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54 鉱竜戦3 炎を奪う魔法陣

「レオンさまですぞ!」

 先生が叫んだ。


 この金色の光――王族の魔圧が、レオンさまのものなのか。


 谷底から熱風が吹き上がってきた。

 ズシン、と響く重い足音が、谷全体を揺らす。

 空気が震え、大地が戦慄いている。


 グギャアアアアア!


 鼓膜が破れるほどの咆哮が響き渡った。


「だ、大丈夫ですわよ。ここは高さがあるから――」

「鉱竜の目的は谷底の騎士たちですぞ」

 岩の端から身を乗り出し、谷を見下ろす。

 第三騎士団が扇形に陣を組み、巨大な魔獣と対峙している。

 あれが、あの魔獣が鉱竜か!


「レオンさま!」

 先頭の人物から金色の光が滲み出し、鉱竜を引き寄せている。

 その姿は間違えるはずもない。いつも私に笑い掛けて下さるレオンさまだ。


「鉱竜が動きますぞ!」

 巨大な首がゆっくりと持ち上がる。

 口を開いた瞬間、焼けた空気が一気に吸い込まれ、胸を大きく膨らませた。


「レオンさま!」

 もう一度彼の名を呼んだ。

 嫌だ……嫌だ! 焼かないで!

 あの人を、私を助けてくれた、レオンさまを!


 私は這いつくばっていた姿勢から、無理やり身を起こした。

 背後の岩の地面には、魔法陣が並んでいる。

 私たちが作り上げたものだった。


 インクの材料を集め、配合を模索した。

 何回も魔法陣を書き直し、効果を計算して設計していく。

 一枚一枚印刷し、重ね合わせ、組むことで威力を増していった。

 皆の力を合わせて、ここまで積み上げてきたんだ!


 魔法陣は円状に配置され、補助魔法陣によって向きが固定されている。

 標的はただひとつ、――鉱竜だ。


「動いて!」

 私は叫んだ。

 声は山々に響き渡り、鳥たちが一斉に飛び立った。


 魔法陣は沈黙したままだ。ただ風に煽られて、紙がはためいているだけだ。

「リ、リディアさん……」

 不安そうなアデレイドさまの声が耳に届く。

 早く、早く! でないと――。


 私はひとつ深呼吸をしてから、そっと歌い始めた。


『天から光が舞い降りる

 山は火を噴き赤い川が流れ出す

 恵みの水は大地を潤し

 木々はやがて豊かな実りを与えるだろう』


 私は踊るように回りながら、口ずさむ。

 炎の魔法陣と一体となり、大きな渦を描いていく。


 チカリと赤い光が灯り、魔法陣全体が輝き始めた。

 それはゆっくりと動き出し、風を生み出す。

 空気が巻き上がり、視界が歪んでいく。


 視界の端に、心配そうな先生とアデレイドさまの顔が映っていた。


 赤い光が渦を巻き、竜巻のように立ち上がる。

「はああぁあああ!」

 その力を鉱竜に向かって解き放った。



「なんだ、どうした!」

「鉱竜を、赤い風が包んでいる」

「見ろ! 鉱竜の体表の炎が薄れていく」


 鉱竜に狙いを定め、炎を奪い取る力が襲い掛かる。

 赤く輝いていた体が、みるみる黒ずんでいく。


 グラリと鉱竜の体が傾いた。

 

「今だ、魔法を放て!」

「はっ!」

 再度、土魔法が放たれる。


「グランド・パイルバンカー!」

 巨大な岩の杭が、鉱竜の腹に突き刺さった。

 先端が深々とめり込み、巨体が一瞬沈み込む。


「やったか!」

 閉じられていた鉱竜の目がカッと開き、攻撃をした土魔法使いに向けられた。

「うっ。危険だ。退避しろ!」

 団長の合図で陣形が緩み、騎士たちは一斉に後退する。


「防御だ」

「ウィンド・シールド!」

 間一髪、襲い来る炎が防がれた。

 けれど鉱竜はすぐさま大きく息を吸い込む。


「投石準備、目標は鉱竜の口だ!」

 若く張りのある声が響き渡る。

 ルーカスお兄さまの声だ!


「放て!」

 動きの鈍った鉱竜に向かって、魔法陣が描かれた岩が放たれた。

 ゴウ、と風を切る音とともに投石機から射出されたそれは、真っ直ぐに鉱竜の口へ飛ぶ。

 狙い違わず、口中へと叩き込まれた。


 一瞬、鉱竜の動きが止まった。

 何が起こったのか、理解していないのだろう。

 しかしすぐに首を動かし、ゴクリと岩を飲み込んだ。


 巨大な尾が周囲の岩を蹴散らす。

 丸太のような腕が、岩壁を突き崩す。


「退避、退避ー!」

「距離を取れ」


 しかし、鉱竜の動きがピタリと止まった。

 赤い光が胸に集まり、逆に手足は岩のように色が抜けていく。


「水魔法だ。口に向かって放て!」

 騎士たちの魔力が、ルーカスお兄さまへと集約される。

 次の瞬間、一気に魔力が放出され、巨大な水流となって噴き出した。

 まるで、大蛇だ。水の魔法はうねりながら、鉱竜の口へと叩き込まれる。


「おい、様子がおかしいぞ」

 鉱竜の腹が膨れ上がり、今にも破裂しそうなほど膨らんでいた。


「風魔法、土魔法、再度防御だ! 衝撃が来るぞ!」

 団長の鋭い声が谷中に響き渡る。

 空気が固まり、まるで時間が止まったように静まり返った。


 その直後、鉱竜の巨体が轟音とともに内側から弾けた!


 鉱竜の体内から膨大な蒸気が吹き上がる。

 それは空へと昇り、雲と混じり、雪と雨を呼び込んだ。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。


よろしければ、続きを読んでいただけると嬉しいです。

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