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魔法がある異世界を魔力無しで生きるには  作者: リケル
序章 魔法のある異世界
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二十六話:初めてのボス戦・中編

今回、一応流血表現とかあるのでご視聴に際はご注意ください。


さて…意気込んでしがみつき始めてから暫く経った。


「ぐぅぅ…はぁ…」


集中が切れかけたせいか腕に僅かに感じ始めた疲労を角を握る手の緩みから意識しだす。

もう結構な時間は足止めしたんじゃないかなぁ…と頭に入って来る弱気な雑念もついでと言わんばかりに湧いてきたので呼吸と一緒に吐き出した。

再度気合を入れ直してランスバイソンの角を握る手を込め直し、意識を集中し直して魔封じを持続させる。

ちなみに、これが自分の対ランスバイソン戦における作戦の内容の大部分…いや、ほぼ全てだったりする。

というかそれしか出来る事がない。

3メートル近いバイソンの体を覆える程度で結構な魔力に対しての魔封じだと、ある程度集中しなきゃ維持していられないのに加えて、両手で角にしがみついてるからそれ以上に何か出来る余裕がないのだ。

一応は首に跨っていたが、足を首にまわせない事に気づいて今は背中に張り付いている状態だ。

断じて足が短いんじゃない、あいつの首周りが太いからだ。と心の中で言い訳をしたのは言うまでもない。

おまけにバイソン自身は前後左右上下、特に上に跳ねるように暴れまわってきてくれるので、ただ跨っているんじゃ上に飛ばされるからな。

こっちの体力と集中力をカリカリ削られてきていて、今もバイソンの身体から魔力が波動のような電波のような感じで周囲に出ていくのをかろうじて散らす様な感じで無力化していたりする。

最初の方は魔力自体をバイソンの体に抑えこんでいたが、こっちのSPの消耗はやたらに多い。

ちょっと気だるさを感じ始めたあたりでこの方法を思いつき試してみた所、少ない消費で魔法をかき消せたので採用している。

それでも、体感だけどもう1~2分でこっちのSPがすっからかんになりそうだ。


「ウゴガアァァァ!!」


思っていた以上にこの作業に限界を感じる中、顔を上げている余裕さえもないので今まで見ていなかったが…向こうで戦っているオークファイターだと思われる声が響き渡る。

断末魔って奴だろうか?だとしたら向こうは決着がついたのだろうか?

だとしたら早くこっちの援護をして欲しいな…

なんて考えた一瞬の内にランスバイソンの背中に張り付き、やや暖かい体温を感じていた体が急にふわりと浮いた感覚を味わった後、宙に引っ張られるような感覚を覚える。

…魔力を感知するついでに地上の位置も分かるのだけれども現在、ランスバイソンは地面に足どころか体のどこもついていない。

咄嗟の判断でバイソンの背中に横から蹴りを入れ、その反動で横に跳ぶ。

宙に引っ張られるように働く力…正確には体が逆さになった状態で感じた重力だ。

地面に向かって背面着地を決めた直後に、ズゥン…と音を立てて横十数センチの所に数トンはあるバイソンが落下してくる。


「ゲホ…ゴホ…」


背中を打ち付けた衝撃で肺の空気を吐き出し、むせ返りながらも勢いに任せてバイソンから離れる。

一度背中から離れてしまった上に、下手に近くにいてもバイソンが起き上がる時に巻き込まれる可能性があるからな。

…と思っていたのだが呼吸を整えている間、ランスバイソンはその場から起き上がる様子は無い。

一応もがいてはいるのだが左前足が動いておらず、全体的に動きも遅くなっていっている。


「やっとか…」


小さくそう呟いて、胸を撫で下ろす。

背中から押しつぶそうとしてきたのには驚かされたが、何とかあいつが麻痺してくれてよかった。

ラゴラ草の麻痺性がランスバイソン通用するかどうかがこの作戦の命運を分けていたりしたのだが、無事に上手くいって良かった。

ちなみに作戦内容としては、飛び乗る前に小刀の刃にラゴラ草の根の分泌液をたっぷりと塗って突き刺し、あいつが麻痺するまで耐え続けるという非常にお粗末なものだったりする。

だけどあのラゴラ草…ちょっと麻痺性が強くないだろうか?

あれぐらい強力なら過去に他の誰かが使うのを思いついてもいいと思うのだけれどな。

ちなみに一雫垂らし、布で拭うようにして薄く広げれば人の腕の一本が軽く動かなくなる様な代物なので分の悪い賭けでは無かったと思う。

刃に塗る程度だったが突き刺した左前足と…息苦しそうに呼吸しているところから見るに肺にも多少効果があったんじゃないだろうか?

