55 鉱竜戦4 勝利の代償
私はあの後気を失い、目を覚ました時には馬車の中だった。
「あ、リディアさん、気づかれたのですね」
アデレイドさまの心配そうな顔が覗き込んでいる。
「あ……私、えっと」
「倒れられたんですのよ。多分、力の使い過ぎですわ」
アデレイドさまはそう言った。
そうなのか。
大きな渦に意識が飲み込まれ、その後のことを覚えていない。
「レオンさま、レオンさまはどうなりました!」
ハッと気づき、慌てて起き上がった。
「彼は大丈夫ですぞ。心配召されるな。他の騎士たちも皆無事ですな」
先生も一緒に馬車に乗っていた。
「外は――」
窓から外に目を向けると、雨が降っている。
何か、おかしい。雨の中に別のものの臭いが混じっている。
「あ、まだ外に出てはいけませんわ。鉱竜が爆発したんですの。その血肉が雨に混じり、落ちてきているようなんですのよ」
えっ……
私は絶句した。
鉱竜が、爆発。血肉が雨になって降っている――って!
黒い雨が降っている。血と煤が混じり合ったどす黒い水だ。
白かった道は汚れ、異様な臭いが漂っていた。
「ああ、魔法陣が」
ずらりと並んでいた魔法陣は、叩きつけられる雨によって崩されていた。
きっと雨が止む頃には、跡形も残っていない。
ただ紙くずが、地面にへばりついているだけだろう。
「この点は、改良が必要ですな」
紙製では弱すぎる。
雨で崩れる魔法陣では、野外に設置できない。
火の魔石――熱を集めるものならば、まだ温泉の建物を使えば大丈夫かもしれない。
けれど光を集める魔法陣には、致命的な欠陥だ。
「もうひとつ、玄武岩にも魔法陣を刻んだんです」
ルーカスお兄さまに渡した物だ。
その魔法陣は、鉱竜の高温の体熱を集めるためのものだった。
口から体内に入れば、熱が魔法陣によって集められ、体内の魔石へと流れ込む。
その結果、動けなくなるのではと考えたのだ。
「ルーカスさまは水魔法を叩き込んでいましたわ。それが体内の火の魔石と反応して――爆発した」
過剰に集められた魔力は超高温となり、水を一瞬で水蒸気へと変えた。
爆発的に増えた気体は密閉された体内で行き場を失い――破裂する。
「すごい戦法ですな。私でも考えつきませんでした」
これは、偶然の産物なのか。
いや……違う。
水魔法使いの兄は、熱を利用して爆発させることを、咄嗟に思いついたのだろう。
ひときわ強い雨が通り過ぎた。
雲が流れ、青い空が広がっていく。
「さ、魔石を回収しますわよ」
アデレイドさまが立ち上がった。
御者をしていた騎士に手を取られ、馬車から降りる。
先程までの臭いは消えていた。
強い雨が洗い流してくれたのだろう。
「んまっ! 火の魔石がこんなにたくさん」
「ほうこれは! ほとんどの魔石に魔力が満ちていますな」
足元の魔石を手に取ると、赤く光り輝いていた。
その深い色は、かなりの魔力を蓄えたことをうかがわせる。
私たちは木箱に魔石を詰め、馬車に積んで学院へと向かった。
「先生、レオンさまはどうされるのですか」
「第三騎士団の後始末がありますからな。まだ時間は掛かりますぞ」
「心配いりませんわ。御自身の馬車で戻られるでしょう」
レオンさまの馬車は途中で分かれ、作戦が行われた谷底へと続く道に向かって行った。
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