二十五話:初めてのボス戦・前編
「すげぇ…」
アンナの広域殲滅魔法を見て思った率直な感想である。
その落雷を人に例えるならきっと…優雅で雄々しくステップを刻むかのような動きに魅了され、まるで子どもが蟻の大群を踏み潰すかのような残虐性に畏怖するだろう。
範囲はほぼ魔物の群れ全体に及び先頭に見える魔物達は直接落雷に撃たれる、あるいは落雷の高圧電流に感電して動く気配がない。
恐らく半数以上がその命を散らし、生き残った奴らも結構な数が感電し弱っているはずなのだが…
『グオォオオオォォ!!』
それでも奴らは唸り声、叫び声を上げながらその手にある武器を掲げて突撃してくるのをやめない。
一体何がそこまで彼らを駆り立てるのだろうか?
そんな疑問が浮かんできたがそれは頭の片隅にさえ置くことを許す余裕さえ無さそうだ。
『おぉぉおおお!』
こっちも負けない程、声を張り上げて魔物の群れに突撃していく。
先制攻撃で半数を殲滅したおかげかこちらの士気もすっかり高い。
ただ…アンナはかなりの規模の魔法を使ったせいか杖で体を支えて肩で息をしている。
「アンナ!大丈夫!?」
「だい…じょう…ぶ!私達も…行くわよ!」
「オッケー!」
「アンナ嬢!肩を貸すぜ!」
そう言ってザンギさんはアンナを椅子に座らせるように肩に乗せる。
右手にグレートソードを持った2メートルはある大きな鎧の左肩に乗っかる長身の女性が映る光景はどことなく奇妙だ。
…肩を貸すってそうやるんだっけ?絶対違う気がする。
「雑魚は他の自警団が抑えられるはずだ!俺らは敵の親玉を叩くぞ!」
「「「了解!」」」
俺とアンナ、他にもアンナと一緒に草原を探索していた自警団のメンバーが頷き、他の自警団員よりやや遅れて魔物の群れに突撃していく。
前方ではゴノレさんの指揮の下、戦いが繰り広げられている。
「ゴガァァ!」
「総員!敵の親玉への道を切り開け!」
「「オオオォォ!」」
前線の敵も味方も数はそこまで変わらない、こっちの数の方が若干少ないが手負いの魔物も多いので結果的に戦力はほぼ均衡している。
そこへやや後方からは魔物側には居ない、魔法による援護も加わり…
「…開いた!」
わずかだが前線に隙間が空き、押し広げられていく。
「よし!このまま行くぞ!」
その隙間から前線を抜けて、後方にいるであろう魔物の親玉に向かって俺たちはひたすら前進していく。
『後方に一匹も逃がすな!ここで仕留めるのだ!』
「「オオオォォ!」」
戦いの熾烈さを表す激しい喧騒の中で響き渡る指示、打てば響く合図に魔法が響かせる轟音。
一瞬だけ振り返るとそこには先程よりも激しさの増した戦場があった。
「この戦いで、死傷者が出なきゃいいな。」
誰にも聞こえない声でそんな事を呟きながら前方でどっしりと構えている二本角の生えた牛達を五匹、視界に捉える。
その内の一匹は3メートル近い大きさで艶のある茶色い体毛に覆われたボディ。
そして頭部から生えている鈍く尖った1メートル程の角は強面の表情と相まって強者の風格を醸し出している。
先ほどの戦場でも感電死していた個体がいてその迫力に驚かされたが、そいつはどこをとっても他の個体よりも一線を画する存在だということをはっきりと感じられる。
「こいつがランスバイソンの親玉か…」
「そうね」
しかし応答するアンナは既にランスバイソンは見ていない。
その視界の先に映っているであろうものは確実に牛ではない。
「そしてあいつがこの戦いの元凶よ。」
指差すその先には凶暴な牛を従わせ、その上に跨っている存在がいた。
血に塗れた石棍棒を肩に担ぎ、ザンギさんほどではないが見た目頑丈そうな石鎧のパーツを身に纏った豚と猪の中間みたいな顔つきの魔物…オークがいた。
「恐らくオークの上位種、オークファイターね。」
明らかにそいつは他のボロ布を纏って粗雑な作りの木の棒を振り回している肉付きのいいだけの小物とは違う。
大きさは一般サイズの2メートルと変わらないが、魔物にしては上質な装備に加えて奴の所々壊れている鎧から見える肉体には他のオークの体型と同じになる分だけ筋肉が覆われている。
「グ…グガガ」
アンナの言う、オークファイターが低い唸り声を上げると五匹のランスバイソンは密集し、突撃する陣形をとり始める。
「テツ、行ける?」
「もっと近づかないと無理!」
まだ自分たちとランスバイソンとの距離は10メートル以上離れている。
俺が連れてこられた理由はランスバイソンが使う意思疎通の魔法をかき消す事が目的なはずだ。
それが出来れば群れのボスを倒さなくても連携は崩せるはずだが…俺の霊力を使っての感知ならそこまで消耗せずに10メートル程の範囲まで広げられるけど、魔封じは魔力の濃淡にもよるがせいぜい5メートル以内、ザンギさんの魔圧だと2メートル程が限界だし発動時間も3分も使っていればバテる。
このまま特攻してボスに張り付ければ倒さなくても指揮が出せなくなるだろうけど、それはこの状況と魔封じの特性で色々と厳しい。
まず最低でも5メートル以内という距離をオークファイターが乗っているランスバイソン相手に取り続けて立ち回りつつ魔封じを使うのは…リスクが高すぎる。
というか普通に怖いし、やりたくないんだけどな。
他にも掻き消す魔法に使われる魔力の密度も分からない上に何より俺の魔封じは大気中の魔力にしか作用しないっぽいので肉体活性やら武器強化は消せない。