さて話は逸れたが、後はもう少し待ってから弱りきったバイソンに止めを刺すだけだ。

このまま放っておいても勝手に力尽きるだろうけど、止めは確実に刺して置かなきゃな。

もはや息も絶え絶えで満足に動けそうもないバイソンの頭を動かないように横向きに押さえつけてから木製の長剣を腰から抜き放ち、上から首元に向けて思いっきり突き刺す。

いい素材とはいえ魔法で強化していない只の木だと上手く刺さらないだろうか、と思っていたのだが結構強力な手応えだったが確かに刺さった。

そして力を込めて引き抜くと、狙い通り血管を切れたのか溢れ出るように流れていくモノは周囲の地面を赤黒く染め、そして大地に還るように吸い込まれていく。

それと同時に目に見えて生命力を失っていくランスバイソン、押さえ付けている間は僅かに抵抗があったが血を流し続けている今は微動だにせずただ静かに横たわっている。

最後に大暴れでもするのではないか?と警戒していた分、ちょっと拍子抜けしていたのだが…その一瞬の隙を突くようにその命が尽きる瞬間、今までよりはるかに強い威力で意思を飛ばす魔法を飛ばした。


「くそっ!しまった…」


あの魔法をまさかこの状況で使うと思わなかったのですっかり油断していた。

そして最後の意思を込めた魔力は一切の減衰なく…恐らく戦場一帯にまで響き渡るのを感じ取る。

急いで後方で戦っている自警団の方を見ていると、なにやら小さな一団が戦場から離脱していくのが目に入る。

残っているのはゴブリンとオークの軍団に…シュルツ村の自警団員達だ。

おまけに先程まで周囲にいたはずの四頭のランスバイソンも、その一団を追うようにいつの間にか背を向けて逃走を始めていた。


「あれ?もしかして…」


…あのランスバイソンは撤退を指示したのだろうか?

そう思い既に息絶えたボスランスバイソンの見るが、血に濡れた屍は何も言うことなくただ横たわっている。

最後にこれ以上、群れに被害が出るのを防ぐためだろうけど、これは好都合だ。

これで自警団の方も厄介な敵が減った分、だいぶ楽になるだろう。

そういえばアンナ達の方は終わっただろうか?

さっきオークファイターも叫び声を上げていたし、そろそろ終わっていてもおかしくないんじゃないだろうか?

と思って周囲を見渡してみて気づいたけれど、最初戦っていた所から随分と離れてしまっていたみたいだ。

ランスバイソンにしがみつき始めた時は数メートル先にオークファイターがいたはずだが、気づかぬ内に今は遠くに小さく人影が動いているのが視認出来る程度まで離されている。

んで、遠くから見ている限りだと複数人が戦っている様子が確認できるのだが…


「あれ…?」


筋骨隆々なオークファイターは所々を黒っぽい鎧で覆い、鎧の隙間からは薄い茶の毛と肌を見せていたはずなのだが…遠くから見えるのは姿が若干赤黒く見える。


「とりあえず、向こうに合流するかな。」


見てる感じではまだどこも戦闘は続いているようなので、向こうで戦っているアンナ達の方へ駆けていった。

…出来る事は殆どないけどさ。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


身の丈にほど近い、白硬岩のグレートソードとその半分ほどを血の赤で染めた黒色の石棍棒が交差する。

今出せる全ての力で振るわれた両の武器、そのしかし片方は右手一本で、もう片方は並みの武器なら柄が潰れるのではないかというくらいの力が込められた両の手で振るわれた。

その結果、宙にグレートソードとその持ち主、ザンギさんが飛ばされていた。


「ザンギさん!」


アンナは集中して魔法のイメージを固め、残り少ない魔力を攻撃に当てようとしていたのだが…眼前に広げられたその光景を見て咄嗟に声を上げてしまう。

その為、せっかくイメージが崩れてしまいせっかくの魔法・風刃もオークファイターの体に浅く傷をつける程の威力に落ちてしまう。

そしてその傷も、数秒後には白煙を上げて再生してしまう。


「大丈夫…だ、それよりも、集中しろ…!」


起き上がったザンギさんが声を上げて指示を飛ばすが…たった十数分程度の戦闘で既に皆が皆、満身創痍に近い状態になってしまっているこの状況では大した効果も無いに等しい。

何とかこの状況を打開しなきゃ…心の中でそう思うアンナだがゆっくりとした動作で、でも隙も容赦なくザンギさんに追撃を加えようとしている姿に焦りを隠せない。

そのせいか…どうしてこんな状況に追い込まれているのか?このまま全滅するんじゃないか?といった疑問がちらつき援護の為に再び放った魔法も…もう妨害にすら足りない威力だ。

…オークファイターと交戦し始めてすぐはむしろ優勢だった。

というのもオーク種の殆どは攻撃用の魔法は使わないからだ。

知能的に遠距離攻撃といった物に考えがいかないのか、単純に殴ったほうが強いと考えているのか分からないがとにかく使わないのだ。

だがその代わり、肉体活性(ブースト)の持続時間と使った時の運動性能は人など余裕で吹き飛ばすほど強力になる。

なので一番重量と戦闘経験が豊富なザンギが主に前に出てひたすら防御に徹し、時にカウンターを決めて動きを止めつつ、隙を見つけてはアンナと自警団員が魔法で攻撃をしてチマチマと削っていた。

