんなさい。面白くてつい、ね。」


「いや、それはいいんだけどさ。」


「まぁそんな事言わずに、お詫びにここの支払いは私たちが持つわ。」


そう言って店員に彼女は自分たちの勘定に上乗せして俺の分まで出した。

あぁ…そういう気配りはしっかりしてるのな。

できるなら絡まれる前に何とかしてくれたら良かったのに。


「しかし、あれで先輩、ねぇ…」


ちょっと小馬鹿にしたような口調でそう呟く。

威張るだけで相応の強さも無いような奴が先輩か…

肉体強化(ブースト)無しのアンナの拳でもあれより多少は強いと思う、1.4倍くらい。

そして状況が同じだったら受け止めきれずに一撃貰ってただろうな。

ってかなんでアンナ基準で考えてるんだ、俺は。

確かにアンナが基準になりそうな人で真っ先に出てくる程度にはボコボコにされてるけど。

…思い出しついでに元気にしてるか気になってきた。

まだ三日しか経ってないけど、事情の説明とか原因の調査とかしてる頃だろうか?

一応自分は最初から居ない事にしておくようにアンナとザンギさんには頼んでおいたけど…

なんて本筋と脱線した事を考えていたら、どう受け取ったのかレナと呼ばれてた女が説明してくれた。


「彼、二月くらい前に来たんだけど柄の悪い冒険者にこうやって洗礼を受けて、あの性格だから喧嘩を売ってボコボコにされてね。」


それでああなったと。

後半は自業自得な気がするけど、やはりそんなのもいるのか。

俺も気をつけなきゃな、既に絡まれた後だから特にそう思う。


「まぁこれでアイツも懲りたと思うしこっちでも言い聞かせるからさ、後腐れなくお互いにEランク同士、仲良くやっていこうじゃない。」


そう言って彼女も三人を追うように去っていった。

そして残された俺は…


「あいつらもEランクなのかよ!」


なんて突っ込みを盛大に食堂に響かせたのだった。


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