過去にマルクやアンナの肉体活性と武器強化も駄目だったしな。
ちなみにランスバイソンの連携を崩すために一番わかりやすい方法は群れのボスを倒すことらしい。
と言うのも情報の統括・指揮は全てボスが行っているらしく倒された後は指揮系統が乱れて混乱するかららしい。
それでもこの時期は単体でCランクの相手にしなければならないのはしんどいだろうけれど…
そう考えた所で…役に立つと思い持ち歩いていた秘密兵器一号の存在を思い出す。
「アンナ!これが爆発したら粉末が向こうに飛んでいくように風をお願い!」
「えっ!?それって…ちょっと!?」
袋から取り出したものは思いっきり握り潰して粉末が入った瓶にねじ込んで蓋をした後、突撃してこようとしてくるランスバイソンに向かって投げる。
やや遅れて、投げたものを理解したアンナが追い風を吹かせ始めたタイミングで瓶は空中でいい音を立てて炸裂し粉末の風を吹かせて…
『グギャオオォォォ!!』
いざ突撃しようとする獣達とその騎手に絶叫と暴走をもたらした。
鼻と目に入る刺激物のせいで我を忘れたかのように暴れまわり、同士打ちするかにようにお互いの体をぶつけ合ったり、騎手も刺激の中でその動きについていく事が出来ず落馬…もとい落牛し、顔を手で覆いながらバタバタとのたうち回る。
「名づけて涼甘催涙瓶…ってどうかな?」
「まさかバクレツタケを使って周囲に撒き散らすとはな。」
「…容赦ないわね。」
瓶の中身に気がついたアンナとザンギさんを始め、周りの人達は苦い顔をしながら鼻を押さえている。
涼甘催涙瓶…スポンジに近い感触のボディに強い圧力を加えると膨張しほぼ爆発に近い破裂を起こすバクレツタケを使って涼甘草の種の粉末を周囲に撒き散らす催涙瓶なのだが…いささか凶悪な兵器になってしまった。
作った本人が言うのもあれだけど、使いどころは考えないといけないかもしれない。
そしてその使いどころは今で間違ったなかったと思いたい。
「とりあえずこれなら…抑えられるんじゃない?」
アンナが聞いてきた通り粉末もすっかり風に流されて目と鼻を封じて騎手も引きずり落としたこの状況ならランスバイソンに近づく事も出来る。
出来るのだけど…感知を使ってみると案の定狂ったように暴れまわる群れのボスっぽい奴の全身から魔法、というよりは魔力が周囲のランスバイソンに放たれていた。
…つまり全身を覆う必要があり、そのためには…
「あの牛に密着する必要がありそうだけどな。」
「…やっぱり危険ね。」
「でもここまで来たからにはやるしかないだろ?」
そう言って石の小刀と小さな袋を取り出す。
「あいつは俺が何とかするよ。」
「流石にそれは…」
「一応考えはあるんだ。それよりザンギさん、あいつによじ登りたいから手伝って!」
「…おうよ!」
「俺が登れたら急いでオークファイターを!」
確かに俺自身そんな事やるのは無謀だと思うが…あいつより強いオークファイターが怯んでいる今、優先順位はそっちだろう。
「私達も援護するわ!」
後ろからアンナがと自警団員がバイソンの動きを止める為に魔法を打ち込む。
ゴブリン程度なら一撃で倒せるであろう風刃やら土塊だが、強靭な皮膚には小さな傷は刻むだけで有効打にはなっていない。
だけど…足止めには十分だ。
そのうちにザンギさんは動きの鈍る一瞬を見計らいバイソンボスの二本角を両手で押さえ込む。
そのおかげで飛び乗れるくらいには首がかなり低い位置に来た。
「だらぁ!今だ!」
「ありがとう!」
押さえ込むザンギさんの右側を抜けつつ刃だけ袋に入れていた状態の小刀を左手で構える。
袋に入れていた物によって若干だが刃先が液体で濡れたそれを…バイソンの左前足の付け根辺りを狙って逆手で刺す。
そしてそのままの飛び上がり、足は空中で円を描く軌道を描きながら首に跨り、右手でバイソンの右角を掴んでからから小刀を引き抜くが…
「やっぱり堅いな…」
一応それなりの勢いで刺したのだが刃先から5センチも埋まっていなかった。
しかも丁度そのタイミングでザンギさんが抑えていられなくなり弾き飛ばされるように大きくバイソンと距離をはなす。
直後から上下左右に揺さぶるように振り回され始めたので咄嗟に左手で角を掴もうとして小刀を放り出してしまう。
「テツ!」
「だいじょ…ぶ…」
絶え間なく襲いかかってくる凄まじい衝撃によって喋ると舌を噛みそうになるが、しがみつくことだけなら大丈夫そうだ。
「みんなは、あいつを!」
何とか倒してくれ、そう言いたかったがあまり喋る余裕はないので端折る事にした。
だが言いたいことは察してくれたのか、全員が未だに悶え苦しんでいるオークファイターの方に向かっていく。
その様子を一瞬だけ視界に収めてから目線を下ろしバイソンの顔を見下ろす。
未だに目は開けてはいないみたいだがその表情が、鼻息が、低く鳴らす唸り声が怒りの度合いを思いっきり表している。
これからこんな怒り狂った魔物を一人で相手に取り、勝たなきゃいけない。
…まぁ作戦は考えてはいるし、手は既に打ってある。
さて、ここからが正念場だ!
投稿に間隔が空いてしまい申し訳ありません。
続きの話も書いていますが前後編で終わるかどうか…微妙な感じです。
もしかしたら中編挟むかもしれません。
書きあがり次第すぐに投稿しますので気長にお待ちください。




