二十四話:先制攻撃
響鳴、その魔法が戦闘態勢の合図だと知ってからの行動は我ながら迅速だったと思う。
ザンギさんと急いで酒場から飛び出してから自警団以外のほぼ全員を村の広場に集めて、その中でも各種の魔法が得意な人をあつめて医療班を含む各種支援班を結成した後に自警団と合流する。
この時点で、主に年齢的な意味で弾かれた子どもやら老人を除き実力が無く戦えない者として弾かれるものは殆ど居ない事を今更ながら知った。
魔法が使えれば何かしら出来る、その事を痛感したのだ。
そして村の入口に駆けつけると全体的にやや落ち着かない様子はあるものの一応リーダーのおっさん、ゴノレさんが指揮を取っている所だった。
「…総員!戦えるものは戦闘準備!迎え撃つぞ!」
「「「おぉー!」」」
門の向こうから遥か遠くに見える地平線の一箇所がまるで蠢いている…ように見える気がする。
少なくとも群れで来るだろうから…軽く50体くらいは居るだろうな、落ち着かないのも分かる、俺も落ち着かないからな。
…と門の方を見ていると外から一人、自警団員がリーダーの所に駆けていく。
「敵の状況はどうなってる?」
「村の南部から攻めてきています!数はおよそ200!編成はゴブリンが多数、オークも確認されています!そして…」
呼吸も荒く、早口で捲し立てる様にスラスラと報告、そして一拍置き呼吸を整えてから…
「ランスバイソンが数頭、目撃されました!」
それを聞いて、自分も含めてそこにいる全員が息を呑んだ。
ランスバイソン、そいつはこの王都周りの草原の食物連鎖の頂点ではないが、実質の支配者と言ってもいい魔獣だったはずだ。
名前の由来にも繋がる、鋭く尖って前方に突き出した立派な二本の角がそいつの特徴である。
こいつがこの時期に繁殖の為に縄張りを作りその中では捕食者側もまともに近づかない、近づけない程に凶暴になるらしい。
その凶暴性はと言うと…少し話は逸れるが冒険者ギルドで分類されている、魔物の危険度のランクが大まかにE・D・C・B・A・Sと6段階ある。
その中で個体的な強さならゴブリンは最低のE、オークはD、ランスパイソンは通常はDで凶暴性が高まるこの時期はCランクに入る魔物だ。
Cランクは一般的な冒険者ならば10人も居ればさして苦戦することなく狩れる、というレベルだ。
ただこれは単体であって複数体のものではない。
群れの大きさによってレベルは変わるが番…まぁ成体が二体居れば凶暴性を問わずBランクに分類されるはずだ。
そしてランスバイソンが数頭…それが意味するのは奴らは群れで来ているかもしれない、という事だ。
番以上…つまり群れのランクであるBランクはこれまた一般的な冒険者なら討伐で、最低でも10人必要であり多少の犠牲ないし最悪は全滅も覚悟しなければいけないというレベルだ。
そんな魔物の混成部隊には流石に気が強く血の気の多いと思っていた自警団も動揺しているみたいだ。
そして一人一人の不安と動揺は伝播するように広がり、じわり…じわり…と静かに指示を待つ団員たちの恐怖を煽っていくのが分かる。
そしてリーダー格の経験豊富そうな初老の風格を出すゴノレさんやザンギさんも余裕は無さそうな、張り詰めた顔をしながらさっきと同じ指示を出すが、それでも皆の不安を払拭することは難しくほぼ全員の表情は…暗い。
「おまえら!気合入れろ!」
「でも…ランスバイソン相手じゃ…」
「うん…だよな…」
せっかくの励ましの言葉も士気を上げるには足りないようだ。
というかなぜそこまで弱気になるのだろうか、ちょっと不思議だ。
なんて考えているとそこの状況など知ったことではないと言わんばかりの様子で数人、こちらに駆けてくる。
その方向から聞こえた第一声、自分を呼ぶ声は…アンナの声だった。
「テツ~!テツは…居た!」
先に駆けつけてきた団員同様、全員が息を切らせて走ってくる。
そしてこちらを確認して向かってくる途中でどこか暗い雰囲気を作っていた討伐隊の様子を一瞥、そしてやや困った様子のリーダー達と一瞬だけ目を合わせると状況を察したのか討伐隊のメンバーの方を振り向くと軽く息を整えてから叫ぶように声を出す。
「全員!気合入れなさい!親玉の位置は私たちが確認したわ!」
それは恐らくランスバイソンの事だろうか?
でも既にその事は聞いているので依然として自警団は暗い顔をしている。
「もちろん非常事態だから私も戦うしアレも使うわ!
ランスバイソンに関しては厄介だけどテツの能力があれば取るに足らないわ!」
と俺の肩に腕を回しながら周囲にそう伝える。
おまけにいつの間にか参戦することになっているけれど…力って魔封じの事か?
ランスバイソンに役立つとは一体どういう事なんだろう?
