↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
57/58

57 黒い馬車

「え……レオンさまが、王族」

 私はカタカタと震えていた。

 そんな方に魔法陣制作の協力を仰ぎ、一緒にエルツベルク領にまで足を運んでもらったのか。

 その上、危険な鉱竜との戦いにも巻き込んでしまった。


「リディアさん?」

 大きな青い目で覗き込んでくるアデレイドさまにも気づかない。

 私は口を少し開け、わなないていた。


「あの、だって……レオンさまは子爵家の方で」

「ええ、王族と知られると自由に動けないからと、子爵家を名乗っているのですわ」

 真っ青になっている私を、アデレイドさまは市場の隅まで連れて行って下さった。

 石の椅子に座らせて、ちょっと待ってて下さいなと飲み物を買いに行く。


(レオンさま……レオンさま!)

 どうしてこんなに胸が騒ぐんだろう。

 私はハンカチを取り出して、顔に当てた。

 熱いものが溢れ出す。それが何なのか、自分でもわからない。


 その時、黒い影が近づいて来たのに、私は気づいていなかった。



「きゃあ!」

 背中から何かにガッシリと捕まれ、ふわりと体が宙に浮く。

 思わず叫び声が口から漏れる。


「ようやくお会い出来ましたね、リディア嬢」

 耳元で囁いた声は、聞き覚えのあるものだ。

 私はビクリと体を震わせ、ゆっくりと振り返る。


「ぶ、ブルクハルト・ライアーさま……」

「そう、あなたのブルクハルトです。お迎えに上がりました」

 言葉遣いは丁寧だけれど、低い声で威圧するような色が混じっている。


「何のことです。知らせなど受けていません」

「もちろん、私の花嫁としてお連れしに参ったのですよ。ずっとあなたが学院から出て来るのを待っていたのです」

 一度私を下ろし、横抱きにする。

「研究室も訪ねたのですがね。中に入れなかった。全く忌々しい」


 先生が施してくれた魔法陣だ。許可した者しか入れない。

 魔石の盗難対策だと思っていたあれが、私を守ってくれていた。


「しかしそれも今日でお終いだ。あなたは私と結婚するのですから」 

  

 通常、貴族の娘の結婚は、学院を卒業してからだ。

 私はまだ15歳、そんなに若いうちから結婚をするなど、今の時代に聞いたことがない。

 しかも私は特別研究員になっている。手当がもらえるのだ。

 学院を中退してしまっては、その恩恵も受けられない。


「学業のことを心配しているのなら大丈夫。王都の私の屋敷から通えば済む話だ。存分に研究にも打ち込める」

 この人は、一体何を言っているのだろう。

 理解が出来ない。

 なぜそんなに急いで結婚をしたいのか。


「離して! 結婚なんてしません」

「ハハハ。嫌がる姿も愛らしい。さぁ参りましょう」

「嫌――!!!」


 私は抵抗した。

 足をバタつかせ、腕を振る。

 けれど熊のように大柄なこの男は、ビクともしない。

 誰か、誰か、助けて! ――レオンさま!


「おいっ! 貴族の娘がさらわれるぞ」

「人さらいだ」

「ちっ。花嫁を迎えに来ただけだと言うのに」

 ブルクハルトはそう吐き捨てると、私を抱えて走り出す。


「えっ、あっ! リディアさん? 大変ですわ」

 雑踏の中にアデレイドさまの声が聞こえた。

「お嬢さま、わたくしが」

 侯爵家の騎士さまが、追って来る。


「おい、出せ」

「はっ!」


 真っ黒な馬車に詰め込まれ、さらわれてしまった。

 ガタガタと揺れる乗り心地の悪い馬車の中で、息も吸うことが出来ない。

 馬車を引く馬の蹄の音だけが、やけに甲高く響いている。


 私は体を震わせながら、恐怖に竦んでいた。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。


よろしければ、続きを読んでいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。