三十五話:依頼受注(クエストオーダー)
ちょこっと書き方変えました。
これで少し見やすくなっただろうか…?
その後、翌日まで彼らの内の誰とも遭遇する事はなかった。
風呂とかでばったり出くわすかもと考えて一応警戒してはいたものの、全て杞憂に終わったのは幸いだった。
いきなり風呂場で出会うことになっても頭を隠せるものなんてタオルくらいだしな。
さっき実力は見せつけたので万が一見られたとしても交渉|(物理)をすれば…町に滞在している間は黙っててくれるだろう。
部屋に戻ってから荷物の整理をして、食料品等で補充するもの等を確認した後、久方ぶりのベッドに潜り込んで、毛布に包まりながら目的と今後の方針を確認する。
一応だがここの滞在期間は数日、出来れば一週間以内を予定している。
この町に来た一番の目標である身分証明書、冒険者のギルドカードを作ることができたからな。
出来れば信用を得られる様にする為、短時間でもしDランクになれるのなら是非なっておきたい所だけど、一週間でなれそうもないならそれはそれで構わない。
最低でもこの後は適当に乗合馬車にでも乗って国境の町にでも行き、そこからこの国から脱出して、北の隣国を目指せればいい。
目指す北の隣国である通称、メタリオルは地形としてはスチル山脈という山脈を一つ挟んで向こう側の国だ。
尚、シュルツ村の近くの山脈はスチル山脈ではなくホーン山脈で、この二つの山脈は一応途切れておりそれぞれ生態系、産出物については正反対と言っていい程の違いがある。
今更で関係のない話だがノーブル王国は国境の西から北にかけては山に囲まれた地形となっていて、東と南からの侵攻に備えつつ西方の攻略を目論んでいるらしい、…もちろん北には目向きもしない。
名前から分かる通りの国だからな、この国の意識では侵略価値すら薄いのだろう…
と…まぁ、そこまで考えた辺りで意識が闇に沈みきりその日は終りを迎えた。、
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んで翌日、日もだいぶ登ってきた頃合の明るさで目を覚ました。
久しぶりに安全かつ快適な眠りにつけたおかげで気分が良い、ただその代わりかなりの時間眠っていたようだけど。
諸々の支度を済ませて宿から出てすぐ近くにあるギルドへと顔を出す。
昨日と変わらず…いや、昨日のあのパーティーさえ居ないギルドにはもはや冒険者など居らず、職員がどうせ誰も来ないと高を括っているのかのんびりと読書、シエスタ、雑談等といった事で時間を潰していた。
まぁそんな中に音を立てて入ってきた俺は当然注目されるわけで…
「お!昨日のじゃないか!」
紙が貼り付けられたボード…依頼板を真ん前で見ていたエリカ支部長がそう言うとほぼ全員、こっちに何かを期待する眼差しを向けてくる。
「あ、おはようございます。」
「昨日も思ったけど随分と礼儀正しい奴じゃないか!」
「そういう性格なもんで…」
とりあえず適当に挨拶をしながら支部長の横に並び、依頼板から何かこなせそうな依頼を探す。
冒険者になってからクエストも受けずに町を出るのもあれだし、低ランクでも報酬は宿代くらいにには期待出来るのは昨日の野草の大量売却から分かる。
でも確か昨日のあれは依頼になってたっけ?…まぁ登録した次の日から来ないっていうのも印象が悪いし、いいか?
あと、依頼を探すのはいいけど…隣に並ばれてる支部長から身長差を見せつけられているようでちょっと気分がよろしくない。
距離が近いので見上げる形になるのもフードとコン……印象的に良くないなぁ、と思っていたらこちらが見ている事に気がついた支部長は笑いながら聞いてくる。
「で?どれを受けるつもりだい?」
「じゃあこれらを受けようかな。」
と言って迷いなくとある依頼を依頼群から指差す。
それら全部、昨日は一枚も貼られていなかった依頼…持て余した野草類を買い取る為にギルド職員達が急遽作っていた採取依頼だ。
今貼られている採取依頼の全部が職員の手によって作られている物で納期はどれも今日になっている、つまり日帰りで採ってくる事が前提となっている採取依頼だが、買取額も昨日と違って若干上下しており、選んだのは少なくともEランクかつ適正価格以上で日帰りで十分に取りに行ける一般的な採取物のみだ。
指さした依頼を一通り確認したエリカ支部長は大げさに、驚いたといった風な口調を作る。
「あらまぁ!綺麗に採取ばかり選んじゃって!魔物退治の依頼なんかもいいんじゃないかい?