少なくとも自分の今知っている情報の中では必要だとは思えない。
自警団もよく分からないと言うような顔をしてこっちを見てくる。
肩に手を回すアンナの方を見るが軽く膝で小突かれる、察しろと言われてるような感じだ。
…少し納得がいかない。
「ここにこんな小さい子供を前線に出して自分だけ怖気ついて逃げる様な腰抜けはいないでしょうね?」
…かなり納得がいかない。
誰が子供だ!と言おうと思ったけれど肩に置かれた手に徐々に力が入ってきている。
肩へのダメージとここで直らないであろう訂正を求める事のメリットについては考えるまでもない、肩の方が大事だ。
と言う事で諦めて視線をアンナから自警団員たちに戻すと…全員やる気に満ちたような、決意を固めたような顔つきになっている。
皆…俺の事子供だと思ってるのな…。
「なんとしても撃退するわよ!」
「「「おぉー!」」」
ってな感じでアンナは俺の精神力を犠牲にして全員の士気を高めたのであった…。
そしてそれから数分後、自警団員は急ぎで門の前で戦闘準備を進めている。
それっぽく見えていた魔物の群れのような影もはっきりとそう認識できる位に近づいてきている。
そしてその間にアンナは屋敷まで急いで戻りなにやら細長い物を抱えて持ってきた。
「それがさっき言ってたアレか?」
「そうよ」
「へぇ~…」
アンナが両手で抱えるようにもつ物は150センチ程の長さの杖だ。
僅かに…いや、多少俺の身長より短いくらいだからそのくらいの長さなはずだから、間違いない。
デザインは全体的に黄色っぽくカクカクと小刻みに曲がった柄と灰色っぽくて丸く膨らんだ先端部に沈み込もように半透明で黄色い石…が取り付けられている。
思いっきり雲と雷を意識させるデザインの長杖だ。
家宝っぽいし多分これがロッドって家名の元になったんだろう。
「どうしようもなかったとはいえ巻き込んじゃって…ごめんね。」
まじまじと杖を観察しているとアンナが申し訳なさそうな様子で言う。
「どうでもいいけどなんで俺の能力…が必要なんだ?」
「どうでもいいって…私の謝罪はスルーするのね?」
「巻き込んだ事より他にあるだろ?」
「小さい子供って事は絶対に訂正しないわよ!」
「なんでだよ!」
「それよりもランスパイソンの事って前に説明しなかったっけ?」
「…そっちもスルーかよ、二本角と群れで暮らす事しか聞いてないぞ。」
「あぁ…なるほどね。」
ひと呼吸置いてアンナは杖を片手に持ち直す。
「ランスバイソンの群れはね、連携して襲って来るの。」
「連携?」
「そう、魔法の中には近くにいる生き物に思念を飛ばすっていうものがあるのよ。」
そう言って準備している自警団の方に杖の先を向ける、って何をしてるんだか…。
「それを使って攻撃のタイミングを合わせたり隙を埋めたりって事か?」
「さながら突撃槍の部隊のようにね。」
「なるほど…。」
それを知ってたからランスバイソンって聞いたときにああいう反応だったのか。
獣がフルパワーで突進してきて、しかも統率が取れた動きをとって…なんてそりゃあ恐ろしいわな。
んで俺がやるのはその意思疎通の妨害、というわけか。
「アンナ嬢ちゃん!こっちも準備できたぜ!」
「あぁ、ザンギさん…ってザンギさんも参加するの!?」
堅牢そうな黒くて光沢のある石の全身鎧を身に纏い、これまた石の大型剣を背中に担いだザンギさん。
見た目は物凄く重たそうだが…大丈夫なのだろうか?
というか見た目が完全に狩猟ゲーみたいである。
「もちろんよ!アンナの嬢ちゃんに真っ先に怪我させたらウェンの旦那に申し訳ねぇからな!」
「なによそれ!まるで私が怪我するみたいじゃない!」
「安心しろって!衰えちゃあいるがしっかり守ってやるからよ!」
こんな状況でも相変わらず陽気にガハハと笑っている。
ちなみにウェンとはアンナの父親だそうだ。
「お?自警団の準備も終わったみたいだな。」
門の方を見ると武装し終わった団員たちが並んでいる。
ちらりとアンナの方を見ると軽く頷き、団員達の前に出て杖の先でカンと地面を叩いて全員の視線を集める。
さっきまで談笑していた雰囲気が幻想のように消えて、鋭く真剣な、張り詰めた空気を肌で感じる。
そんな中、アンナはすぅ…と大きく息を吸った後
「まずは一撃!行くわよ!」
そう言って杖を高く掲げて意識を集中させ始めた。
すると前方の空に大きな暗雲が生まれ始める。
当然、その方向には魔物の大群が居る。
局地的にだがどんどん大きくなり、またエネルギーが溜まってることを示すように薄く光る雲。
そして限界いっぱいに蓄えたであろうそれを放つ言葉がこの戦いの引き金となった。
「落雷の舞踏!」