オークファイターの鎧の隙間から見える身体に段々と傷が増えて緩慢な動きも更に鈍っていき、討伐は目前かと思われた頃…


「ダラアァァ!!」


一瞬の隙を突き、今まで防御に徹していたザンギさんの渾身の一撃がオークファイターを打ち上げ、吹き飛ばす。

身につけていた胴鎧の上からだったので致命傷にはならなかったがその一撃で胴鎧は壊れ、オークファイターの身体の防御ががら空きになる。


「今だ!畳み掛けろ!」


待ってました、というように後方から高威力の魔法がオークファイターを襲う。

大量の火球が飛び交いその身を焼き、風の刃を含んだ旋風が土煙を上げながらがその身を傷つけていく。


「どうだ?」


土煙がやむ頃、満身創痍のオークファイターが力尽きて倒れ伏している…はずだった。

だが棍棒を杖がわりにしてその場に辛うじて立っている状態でオークファイターは生きていた。

今回オークファイターという強敵と初めて戦うアンナ・自警団員は既に勝ちを確信し、過去に戦った事のあるザンギさんは目の前の様子を見て訝しんでいた。


~いくらなんでもタフじゃないか?~


ザンギさんの疑問をよそに、自警団員達は止めを刺そうと魔法を使おうとする。

外さない、確実に当てる。とアンナも自警団員達と、近づいてしまう。

だが、それはこの状況に陥る為の引き金(トリガー)だった。

止めの魔法を放とうとした瞬間、突如それは起こった。


「ウゴガアァァァ!!」


咆哮と共にオークファイターの獣に近い身体にまるでキャンバスに描く様に複数の赤い線状のモノが走り出す。

それと並行し火傷、切創で覆われていた身体と焦げた体毛が徐々に光をも吸い込むような黒に染まっていき、オークファイターから黒紫の魔力がオーラの様に漏れ出す。

そして近くに居た、止めを刺そうとしていた全員が魔法を放つ。

先程と同じ…それ以上の魔力で生成された魔法が再びオークファイターを包む。

今度こそ…そう思っていたが全員、息を飲んだ。


「えっ…」


さっきまで満身創痍だった、茶の肌と体毛は傷一つない漆黒で、全身に紅い血管の様に枝分かれした模様が走っているオークファイターがそこには立っていた。、

そこからは…悪夢の逆転劇が繰り広げられているようなものだ。

まずは呆気にとられたせいで反応が遅れ、咄嗟に防御した自警団員達を片手のひと振りで弾き飛ばした。

この時アンナは間一髪間に入ったザンギさんに守られたのだが、追撃で振られた棍棒を捌ききれずに…左腕に喰らってしまう。

そして現在、腕のひと振りで大打撃を喰らった自警団員の内で何とか動けるものが治癒魔法(ヒール)で手当をし、全員動けるくらいには持ち直したのだがザンギさんと強化されたオークファイターとの戦闘に入れずに皆が魔法で攻撃をしている、という状況だ。

左腕の使えなくなったザンギさんに治癒魔法(ヒール)を使う余裕を当然、オークファイターが与えてはくれない。

治癒魔法(ヒール)はかなり近づかないと使えない上に、重症や骨折などは時間がかかる。

どう考えても前線で剣戟を繰り広げている中に治癒魔法(ヒール)が使える間合いまで入って、左腕が動かせるようになるまで掛け続けるのは現実的ではない、後方に下げる必要がある。

だが左腕が使えない状況のザンギさんの代わりに前線で耐えられるような人材は居ない。

おまけに、どの攻撃も何でもないようにすぐ再生する身体に防がれていて何ら有効打にはなっていない。

効果があるとすれば…落雷の舞踏ダンス・オブ・ライトニングくらいの威力を持った魔法で一撃で絶命させるくらいだがアンナにはそこまでの魔力は残されていない。

おまけに恐怖で塗りつぶされた心では必殺の威力を持つ魔法を発動させるのは非常に困難だ。

高威力の魔法を使うにはかなりの集中力が必要で、攻撃をもらっていないアンナは威力の減衰で済んでいるが、唸り声を上げるだけでほぼ壊滅しかけたと自警団員達は魔法を維持出来ない程に恐怖が染み付いている。

辛うじて戦線を維持できているが、体力が尽きてザンギさんがやられてしまえば崩壊するような…かなり絶望的な状況である。






そして…そんな状況に鉄信は合流した。



結局長くなりすぎて中編挟むことになりました。


下手したら後編で終わらないかも…?

…ごめんなさい、嘘です。後編でしっかり終わらせます。

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