…ほら!こんな依頼とか!中々夢があって達成出来たら恰好いいんじゃないかい?」
と白々しく言って指差したのはCランクの討伐依頼、討伐対象はミストリザードという魔物で報酬は一頭3500チップ、依頼者の欄には知らない名前が書かれている。
それを見た俺はしばらく考え込んだ後…
「日帰りじゃ無理なんで遠慮します。」
そう答えると支部長はニヤーっと笑みを浮かべる。
受けなかった理由はいくつかあるが、まずEランクでも討伐依頼を受ける気がそもそも無い上に、それより2つも高いCランクの依頼だ、明らかに試そうとしている魂胆が見え透いている。
おまけに記憶に無い、魔物図鑑に載ってなかった魔物だったので真理理解を使ってみた所、こいつの生息地が年がら年中雨が降るような沼地やら雨林などといった所に住む魔物だという事も分かった。
ここら辺にそんな環境は無い…つまりここらへんに生息していない魔物では無い、という事だ。
これを受けるという事はつまり知識が無い事を意味し、目の前のエリカ支部長に大笑いされ、ついでにギルド職員からは知識の無い無謀な新人扱いされる事だろう。
あと、きっとギルドはこういう手口なんかを使って多少新入りの実力を測り、下手な犠牲者を出さないように受けられる依頼を絞ってるんだろう。
「ちなみに、もし討伐依頼を受けるなら…?」
「…これかな。」
「ほう?」
そう言って迷わず指差すEランク依頼、報酬は最低10チップから、標的とは以前出会った事もあり、その時の俺のどの攻撃をとっても傷一つ負わせられなかった、天敵とも言えた存在。
…奴らの事を人はスライムと呼ぶ。
奴らは主に湿地や川べりなどの水辺に好んで生息し、一応清らかな水を好むものの水の清濁を問わずに生きられる適応力を持ち、半透明な身体の中にある核が大きさがそのまま強さの目安にもなる。
総じて打撃に大きな耐性を持つプルプルのボディで、核を砕くか周りの粘体を完全に剥離してやるとその生命活動を停止、死亡する変わった生き物だ。
前に出くわした時は歯が立たなかった|(実際に噛まなかったしな)敵だがもし出くわしても今は相手を切り裂ける武器があるからきっと何とかなるだろう。
あと、この町は川が目と鼻の先にある地形だ、水辺が生息地のスライムなど探せば必ず一匹は見つかることだろう。
んでエリカ支部長はスライムの討伐依頼を指さした俺を見て感心したような、ちょっと残念そうな顔をする。
「こう、新入りが身の丈に合わない、でかい依頼ばかりこなしたがるのを見てからかうのはこの仕事の楽しみの一つだったんだけどねぇ…」
「時代は変わるものだよ。」
「礼儀正しくて安全志向な冒険者ってのも考えものだねぇ…」
「ははは…」
愛想笑いで流しながらさっき選んだ、依頼板に貼ってある採取依頼を剥がしていく。
「スライムの討伐依頼は剥がさないでいいよ、そのタイプのは常時依頼だからね。」
「は~い。」
よく見ると大体の討伐系の依頼はスライムの依頼と同じタイプの縁取りがついている物であったのでそれらも常時依頼なんだろう。
なお、スライムの討伐依頼を受ける気は無かったりする。
で剥がした紙とギルドカードをを今日も受付にいた、チェルシーさんの所へ持っていく。
相変わらず他の職員達の期待した目が気になるけど、あえて見なかった事にする。
「これ、お願いします。」
「はい、依頼の受注ですね。」
関係ないけど昨日も支部長を堂々と注意したり、野草欲しさに依頼書を書きに行ったりせずに一人残ったり、今もこうして律儀な対応をしてくれるこの人はきっと仕事に真面目な人に違いない。
…依頼書の内、昨日持ってきていた野草の依頼書で彼女の名前を見つけたのできっと昨日も欲しかったのだろう、報酬額も普通だったので今日受けるの依頼の中に混ぜておいた。
渡した依頼書に目を通しつつカードを受け取り、何かを別の書類にスラスラと手が止まることなく書き込んでいく姿はちょっと嬉しそうにも見える。
ちなみに今日受ける採取依頼は全部で7種、報酬の合計金額は大体1000チップに及ぶ。
話は逸れるが万が一依頼を失敗した時について、Eランク全般とDランクの一部、後は依頼者が許可した場合を除いて受注して指定期間以内に達成出来なかった場合や依頼内容の失敗時は報酬額の何割かを逆にこちらが支払う事になっている。
つまり受けますと言ったからにはしっかりこなさなければいけない、出来ないのなら相応のペナルティがある、というルールがあるのだ。
自分の出来ることを出来る範囲で受けるのが冒険者のあるべき姿だという事なのだろう。
まぁ今回は全てEランクなので問題ないけど。
「受注完了しました、では気を付けて。」
「ありがとうございます。」
そう言って返却されたカードを見ると、昨日とは違いランクの下に受けている依頼の内容が簡潔に記されている。
自分で何を受けているのか忘れるなんて間抜けな事をするつもりはないが、一応そうならないようにするための措置なんだろう。
「んじゃあ、Eランク初めての仕事、頑張ってきな!」
「はい!行ってきます!」
そう言って手を振りながら意気揚々とギルドから出て草原に繰り出していった。




